54, 武器を持たずに戦いを 4

 

 

 

 
「自分が心から正しいと思わない行いなど、してはならない。迷っているのなら、今すぐ辞めるんだ!」
「迷ってなんか…迷ってなんかいません!私はコーディネイターが憎いの!だから…」
「セリーヌさん。あなたに今回の話を持ちかけた男も、コーディネイター、ですよね?」
「……え?」
 
 
セリーヌの脳裏に、穏やかな表情の男の姿が浮かんだ。
そして、モニタ越しでしか顔を合わせた事の無い昏い目をした低い声の男の姿も。
 
 
「コーディネイターが憎いのなら。なぜその男達に協力したんですか?」
「き…協力してもらっているのは私よ!どこからか私の素性を知った彼らは私に…」
「あなたの持つコーディネイターへの…ザフト軍への恨み。それだけで、同じコーディネイターがここまでの事をしてくれると本気で思ったんですか?」
「それ、は…」
 
 
疑問に思わなかった訳ではない。だがセリーヌは、キールを殺した相手に復讐が出来ればそんな事はどうでも良かったから、あえてその事には目を瞑っていた。
しかし改めて現実を突きつけられて、セリーヌは動揺し、唇を噛み締めた。
 
「ショックだとは思います。でも、現実を見て下さい。
彼らはあなたを利用したんです。あなたの、キールさんへの想いを。
あなたが矢面に立つ事で、自分たちは手を汚す事もなく目的を達成出来る。
セリーヌさん…彼らの本名も、知らないんじゃないですか?相手はあなたの素性を知りつくしているのに、おかしいと思いませんか?」
 
セリーヌは呆然と立ちつくしーーーこくり、と頷いた。
後腐れの無いよう、互いに名乗るのはやめにしよう。ただ、君の望みを叶える手助けをさせて欲しいんだ。
初めて会ったときの男の言葉が、セリーヌの脳内にこだました。
彼らはセリーヌの過去を知っていた。でも、今思えば不自然な程に自分たちの事は語らず、名前すら名乗ろうとしなかった。
 
 
「お願いします。彼らの事、何でもいいので話して下さい。そして、こんな事…もうやめにしましょう。」
 
 
いつの間にか目の前まで来ていたミリアリアが、そう言って深々と頭を下げる。
 
「どうして…そんなこと、するのよ…?私は、あなた達を…」
 
声を震わせるセリーヌに、ミリアリアはゆっくりと顔を上げるときっぱりと宣言した。
 
 
「自分が大切に想うものを守りたい、それが一番の理由です。でも、それだけじゃない。
お節介かもしれないけれど…セリーヌさんにもう一度、前を向いて欲しいからです。
私が出来たんだもの。セリーヌさんに出来ないはずが無いわ。」
「あなた…どうして?私は自分の復讐の為にあなた達を利用したのよ?お人好しにも程が…」
 
 
お人好し、という言葉に、こんな時だと言うのにミリアリアはつい微笑んでいた。
『お前はほんっと、お人好しだよなぁ』
優しいディアッカの声が脳内に蘇る。
そう、私は彼の元へ帰るんだ。約束、したのだから。
しかしセリーヌの想いに触れ、ミリアリアは彼女を放っておく事など出来なかった。
 
「私も、ディアッカがいなければあなたのようになっていたかもしれないから…。
支えてくれる人がいれば、人は必ず前を向けるんです。私自身の経験でしかないですけど。
そして、あなたが気付いていないだけで、あなたにも支えてくれる人はちゃんといるはずなんです。」
「支えて…くれる人?そんなの…」
 
ミリアリアはにっこりと微笑んだ。
 
 
「あなたの弟であるアーノルド・ノイマンさん。すごくあなたの事を心配していました。
そして、地球にいるあなたがいたラボの研究員達。ターミナルを介した情報ですけど、皆あなたの事を心配していたそうです。」
「あ…」
 
 
先日通信越しに話をした弟は、とても苦しそうな顔をしていた。
そして、半分行方をくらます形で出て来てしまったラボにいるメンバー達。
彼らはなかなか元のように立ち直れないセリーヌを心配して、色々と助けてくれていた。
情緒不安定で休みがちで、研究の邪魔にしかならない、こんな自分の為に。
 
 
「……この世界には、キールさんとあなたの二人しかいない訳じゃない。手を差し伸べてくれる人だっているんです。そして、辛い時にはその手を取ってもいいんです。
優しさを貰ったなら、その事を忘れずにいつかそれを返して行けばいい。
犯した罪を裁く事は私達には出来ないけれど…引き返す事は出来ます。私とカガリも協力します。
だから…お願いします。あなたに話を持ちかけたコーディネイターの事、どんな事でもいいから教えて下さい。」
 
 
部屋に沈黙が落ちる。
まっすぐな瞳でセリーヌを見つめるミリアリアと、そんな二人の事を固唾をのんで見守るカガリの小さな息遣いまでもが聞こえる、そんな状況で。
セリーヌがぽつり、と呟いた。
 
 
「亜麻色の髪で…物腰の柔らかい、優しそうな顔をした壮年の男性、だったわ。
もうひとりとは直接の面識は無いけれど…昏い目をした低い声の…いつも黒い服を着た、男…」
 
 
ミリアリアの碧い瞳が大きく見開かれた。
亜麻色の髪の男。
それはディアッカとミリアリアが入籍した翌日、黒い封筒とメッセージが届いた日に自分が見かけた人物と一致する。
やはり、彼は“あの方”だったのだ。
だがひとつ、ミリアリアには気になる事があった。
 
ーーそれは、もうひとりの男、の存在だった。
 
 
「セリーヌさん…。その男は、あなたに何と言って今回の話を持ちかけて来たんですか?」
 
 
セリーヌははっと顔を上げ、ミリアリアを見つめた。
先程までの鋭い表情は、もうどこにも無い。
今のセリーヌは、ただ迷って、怯えている一人の女性でしかなかった。
 
 
「パナマ攻略戦に参加していた…ザフトの、クルーゼ隊の生き残りを、知っている、って…」
 
 
そこまでセリーヌが口にした時。
不意に轟音とともに艦全体に激しい衝撃が走り、ミリアリア達は悲鳴を上げて床に倒れ込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

…産みの苦しみとはこういうことを言うのでしょうか。
今まで書いた中で一番時間が掛かってしまいました;;しかも長いorz
ミリアリアが言葉で戦えているかどうかは、皆様のご判断に委ねます。
同じような経験をし、そこから抜け出せずにいるセリーヌに対してミリアリアが訴えていた事は、
彼女が自身の経験から自分なりに考えて出して来た答え、だと思います。
綻びだらけの拙いお話かもしれませんが、お楽しみ頂ければ幸せです。
そして、艦の外ではついに…?

 

 

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2015,7,27up