「ミラージュコロイドぉ!?」
『大きな声を出すな、馬鹿者!』
カーペンタリアの執務室でイザークからの通信を受けていたディアッカは、突拍子もない話につい声を上げていた。
「わ、悪い。でもさ…ラクス嬢、大胆すぎじゃねぇ?評議会にばれたらやばいだろ、それ…」
ミラージュコロイドとは、かつてニコル・アマルフィが奪取したGーブリッツーにのみ搭載されていた機能だ。
可視光線や赤外線を含む電磁波を遮断する特殊なコロイド状の微粒子であり、この物質を磁場で物体表面に定着させることで「電磁的・光学的にほぼ完璧な迷彩を施す」事が可能となる。
つまり、相手の視界から自分の機体の存在を消す事が出来、尚且つレーダーにも探知されないという機能なのだ。
ただひとつ問題点もあり、スラスター噴射等の音や熱源の痕跡は消す事が出来ない為、基本的に移動は慣性を利用しなければならない。
宇宙空間において、『音』は問題ではなかったが、どちらにせよ移動に大幅な時間が掛かり、尚且つ大量のエネルギーを消費する為、稼働時間も限られてしまう。
ジャスティスは核動力なのでエネルギー消費の問題は殆ど無いが、生憎ザクやグフなどの機体はエネルギーに限りがある為、そちらの考慮も必要だった。
だが、このシステムをうまく利用すれば、セリーヌ・ノイマンに気付かれず宇宙空間での移動が可能になる。
『ワクチンが出来上がり次第、俺とアスランは宇宙へ出る。お前も、いつ出撃してもいいように用意しておけよ。』
「ああ。そのつもりだ。ーーーそうだイザーク、実は昨日…」
ラスティの事をイザークに告げようとしたその時、モニタ越しにばん!とドアの開く音がし、ディアッカは何事かと目を丸くした。
イザークも同様に驚き、振り返っている。
『失礼、イザークくん!ディアッカに通信は繋がるかね?』
ザフト軍本部の執務室に息を切らせて駆け込んで来たのはタッド・エルスマンだった。
「親父?!どうしたんだよ?」
これほど焦るタッドを見るのは初めてかもしれない。
ディアッカは父の剣幕に立ち上がっていた。
『エ、エルスマン議員?』
『通信中だったか!ちょうど良かった。』
タッドはモニタにかじりつくようにし、得意げに微笑んだ。
『ワクチンが、完成した。これがそうだ。』
タッドがかざしたケースを、ディアッカだけでなくイザークも信じられない思いで見つめた。
『オズに、こちらで解析したファイルを送ったんだ。その方が理解が早いと思ってね。
ビンゴだったよ。セリーヌ・ノイマンのいたラボの研究員とうちのスタッフが協力して、ここまで早い開発が可能になった。』
そう言ってタッドはまた笑顔になった。
それはまるで、宝物を見つけた子供のようで。
ディアッカは父の意外な一面を見た気がした。
『では、これで…』
イザークもまた立ち上がる。
『ああ。接種後6時間で体内にウィルスへの耐性が出来るはずだ。臨床試験も済んでいる。これで、ミリアリアとアスハ代表を助けに行ってやって欲しい。』
タッドは笑みを消し、モニタに向き直ると真剣な表情でディアッカを見つめた。
『ディアッカ。オズからもうじきお前の元にもこれと同じものが届けられるだろう。今も言ったが、接種後6時間で抗体が完成する。…ミリアリアを、頼むぞ。』
「分かってるっつーの!さすが親父だな!」
息子の口から初めて聞く、自分に対する素直な賛辞の言葉にタッドはくすりと笑った。
『ディアッカ。』
タッドの声に、ディアッカは顔をあげる。
『ミリアリアとお前がかつて私に言った言葉。今もその想いに変わりはないな?』
ディアッカは頷いた。
「ああ。あいつは俺の妻で、俺が一番大切に想う女だ。必ずあいつを助け出す。そしてもう一度ここに連れてくる。それが俺たちの約束だ。」
タッドはふわりと笑みを浮かべた。
『私の自慢の娘だ。頼んだぞ。』
「…その前に、俺の自慢の嫁さんだっつーの。言われなくてもきっちり助け出すさ。」
ディアッカは、不敵な笑みを浮かべてタッドにそう言い切った。
『ディアッカ。俺とアスランはこれからすぐワクチンを接種し、準備に取りかかる。お前はどうする?』
イザークとアスランへのワクチン投与の準備の為タッドは慌ただしく姿を消し、モニタには再びイザークの端整な顔が映し出された。
「ああ、俺もすぐにワクチンを投与してもらう。それと、大事な報告がある。…ラスティと話がついた。今ここに…カーペンタリアに滞在している。」
『な…!!』
イザークは驚きのあまり絶句した。
「詳しく話すと長くなるけどさ。間接的な形でミリィがあいつにつなぎを取ってくれた。さっき親父が言ってた人の護衛として雇われて、昨日ここにやって来たばかりだ。」
『それで?あいつはそこにいるのか?』
「いや、今は別室にいる。昨日話をしたが、ダストコーディネイターの件に関しても、プラントに来て証言してくれるってさ。
それともうひとり。実際に親に捨てられたダストコーディネイターの女性を同伴して来ている。彼女もプラントで地球に来てから今までの経緯を証言してくれる事になっている。」
『そう、か…。無事だったんだな、あいつ…』
険しかったイザークの表情が一瞬だけ緩み、ディアッカは苦笑した。
「ラスティだけどさ。姫さんとミリィの救出に協力するって言ってるけど、いいか?」
『……ああ。あいつとて元・赤服だ。しかも傭兵として現在身を立てているなら問題はあるまい。
ただ、MSの操縦はさせるな。軍属ではない者に機体を触らせてしまえば後々問題になるかもしれん。』
冷静なイザークの言葉に、ディアッカもまた頷いた。
「分かった。とにかく俺とラスティは今からすぐにワクチンを投与してもらう。3時間後にここを出て、一旦コペルニクス方面に向かう。それでいいか?」
『了解した。こちらも同時刻にアスランと俺で出る。何かあればそれまでに連絡する。
ラスティの件、上の奴らに気付かれないようにしろよ?』
「ああ、分かってるって。じゃな。」
通信を終えたディアッカは大きく息をつき、勢いよく立ち上がる。
「ミリィ…待ってろよ。」
そうして急ぎ足で部屋を出たディアッカは、シンに連絡を取りラスティをロイエンハイムの所に来させるよう命じ、自らも彼がいる場所へと向かった。
![]()
ロイエンハイムとタッドの働きにより完成したワクチン。
父の意外な一面に、ディアッカは何を思ったのでしょう。
そしていよいよ、ディアッカ達も宇宙へと飛び立ちます。
2015,6,9up