2, 友達

 

 

 

 
待ち合わせ場所に現れたミリアリアは、白いコートに黒のニットワンピース、足元は茶色のロングブーツという出で立ちだった。
レッスン帰りなのだろう。大きな荷物を抱えている。
 
「ごめんなさい、お待たせしました」
「いや?俺も今来たトコ。んじゃ行こっか」
「え?あの、どこに」
「言ったじゃん。お礼したいってさ。あ、荷物貸して」
 
流れるような動作で重そうなバッグに手を伸ばすと、なぜかミリアリアはぶんぶんと首を横に振った。
「いえ!あの、ごめんなさい、自分で持てますから大丈夫ですっ!」
「…へ?あ、そ、そう」
丁寧ながらもきっぱりと示された拒絶の意に拍子抜けしたディアッカだったが、気を取り直して予約しておいた店へとミリアリアを伴い歩き出した。
 
 
***
 
 
「美味しい…!」
そう言って目を輝かせるミリアリアは小動物のようで、ディアッカはつい笑顔を浮かべた。
有機栽培の無農薬野菜を使った料理が売りのカフェテリアは、平日ということもありほどよく混んでいた。
 
「ここ、結構バレエとかダンスやってる人間には人気あるんだ。味もそこそこ、それに体にも良いし?」
「へぇ…詳しいんですね、エルスマンさん」
「あー、ディアッカでいいって。俺もミリアリアって呼ぶから。あと敬語はナシ」
 
そう言ってにっこりと微笑むと、ミリアリアもまた小さく微笑み、頷いた。
それだけで胸が高鳴ってしまう自分は、本当にどうしてしまったのだろう。
 
「ミリアリアってさぁ、いつからバレエ始めたの?」
「え、と。中学生から、かな。親友がずっと習ってて、その影響で。今度のオーディションも彼女に勧められたの」
「ふーん。その子も受けんの?」
「ううん。彼女はもうオーディションを通過したから」
 
細い体に似つかわしくない大きな荷物にちらりと目をやり、ディアッカはこの後の予定について思いを巡らせた。
と、肩を叩かれ振り返る。
 
 
「ディアッカじゃない。久しぶりね」
「あー…久しぶり」
 
 
高速で脳を回転させ、女の名前を弾き出す。
確か二ヶ月くらい前までちょくちょく遊んでいた女だ。少しばかり独占欲が強く、辟易して何かと理由をつけ誘いを断り続けていた女。
無事フェイドアウト出来たと思っていたのに、まさかこのタイミングで再会するなんて。
 
「かわいいガールフレンドね。なんだか珍しいじゃない」
「…まぁね。かわいいからあんまり連れ歩きたくなくてさ」
 
ぽかんと成り行きを見守っているミリアリアに一瞬剣呑な目を向け、女は妖艶に微笑んだ。
 
「そう。なら私は邪魔者ね。また連絡するわ。それじゃ、連れがいるから」
「ああ」
 
どうやら今日のところは諦めてくれたらしい。
遠目にもわかる上質なスーツの男にしなだれ掛かる女を見届けたディアッカはほっとしながらミリアリアに向き直り──ぎょっとした。
いつの間に食べ終えたのか、目の前の皿を空にしたミリアリアがコートを手にしてまさに立ち上がろうとしていたからだ。
 
「ちょっ!な、なにやってんの?」
「……私の方がお邪魔な感じだから。食事、美味しかったです。これ代金…」
「だっ!いや待てって!話くらい聞けよ!それにまだデザート来てないし!な?」
 
必死で引き止めるディアッカの顔をまっすぐに見つめたミリアリアは、はぁ、と小さく溜息を吐き、再び腰を下ろした。
 
 
 
 

「んじゃ改めて、乾杯」
 
そう言ってちりん、とグラスを合わせる。
あれから必死でミリアリアに弁解し、どうにか誤解は解けた。
あの女はただの──いや、少しばかり親密な時期もあった“友達”で、今は疎遠になりつつあること。
断じて恋人ではなく、そうなるつもりもないということ。
初めはあからさまに疑いの目を向けていたミリアリアだったが、冬だというのに汗をかきながら弁解する姿がおかしかったのか、デザートが運ばれてくる頃には笑顔を見せてくれた。
そして、自分も代金を払うと言い張るミリアリアを宥めつつ支払いを済ませた後、次は割り勘で、という条件付きでやってきたのがこのバーだった。
 
「ミリアリアは酒、強いの?」
「うーん、どうかしら…でもお酒は好きよ。ビールは苦手だけど」
 
度数は強いが口当たりの良いカクテル──チェリーブロッサム──を飲みながら、舌がお子様だから苦いのはダメなの、と笑う顔につい見惚れてしまう。
 
「あー、なんか分かる気がする。ミリアリアはビールって感じじゃないよなぁ」
「それは子供っぽい、ってことかしら?」
 
ちらりと睨まれ、ディアッカは慌てて首を振った。
 
 
「そんなんじゃないって!何ていうかその…か…」
「え?」
「かわいい、から、さ。なんか」
 
 
きょとんと目を丸くしたミリアリアの顔が、次の瞬間ぱぁっと朱に染まった。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 
お待たせしました。三話目です。
初デート、と言っていいのかこの状況(笑)
このネタは長くなってしまいそうなので、一旦ここで切りました。
長編と違い、こっちのミリアリアはお酒ちょっと弱めです。真面目なのは変わらずですが。
そしてディアッカはやっぱりモテモテです(笑)

 

 

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2017,8,24up