「ごちそうさまでした。こんなにおいしい食事は久しぶりなので、とても嬉しかったです。」
タッドはミリアリアの素直な言葉に、相好を崩した。
「お茶を用意させよう。コーヒーと紅茶、どちらがいいかね?」
ミリアリアは立ち上がった。
「お茶でしたら私がやります。
何から何までお願いしてしまうのは心苦しいので、何かさせて下さい。」
この部屋に入った時、隅のスペースに一式用意がされていたのを目に止めていたのだ。
「…では、お願いしよう。私はコーヒーを。」
「はい。」
ミリアリアは手際良くコーヒーの準備をした。
用意されていた豆がクリスタルマウンテンだった事に、ミリアリアは内心苦笑する。
道理で、この豆がディアッカのお気に入りのはずだ。
「どうぞ。お砂糖とミルクはどうされますか?」
「いや、どちらも結構。ありがとう。」
ミリアリアは自分の分のカップを手に、タッドの向かい側に腰をおろした。
タッドはカップに口をつけ、微かに目を見開いた。
「…あの、何か…?」
口に合わなかっただろうか?いつもどおりにしたはずだけど…。
心配になったミリアリアは、おずおずとタッドに問いかけた。
「…いや、驚いた。」
「え?」
「エルスマン家の味にそっくりでね。ディアッカの教えかな?」
ミリアリアの頬が赤くなった。
「教えてもらった訳ではありませんが…。
気に入って頂けたなら嬉しいです。」
「上出来だよ。ありがとう、ハウ報道官。」
改めて名前を呼ばれ、ミリアリアは空気が変わるのを感じてタッドの顔を見た。
「少し、昔話を聞いて頂けるかな?」
ディアッカと同じ紫の瞳が、じっとミリアリアを見つめた。
「はい。お願いします。」
ミリアリアは背筋を伸ばして座り直す。
碧い瞳がタッドを見つめた。
「ディアッカの母親と私は、彼が2歳の時に離婚してね。
その後、彼女はコペルニクスに移住した。
そしてそこで、ブルーコスモスのテロに巻きこまれて死亡した。」
ミリアリアは愕然とした。
ディアッカから母親の話は殆ど聞いたことがなかったが、彼が小さい頃に亡くなったという事だけは聞かされていた。
「…彼女は、科学者でね。遺伝子の研究をしていた。
医師である私とは、メンデルの研究施設で出会ってね。
私は彼女のひたむきな姿に惹かれた。
彼女もまた私に好意を抱いてくれて、そしてディアッカが生まれたのだ。」
ミリアリアは頷いた。
「ただ、彼女は母親であると同時に、有能な科学者でもあった。
第一世代同士とは言え、コーディネーターの妊娠、出産は母体に大変な負担がかかる。
彼女はディアッカに、可能な限りの遺伝子調整を施した。
その上で、コーディネーターでは珍しい、自然分娩を希望したのだ。」
タッドの顔が僅かに曇った。
「ディアッカに対する、彼女なりの愛情表現だったのだろうね。
試験管で育てるより、自分の体の中で育てたい。
彼女はそう言っていたよ。
しかし、それは並大抵のことではなかった。」
「…妊娠の経過が、あまり良くなかったのですか?」
「…そう、だね。彼女の体はディアッカを産んだことで、ボロボロになった。
時間をかければ回復も見込めたが、別の問題が彼女の精神に追い打ちをかけてしまった。」
「別の…?」
ミリアリアは首を傾げた。
「出産後の検査で、ディアッカは通常のコーディネーターと比べても生殖機能が低い事が分かったんだ。」
ちょっとだけ、重い…かな?次は長くなりそうです。
2014,6,13up