10,求婚 1

 

 

 

「ミリアリア・ハウ様ですね?」
きっちり1時間半後、タッドが寄越した迎えの車にミリアリアは乗り込んだ。

 

と、バッグの中で携帯が震える。
画面を見ると、ディアッカからだった。
ミリアリアは少し考えると、運転士に断り通話ボタンを押した。

 

 

「はい、もしもし」
『ミリィ?俺だけど!今いいか?』
「…ええ。どうしたの?」
『親父にもう会ったのか?』
直球すぎる婚約者の言葉に、ミリアリアの口元が綻ぶ。

 

「ええ。さっきまで領事館にいらっしゃっていたわ。」
『…そう、か。その…何か、言われたか?』
「どういうこと?ディアッカ、お父様に、私のことを何か話したの?」
『いや。輸血の時に一度話したけど、お前個人と分かる話はしていない。
さっき俺が連絡を入れた時には、もう領事館に向かう車を待ってるとこだったから…。』

 

ということは、エルスマン氏はミリアリアの情報を独自のルートで手に入れた事になる。
氏の立場をもってすれば、その程度は軽いことだろう。
ミリアリアはそう考えながら、ディアッカとの会話を続けた。

 

 

「ディアッカ、仕事は?」
『お前ね、休憩くらいさせろよ。それでなくても、気になって何も手につかねぇのに』
「…そう。私はこれから、エルスマン議員と会食の予定なの。今は迎えの車の中よ。」
一瞬の沈黙の後。

 

『はあぁぁぁぁ!?』

 

ミリアリアは、端末が壊れそうなディアッカの大声に、耳から携帯を離して顔を顰めた。
「だから。今、迎えの車の中。もう少ししたら、電話に出られないと思うからそのつもりでいてね。」
『おいっ!ちょっと待てって!』
「なによ?」
『俺も行く!どこに向かってるんだ?!』
「…さぁ?ただ食事に誘われただけだもの。
そもそも、プラントのどこに何があるか、私はまだ知らないし。」
『お前…なんでそんなに落ち着いてるんだよ?』
「今さら取り繕っても仕方ないもの。そうじゃない?」
『…とにかく、俺も行く。俺たち二人のことだろうが!なんでお前だけが親父と話す必要がある?』
「何言ってるのよ!仕事中でしょ。」
その時、ピピピ、と端末から警告音が鳴った。

 

「ごめんなさい、電波が届かない場所に行くみたい。切るわね。」
『ミリアリア!待てって!』
「大丈夫よ。後でちゃんと連絡するから。私を信じて、ね?」
そう言って、ミリアリアは通話を切った。

 

「もうすぐ、到着いたします。」
通話をやや強引に終え、溜息をついたミリアリアが運転士の言葉に顔を上げると、そこはなんと。

 

 

ザフト軍本部だった。

 

 
「驚いたかね?」
豪奢な部屋に招き入れられたミリアリアは、素直に頷いた。
「…はい。軍本部にこんな場所があるんですね。」
タッドはおかしそうに笑った。
「どうせ息子から連絡が行ったのだろう?
灯台もと暗し、という諺を知っているかね?」
「…確かに、まさかこんなに近くにいるとはきっと思わないでしょうね、彼も。」
ミリアリアは思わず笑顔になった。
さすが父親、ディアッカの行動をしっかり見越している。

 

「さて、食事を運ばせよう。座って寛いでくれたまえ。」
タッドはミリアリアを案内して来た運転士に頷いた。
サッと運転士がドアの向こうに消え、程なく食事の準備が整う。

 

「いただきます。」
ミリアリアはパンを口にした。
「…美味しい」
「ザフトの調理人は、なかなかの腕前でね。
兵士達にもとても評判が良いらしい。
…ディアッカに今度聞いてみるといい。」
タッドは優しく微笑みながら、フォークを手に取った。

 

食事は、至って和やかに進んだ。
タッドはミリアリアの学生時代の話を聞きたがった。
ミリアリアはいつしか緊張も解れ、電子工学の話やスキップの話、カレッジの話を聞かれるまま答えていた。

 

 

 

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