55, ドアの向こうに 1

 

 

 

 
ミリアリア達がセリーヌと対峙していた頃、ディアッカとラスティは不明艦の近くに到着し、身を潜めていた。
イザークからはつい先刻最後の通信があった。
 
 
『5分後に奇襲を開始する。まずはハッチ付近を狙う。お前達はそこから侵入してミリアリア達を救出、直ちに脱出しろ。』
「了解。脱出時の機体の確保は?」
『ラミアス艦長の話では、ミリアリアがあの艦に向かった際に使われたシャトルが格納庫にあるのではないか、と言う話だ。可能であればそれを使い、二手に分かれて脱出しろ。
ラスティ、操縦は出来るな?』
「ああ。何ならMSも行けるぜ?」
『大層な自信だな。…お前は宇宙自体久し振りだろう。抜かるなよ。』
「…ああ。ヘリオポリスの二の舞にはならないぜ。」
 
 
背後でくすりとラスティが笑った。
本当は心配しているくせに。イザークは、素直じゃない。
きっとラスティも自分と同じように感じたのだろう、とディアッカは思った。
 
「じゃ、切るぜ。…あとでな、イザーク。」
『ああ。ミリアリア達の事を頼むぞ。』
 
 
 
一瞬物思いに耽ってしまっていたディアッカは、突如目の前に輝いた明るい光にはっと顔を上げた。
 
「おーおー。派手にやってんじゃん、イザーク達。」
「まぁ、あいつらしいけどな。アスランも、性格は地味だけどやる事は派手だし。」
「んじゃ行こうぜ、ディアッカ。あの分じゃ数分もしないで侵入出来そうだ。」
「…ああ!」
 
ディアッカは操縦桿を握る手に力を込めた。
あの光の向こうに、ミリアリアが、いるーーー。
 
 
 
***
 
 
 
「ちょ…ちょっと、何よこれ?!」
 
 
やっとの事で体を起こしたミリアリアは、この衝撃に覚えがあった。
この揺れは、AAにいた頃、何度となく感じたもの。
艦が被弾した時に起きる振動だ。
 
「きゃあぁっ!!」
 
先程よりさらに強い揺れに、ミリアリアは思わず悲鳴を上げた。
一体誰がこんな事を?まさか、ザフトかオーブ軍?!
いや、それはあり得ないはずだ。
自分はともかく、カガリは曲がりなりにもオーブの国家元首だ。
攻撃を仕掛けるにしても、このタイミングではあり得ない。
 
 
「…あなた…騙したのね?」
 
 
低く掠れた声に、ミリアリアははっとそちらを振り返る。
そこには、壁に手を着いてふらりと立ち上がったセリーヌが、何かを手にしてこちらを睨みつけていた。
 
「私と話がしたいなんて…ただの時間稼ぎだったのね?」
「違うわ!私は本当にあなたと…」
「じゃあこの振動は何?!」
「私にも分からないわよ!どういう事なのかなんて、こっちが聞きたいくらいだわ!あなた達、プラントとオーブ以外にも敵対している国があるの?!」
「…え?」
 
ミリアリアの剣幕と碧い瞳に射抜かれ、セリーヌは思わずたじろいだ。
 
 
「この振動は…この艦が何者かに攻撃されて被弾しているせいよ。AAにいた頃、何度も同じような目にあったから分かるわ。
とにかく、あなたはブリッジクルーと連絡を取って、しかるべき指示を与えないと!このままじゃみんな無駄死によ!」
 
 
きっぱりとそう言ったミリアリアは、嘘をついているようには見えなかった。
セリーヌは内線を取るとブリッジに状況を確認した。
 
「どうなってるの?この振動は何?!」
『わからん!いくら電波妨害をしていようと、これだけの攻撃を受ければ相手の姿くらい目に入るはずだがそんなものは全く見当たらん!』
「なんですって?…被弾した区域はどこなの?」
『ハッチ付近だ!他にもいくつか損傷があるが、一番酷いのはそこ…ぐぁっ!!』
「どうしたの?応答して!ねぇ、一体何が…!」
 
ブリッジを仕切っていたジャンク屋の悲鳴とともに、ぷつり、と内線が切れる。
セリーヌは愕然としたまま受話器を握りしめ立ち竦んだ。
 
 
「セリーヌさん?状況は?」
「何があったんだ?おい、どうしたんだ?セリーヌ!」
 
 
どうしよう…どうすればいい?
ミリアリアとカガリに問いつめられ、セリーヌはどう答えればいいかわからない。
姿の見えない敵の来襲。こうしている間にも破壊されて行く艦。
協力者に通信を送ろうにも、未だ電波妨害が生きているためそれも叶わない。
そして、例え通信で助けを求めた所で、彼らが必ず自分たちを保護してくれるかなど、この状況では分からないのだ。
 
「…セリーヌさん、落ち着いて。この先の事はどうにでもなる。今はこの状況をどう打開するか考えましょう?」
 
落ち着いた、凛とした声。
どうして同じ境遇にいながら、自分と彼女はここまで違うのだろう。
セリーヌは黙ってミリアリアをじっと見つめた。
 
 
『殺されたから殺して、殺したから殺されて。そんなのは間違ってる。それじゃいつまでたっても終わりなんて見えない。どこかで、連鎖を断ち切らなければいけない。』
 
 
どうして、そんな風に思えるの?
どうして、愛する人を奪ったものを許す事が出来るの?
私が我慢して、泣き寝入りすればそれで平和になるの?
こんなに悲しくて寂しくて、すぐにでもキールの所に行きたいくらいなのに?
 
また強い振動が艦を襲い、セリーヌは何とか足を踏ん張ってそれをやり過ごした。
 
 
ーーーキールの所に、行きたい。
 
 
そんな強い衝動が、セリーヌの体に電流のごとく走り抜けた。
そう、あの協力者達の本当の狙いなんて知った事じゃない。
私が泣き寝入りする必要なんて、無い。
この艦ごと…いいえ、私と彼女達だけでも、宇宙の藻屑になればいい。
 
 
そうよ、泣き寝入りするのは、私じゃなくたっていいじゃない。
 
 
混乱から錯乱状態に陥ったセリーヌの心に芽生えた黒い感情は、あっという間に彼女を包み込み、膨らんで行った。
 
 
「セリーヌさん!状況を説明して下さい!このままじゃ私達も…」
「…それで、いいじゃない。」
「ーーーえ?」
「な…」
 
 
驚いた表情で固まる二人を前に、セリーヌはうっすらと微笑んだ。
そして手にしていた何かを目の前に掲げる。
それは先程ミリアリアが目に留めていた、小さなリモコンだった。
 
「ミリアリア・エルスマン。あなたの言いたい事はよく分かったわ。カガリ様も。でもね、もう遅いの。後戻りは出来ない。」
「セリーヌさん!」
「セリーヌ!何を言うんだ!」
「あの男達は…自分たちの言う通りにすればパナマ攻略戦に参戦したコーディネイター達に復讐が出来る、って言ったもの!だから、これでいいのよ!」
 
錯乱状態で叫んだセリーヌの親指が、手にしたリモコンのボタンを力一杯押した。
同時に部屋のドアから機械音が鳴り響き、かちゃりとロックが掛かる音がミリアリア達の耳に届いた。
しかし、届いたのはそれだけではなかった。
 
 
「な…なんだ、この音は?」
 
 
カガリがきょろきょろと辺りを見回す。
ミリアリアははっとした表情になり、ベッドにあったシーツを乱暴に剥がすとカガリに投げつけた。
 
 
「鼻と口元を押さえて!どこかからガスが出ているわ!!」
 
 
目を丸くしながらも自分の指示に従うカガリを見届け、ミリアリアはセリーヌに向かい合った。
 
「何をするおつもりですか?この音は何?」
「さすが元ジャーナリストさんは察しがいいのね。…私は死ぬのよ。ここで、あなた達と。」
「セリーヌさん!」
「私はキールに会いたいの。もう、疲れたの。
ねぇ、あなた言ったわよね?復讐の連鎖を断ち切らなければいけないって。
だったら、これで手打ちにすればいいじゃない?」
「え?」
「このリモコンは特殊なガスを室内に蔓延させる為のスイッチなの。部屋のロックとも連動しているわ。
ジャンク屋に作らせたんだけど…なかなかいい仕事をするわよね、彼ら。」
 
微かに鼻に感じるつん、とした刺激臭に、ミリアリアは僅かに眉を顰めた。
 
 
「あなたとカガリ様には、私と一緒にここで死んでもらうわ。それで終わりにすればいいじゃない。
そうすれば、連鎖は止められる。私はキールを殺したコーディネイター達に同じ苦しみを与えられる。いい考えだと思わない?」
 
 
くすりと笑みさえ浮かべながらそう口にしたセリーヌを前に、ミリアリアは絶句した。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

今一歩で、と言う所で奇襲により暴走するセリーヌ。
ミリアリアの言葉はセリーヌに届かなかったのでしょうか…。

 

 

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