33, 解析

 

 

 

 
ミリアリアはデスクに腰を下ろし、用意されたラップトップの電源を入れた。
手には、ラクスから受け取ったターミナルの許可証がある。
 
ディアッカと共に生きると決めた時点で、もうこれを手にすることはないと思っていたのに。
ミリアリアは許可証に目をやり、溜息をついた。
 
「…ミリィ。」
はっと顔を上げると、すぐそばにキラが立っていた。
「…大丈夫。やれる事はやってみるわ。」
ミリアリアの小さな声に、キラは切なげな表情で微笑んだ。
 
 
ミリアリアはしばし考える。
ターミナルにつなぐ以前に、出来ることはないか。
「…館長。ノイマンさんの出身って、確かドイツですよね?」
「…ああ、ベルリン出身と聞いている。」
「ありがとうございます!」
ミリアリアはメールソフトを起動した。
「ドイツの医療機関関係者に、知り合いがいるんです。ノイマンさんのお姉様について、ちょっと問い合わせしてみますね。」
「ミリアリア、それは…」
ミリアリアは微笑んで、首を傾げるイザークに頷いた。
 
 
「ジャーナリスト時代に知り合った人でね。地球に住んでるコーディネイターで、お父様とも旧知の仲なの。確かそっち方面の会社も経営してるはずだから、ダメ元で当たってみるわ。」
 
 
イザークは、猛然とドイツ語でメールを打ち始めたミリアリアの隣に腰をおろした。
ノイマン一慰の姉だか何だか知らないが、地球にいるディアッカの為にも、ミリアリアをむざむざ奪われる訳には行かない。
ウィルスの存在は確かに脅威だが、そもそも本当にそんなものがあるのか?
ミリアリアを危険に晒さずに済む方法は?
イザークは優秀な頭脳をフル回転させ、今後の行動について思いを馳せた。
 
 
 
「…え?なに、これ…」
 
 
 
戸惑うミリアリアの声に、イザークは顔を上げる。
「どうした?」
「今来たメールなんだけど…添付されてるファイル、意味が分からなくて…。」
ミリアリアに促されてモニタを覗き込んだイザークの顔色が変わった。
「…おい、これ…本文は?」
「え?まだ見てないけど…うそ、カガリ!?」
ミリアリアの声に、アスランががばりと顔を上げた。
「なんて事だ…。あの女、とんでもないものを作りやがった…」
イザークは添付ファイルをざっとスクロールし、口元に手をやった。
「カガリから連絡があったのか!?」
アスランの必死な声。
ミリアリアはおろおろとイザークとアスランを見やる。
 
 
「…名言は出来ないが…ウィルスの組成データの一部、かもしれんぞ、これは…。」
イザークの言葉に、そこにいる誰もが息を飲んだ。
 
 
「隊長、お分かりになるのですか?」
驚くシホをよそに、イザークはなおもファイルに目を走らせる。
「昔…アカデミーの頃ディアッカが読んでいた本に、これと似たような事が書かれていた。その時あいつに本の内容を尋ねたら、遺伝子学の著書だ、と…」
 
 
「ーーータッド様に連絡を取りましょう。
ウィルスの詳細が分かれば、ワクチンの生産も可能かもしれません。」
 
 
イザークの言葉を黙って聞いていたラクスが立ち上がった。
「ミリアリアさん、この他に添付ファイルはございますか?」
「え、と。まだいくつかあるけど…」
「全て開いて頂けますか?キラ、タッド様にすぐ連絡を。イザークさん。タッド様と連絡が取れるまで、お分かりになる範囲で目を通して下さい。」
「分かったよ、ラクス」
「了解しました。」
キラが急ぎ足で部屋を出て行く。
ミリアリアは添付ファイルを手早く開くと立ち上がり、イザークに席を譲った。
すぐに真剣な眼差しでファイルを読み進めるイザークの傍らに、そっとシホが立つ。
 
 
「ミリアリア!カガリはなんて?」
 
 
不意に真剣な顔のアスランに詰め寄られ、ミリアリアはその端正な顔に思わずどきりとした。
「あ、えと。セリーヌのところで見つけたファイルを送る。私は無事だ。アスランに、挑発に乗るなと伝えろ。お前も、早まった真似はするな。…それだけ、書かれていたわ。」
 
 
アスランは、深く溜息をついた。
「この状況で、まだこっちの心配か…」
「…カガリらしいわ。このメールだって、よく送れたと思うし。カガリ、MS以外の機械には弱いってよく言ってたから相手もきっと油断したのね。」
「そうだな…」
悔しそうに拳を握りしめたアスランの左手に光る指輪に、ミリアリアが気づくことはなかった。
 
 
「エルスマン議員と連絡が取れたよ!」
キラが部屋に駆け込んできた。
「議員は何と言っていた?」
イザークがファイルから目を離さないまま、キラに尋ねる。
「すぐこっちに来てくれるって。ちょうど議事堂にいるらしい。」
「了解した。…悔しいが、俺には到底よく分からん。ディアッカなら何とかなっただろうが…」
ミリアリアは、それでも黙々とファイルを読み進めるイザークに、祈るような視線を送った。
 
 
 
***
 
 
 
「…いかがですか?タッド様。」
 
ラクスがモニタを覗きこむ。
あれから程なくして現れたタッド・エルスマンは事情を聞くとすぐにイザークに代わってファイルに目を通し始めた。
ラクスの声に、タッドはゆるゆると溜息をつく。
 
 
「…確かに、コーディネイターには致命的なウィルスでしょうな、これは。」
 
 
ミリアリアの顔色が変わる。
「大雑把に説明しますと…このウィルスはナチュラルの遺伝子配列を基準として組成されています。我々コーディネイターは遺伝子配列を組換えているので、このウィルスに組み込まれた配列から外れた遺伝子を持っている。このウィルスは、そこに作用します。」
 
「…感染したら、どうなるんですか?お父様。」
ミリアリアが声を震わせながら尋ねた。
 
 
「…まだ分からない。ただ、生命維持に致命的なダメージを与えるのは間違いなさそうだね。」
 
 
ーーーそんなものが、プラントに撒かれたら!
ミリアリアは俯く。
ふと、温かい何かが手に触れた。
それは、シホの手。
きゅ、と握られ、優しい温もりがミリアリアを包み込む。
ミリアリアは何とか微笑むと、そっとその手を握り返した。
 
 
「…それで。ワクチンは?」
「すぐ、とはいかんがな。フェブラリウスのラボに持ち帰り、解析を進める。早ければ数日、という所だろう。」
 
身を乗り出し尋ねるイザークに、タッドは苦笑いしながら答えた。
「タッド様。よろしくお願い致します。」
「全力を尽くします。ラクス様。」
ミリアリアは、無言で俯いたままだった。
 
 
 
 
 
 
 
016

カガリからのメールで、一気に動き出した事態。
そして、自分の行動にプラントの運命がかかっていると理解し、思い悩むミリアリア。
この後しばらく、ディアッカ視点のお話が続きます。
ちなみに、彼女が連絡した知り合い、とは…多分、皆様のご想像通りの方です。

 

 
2016キラカガ誕小噺に合わせ、少し改稿しました。
 

 
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2015,1,12up

2016,5,19改稿・up