5, 前に進む時 1

 

 

 

 
ミリアリアとカフェで別れたあと、シンはカーペンタリアでの任務についてディアッカを含む数名と打ち合わせをしていた。
シホはイザークの方に付き添っているため、ここにはいない。
 
淀みない口調で話を進めるディアッカを、シンは何とはなしに見つめる。
確かに、いつものような覇気は感じられない。
ただ、仕事ぶりは見事なまでに完璧で。
シンは、俺って副官の意味あるのか?とつい考えてしまった。
 
 
 
二年前の大戦で、シンは大切な友達を亡くした。
デュランダル議長が提示したデスティニープランは結局無期限凍結され、今後日の目を見る機会はないだろう。
 
なぜあの時、自分はあんなに必死だったのだろう。
 
シンの戦う理由、それは大切なものを守るため、だった。
マユを、大切な家族を守ってくれなかったオーブと言う国がただ憎くて。
守れなかった、力のない自分が悔しくて。
大切なものを守るための力が欲しくてザフトへの入隊を決め、日々努力を重ね念願の赤服になった。
グラディス隊に配属された後は新鋭機体を与えられ、信頼できる仲間と共に戦った。
特務隊にも選ばれ、デュランダル議長への信頼も日に日に増した。
議長の理念を信じ、ずっとついて行こうと思っていた。
 
 
しかし、結果を見ればデュランダル議長は亡くなり、自分もルナマリアも戦いに敗れた。
たくさんの戦艦から上がる撤退の信号弾をぼんやりと見ていた二人を救ってくれたのは、散々裏切り者と罵ったアスラン。
当時は、何も信じられなくて、何を信じれば良かったのかも分からなくて、ひどく荒れたものだった。
 
 
 
そんな中、ひょんな事でストライクフリーダムのパイロットであったキラ・ヤマトと出会い、話をした。
だからと言って、シンの中で全てが割り切れたわけではもちろんなく、頭の中はぐちゃぐちゃなままだった。
それでも、少しづつ自分なりに考えた。
自分の戦う理由。戦争が終わってもまだ軍に残っている理由。
オーブと言う国をただ恨む事にもだんだん疑問を覚えだした。
 
だが、まだシンの中で、確たる答えは出ていない。
そんな中、戦後配属された数々の隊では仲間と打ち解けることもうまくできず、いつしか厄介者扱いされるようになっていた。
月基地に配属されたルナマリアも、そんなシンに見切りを付けたのかだんだんと連絡の回数も減り、最後に話をしたのは3ヶ月以上前の事だ。
シンから連絡をする事は、なかった。
 
 
 
今でもまだ、何が正しくて何が間違っていたかも分からない。
オーブが、AAだけが必ずしも正義ではない、とシンは思う。
ただ、彼らが悪で、自分が正義だとももう思わない。
彼らは、自分の信じるものを貫くために戦ったのだ。
そしてそれは、シンも同じで。
 
自分がなぜこんな精鋭部隊に配属されたのかは未だに分からないが、考え方を変えれば、これからの事を考えるいい機会なのかもしれない。
 
…どうせもう、失うものなんて何もないんだし。
 
 
 
 
「…シン。シン・アスカ!」
自分の名を呼ぶ低い声に、シンははっと我に返った。
「お前、だいじょーぶ?もうミーティング終わったけど?」
目の前にあるのは、豪奢な金髪に紫の瞳を持つ、シンの新しい上官。
「え…?お、終わった?あれ?」
慌てて周囲を見回すと、部屋には自分とディアッカしかいなかった。
「すっ!すいません!俺、ぼんやりしちゃって!」
挙動不審になるシンの姿に、上官であるディアッカはくすりと笑った。
 
「お前、疲れてんじゃねーの?あと5日で出発なんだし、体調管理しっかりしとけよ?
頼むぜ?副官殿。」
 
そう言って屈託無く笑う姿からは、とても妻であるミリアリアと喧嘩をしているようには見えない。
シンは、ふと思いついて気になっていたことを聞いてみた。
 
 
「エルスマン隊長…。どうしてまだ黒服を着用されているんですか?」
 
 
ディアッカが一瞬目を見張り、そして少し寂しそうに微笑んだ。
「こっちの方が着慣れてるから…って事にしといてくんない?
ちゃんと出発当日までには白服に変えるからさ。」
 
言葉を返せないシンにひらりと手を振って、ディアッカは部屋を出て行った。
 
 
 
 
 
「ディアッカ、いつになったら新しい軍服に袖を通すつもりだ?」
ジュール隊隊長室。
評議会から戻ったイザークに呼び出され、なじみのあるソファにどかりと座ったディアッカはその言葉に苦笑いで応えた。
「何?そんなに俺の白服見たいわけ?そりゃ俺だって着こなす自信はあるけどさぁ」
「馬鹿者!気色の悪いことを言うな!」
イザークが渋面を浮かべる。
そして紅茶を用意するシホの背中から怒気を感じ、ディアッカの顔がわずかに引きつった。
 
「えーと、シホ?」
「飲み物が欲しいならそこに水道がありますからご自分でどうぞ、エルスマン隊長。」
その恐ろしく冷たい口調に、思わずディアッカはイザークと目を見交わす。
イザークが溜息をついた。
「シホ、すまないがディアッカの分も紅茶を淹れてやってくれるか?
それとメイリンの件、準備はどうなっている?」
 
メイリンの件?
イザークの言葉に、ディアッカが訝しげな表情になる。
 
「…テスト内容は既に決まっています。
今後の成り行き次第では変更も考えられますが、多分予定通りでしょう。
では私は、彼女にテストの説明をしてきますので、これで。」
 
がちゃん!とディアッカの前に紅茶のカップを置くと、シホはつん、と顎を逸らして部屋を出て行った。
 
 
「なぁ…シホ、どうした?」
「お前のせいだろうが。この馬鹿者が。」
「は?」
イザークはディアッカの向かいのソファに座り、ゆっくりと足を組んだ。
 
 
「…今回の人事、お前は不満か?」
 
 
ディアッカの表情が微かに変わった。
「俺は、お前を信用して大事な隊員の半分を預ける事を決めた。
だからと言って、俺が少しも悩まなかったとでも思うか?」
「…イザーク…」
ディアッカは、目の前のアイスブルーの瞳を思わず探るように見つめる。
 
「お前を簡単に手放すつもりはない。信頼している事にも変わりはない。
だが、そろそろ前に進む時期ではないか?」
「どういう…意味だよ」
「俺からお前に与える、カーペンタリアでの任務について話をする。いいか?」
「お前が…俺に?しかし、上層部からの話じゃ…」
狼狽えるディアッカをアイスブルーの瞳で見据え、イザークはひとつ息をつき、口を開いた。
 
 
 
「上層部からの命令とは別に、俺がお前に与える任務。
ーーーそれはダストコーディネイターに関する調査の統括だ。」
 
 
 

ディアッカは、ひゅっと息を飲んだ。
 
 
 
 
 
 
 
016

シンとディアッカ、それぞれの葛藤。

そしてシホ、やっぱり怒ってます(苦笑)

 

 

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2014,8,21up