「シン!すぐ出られるか?」
ヘリポートに着陸した途端、もどかしそうにシートベルトに手をかけるディアッカの言葉に、シンは力強く頷いた。
「荷物なんて無いも同然ですから!15分でいけます!」
「よし。俺はキサカさんに詳しい話を聞く。その間にすぐ飛べるようにMSの準備しとけ!」
「はい!」
スカンジナビア共和国からの帰り道、突如飛び込んで来たカーペンタリアの異変。
ナチュラルに比べて体力もあり、大抵の病やウィルスに抗体を持つはずのコーディネイターであるザフト兵達が揃って昏倒するほどの、何かーーー。
ディアッカは険しい表情でヘリポートを飛び出すと、キサカの待つ部屋へと向かった。
「エルスマン!ちょうど良かった。カーペンタリア基地から通信が入っている。」
駆けつけたディアッカを振り返ったキサカはさっと立ち上がり、ディアッカに席を譲る。
「こちらエルスマン隊、ディアッカ・エルスマンだ!」
『…たい、ちょう…』
聞き覚えのある、しかし弱々しい声にディアッカは目を見開く。
それは、ディアッカとともにプラントからやって来たジュール隊隊員の声だった。
「どうした?何があった?!」
『わかり、ません…。さ、っき…ベルリンで、もらった…ドリンク、飲んだ、ら…』
「ドリンク…?おい!それでどうなったんだ?おい!」
ぷつり、とそこで通信が途切れた。
ディアッカは愕然と立ちつくす。
「やはり、バイオテロの可能性があるな。…防護服を持って行け、エルスマン。
副官殿の分もすぐに用意する。すぐにあちらに飛ぶのだろう?」
ディアッカはキサカを振り返り、頷いた。
「ありがとう、ございます。」
呆然とするディアッカの肩を、キサカの力強い手がばしんと叩いた。
「コーディネイターが病やウィルスに強い耐性を持つ事は分かっている。
しかし現実として、これだけのことが起きているんだ。
あらゆる可能性を考慮して動け。しっかりしろ、エルスマン!」
キサカの強い言葉を受け、どこか虚ろだったディアッカの瞳に光が戻る。
「ーーーはい。ありがとうございます。すぐにカーペンタリアに戻りますが…もう一度あちらに通信をしても?」
「?ああ、いくらでも構わんが。なぜだ?」
ディアッカは素早い動作でコードキーを入力しながら低い声で呟いた。
「…先程通信を寄越したやつが言ってたんです。ベルリンで貰ったドリンクを飲んだら、と。」
キサカの表情が変わった。
「つまり…そのドリンクに何かしらの仕掛けが?」
「ええ。多分通信を寄越した兵士は、その場では飲まず基地に戻ってからドリンクを口にしたんでしょう。
先に倒れたという兵士とのタイムラグがあったのはそのせいだと思います。
ならば、今からでもカーペンタリアにいるやつらに、そのドリンクに口を付けるな、と注意を促す事が最優先です。」
ディアッカの冷静な判断に、キサカは息をついた。
動揺しているように見えても、この頭の回転の速さはやはりコーディネイターだからだろうか。
と、キサカの携帯端末が震える。
あっという間に通信回線を開き的確な指示を与えるディアッカを部屋に残し、キサカは携帯を手に部屋を出た。
島内に設置されたMSデッキでは、既にシンがいつでも出られる状態でディアッカを待ち構えていた。
「悪い、カーペンタリアから通信が入ってた。」
「状況はどうなんですか?!倒れたのって…」
「…ベルリンに行ってた連中だ。半数以上が駐屯兵だが、プラントから連れて来た奴らも混じってる。」
シンの表情が、その言葉に引き締まった。
「ーーー急ぎましょう。隊長。」
「待て。今キサカさんが防護服を用意してくれてる。ここで着替えてから向かうぞ。」
「…え?」
赤い瞳を見開くシンを、ディアッカは真っすぐに見つめる。
「俺たちコーディネイターは大抵のウィルスや病気に耐性を持っている。
それなのにこの状況、って事は…意味、分かるか?」
「…まさか、ほんとにバイオテロ…」
ディアッカはふるりと首を振って、溜息をついた。
「可能性が無い訳じゃない。そして、俺たちまでそれに巻き込まれる訳にもいかねぇ。」
その時、キサカが防護服を手に格納庫に駆け込んで来た。
「エルスマン!プラントでも事件だ!カガリが何者かに拉致された!」
キサカの険しい表情に、ディアッカとシンは言葉を失った。
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ディアッカ視点からのお話。少し時間を遡っています。
キサカの力強い言葉に、ディアッカは自分を取り戻します。
2015,1,16up