「アスランは、この先どうするつもりなのかしら。」
ディアッカと久しぶりに体を重ね。
なかなか気怠さがおさまらないミリアリアはディアッカに抱き寄せられたまま、狭いベッドでぽつりと呟いた。
「なに?この状況で他のオトコの話するわけ、お前は?」
「もう…なんですぐそういうこと言うのよ…相手はアスランよ?」
「アスランだろうが何だろうが、関係ねぇの。」
少しだけ不満げな様子のディアッカの腕の中で、ミリアリアは唇をとがらせた。
「カガリは、アスランのこと嫌いになったわけじゃないもの。自分の立場と国のことを考えて、あの時はああするしかなかったのよ。」
「まぁ、そうかもしれねぇけどさ。」
ディアッカは頭の下に腕を組み、仰向けになると天井を見つめた。
ミリアリアはそっとその逞しい体に寄り添う。
「あいつ、今はどこの人間なんだろうな。
こないだまでザフトの赤服で特務隊、んでスパイ容疑で逃走って聞いたと思ったらジャスティスの新型で現れて、今はオーブの軍服着てさ。
そういや、一緒に連れて逃げたミネルバのCICだっけ?あいつはザフトの軍服着てたよな。」
ミリアリアは、人懐っこい赤毛のツインテールを思い浮かべた。
「メイリンは、半分巻き込まれたようなものだから…」
「だとしても、さ。俺もイザークも、あいつがどうしたいかなんてわかんねぇし、聞いてもねぇからなぁ。」
ミリアリアは意外そうな顔をした。
「友達でしょ?そういう話、しないの?」
「友達、ねぇ…。まぁ、今はそういうことになんのかな?」
「え?違うの?」
ディアッカは複雑な笑みを浮かべると、ぽつぽつと語り始めた。
「俺たちは同期で。アカデミーを出て割とすぐ、クルーゼ隊に配属された。
イザークとアスランはしょっちゅうぶつかってたし、まぁ俺は傍観してただけだけど、そんな奴らが同じ隊に配属されてもそうそう仲良くなんてなんねぇよ。」
「そういう、ものなの…」
「そ。そういうもんなの。」
話を打ち切るようにそう言うと、ディアッカはミリアリアを腕に抱え込んだ。
「それより、お前これからどうすんの?」
「え?」
「オーブの報道官になったんだろ?住むとことか決まってんの?ハウ三尉?」
ミリアリアは目を丸くし、くすくす笑う。
「変な呼び方しないでよ。…領事館の建物内に、とりあえずの宿舎が用意されてるみたい。
カガリには感謝しきれないわ、ほんと」
「…そうだな。結果的にお前がプラントに残る理由をくれたんだもんな、あいつ。」
そうディアッカが言うと、ミリアリアは眉を上げて心外そうな顔をした。
「カガリがくれたのは理由じゃないわ。居場所、よ。」
「…居場所?」
ミリアリアは暖かいディアッカの胸に頬を寄せた。
「私がここに残る理由は、ディアッカと一緒にいるって決めたから、でしょ?」
「あ…」
ぽかんとするディアッカを見上げ、ミリアリアはまたくすりと笑った。
「ディアッカが、一緒にプラントに行こうって言ってくれてすごく嬉しかったの。
でも、実際そうなってみるとやっぱり少しは不安もあったわ。」
「…うん」
ディアッカはミリアリアの髪をゆっくり撫で、話の続きを待つ。
それが心地よくて、ミリアリアはディアッカの胸で目を閉じた。
「プラントに着いてもなかなかディアッカと話が出来なくて、先が見えない不安にほんとはちょっと焦ってたのよね。
そんな時、カガリから報道官の話を貰って、すごく嬉しかったの。
ディアッカとのことも、よかったな、って言ってくれて。」
「姫さんが?」
ディアッカは目を丸くした。
「うん。だから、カガリの気持ちを思うと、アスランのことがどうしても気になっちゃって…」
ディアッカはミリアリアの細い体を引き寄せ、その髪に顔を埋めた。
「アスランに、今度それとなく聞いてみるよ。」
「え?いいの?だってさっきは…」
「気になるんだろ?姫さんとアスランのこと。」
「…うん。じゃあ、もしそういう機会があったらでいいから。ありがとう、ディアッカ。」
「ミリィは、優しいよな、ホントに」
そう言って頬に口付けると、ミリアリアはくすぐったそうに首を竦めた。
「優しくなんてないわよ。普通だと思うわ。
それに…、似てるんだもの。私達。」
ディアッカは不思議そうな顔をしてミリアリアを見つめた。
「似てる?」
「…そりゃ、私とカガリじゃ立場が全然違うけど、その、好きになった相手が、コーディネーターってところとか…」
「…そ、か。そうだな。」
てことは、俺とアスランも似てるってことか。
ディアッカは内心そう考え、くすりと笑った。
「なに笑ってるの?ディアッカ」
堪えきれずくすくすと笑い出したディアッカを、今度はミリアリアがきょとんと見つめた。
「…いや、てことは俺とアスランも似てるのかなって思ったら、ちょっと…」
ミリアリアはしばらく考え、残念そうに眉を下げると深く溜息をついた。
「…イザーク、きっと胃に穴が空くわ…」
その言葉にディアッカはひとしきり爆笑し、そんなディアッカを見てミリアリアも笑った。
「なぁ、一緒に暮らさねぇ?」
やっと笑いの発作が治まったディアッカが、シーツごとミリアリアを抱き寄せ、耳元でそんなことを囁いた。
ミリアリアは驚いて、ディアッカの胸から顔を上げる。
「そういえば、ディアッカ、どこに住んでるの?」
「ああ、任務で帰れない時もあったからザフトの寮にも一応部屋はあるけど…アプリリウス市内にもアパート借りてるぜ?
お前と暮らすならそっちになるな。部屋もそっちのが広いし、基本俺はそっちに帰ってるし。」
ミリアリアは言葉が見つからず、ディアッカをぼんやりと見つめた。
「…えーと、ミリィ?」
「…ごめん、状況について行けてないわ私。ちょっと待って。」
そう言って難しい顔で考え込むミリアリアを、ディアッカはおかしそうに見ている。
「えっと、まず、ディアッカのお父様に会って、それできちんと結婚を認めてもらって。
…それからじゃない?一緒に住むのって」
「認めてもらうも何も、当人同士が結婚に合意してんだし、いいんじゃねぇの?」
「…そう、かもしれないけど。でも、明日ディアッカのお父様に連絡を取って、それから考えるわ。」
「えー。早く一緒に住みたい。毎日こうやって一緒に寝たい。」
そんな拗ねたような口調のディアッカの唇に、不意にミリアリアのそれが重なる。
意表を突かれ目を丸くするディアッカに、ミリアリアはいたずらっぽい笑顔を向けた。
「これからはいつだって会えるでしょ?プラントにいるのよ、私。」
そう言って今度は、ディアッカの額にそっとキスをする。
「もう、寝ましょ?疲れたでしょ?」
まるで、母親のような優しい声。
早くに母親を亡くし、そういった存在に縁のないはずのディアッカに、ミリアリアの声はなぜか懐かしい温かさを感じさせた。
今まで感じたことのない安心感と愛しさに包まれながら、ディアッカは大切な婚約者の細い体を今度こそしっかりと抱き締める。
「…おやすみ。好きだよ、ミリアリア」
「おやすみなさい、ディアッカ。大好きよ」
そうして、どちらからともなく唇を重ね。
二人は、気怠い体を寄せ合い目を閉じた。
ディアッカを癒すのは、ミリアリアの、母性。
2014,6,13up