笑顔 2

 
 
 
 
「振られた女に再会するのは、そんなに苛立つものなのか?」
 
わざとからかうように言うと、振り返った紫の瞳に怒りの炎が灯る。
「…そんなんじゃねぇよ。あいつのことはもう忘れた。もうなんとも思ってない。それにもう、あいつだって…」
「ではなぜそんなに苛立つ?今の言葉をそのまま彼女にぶつければ少しはスッキリするんじゃないのか?」
そう言うと、驚いた表情でディアッカがイザークを見た。
 
 
「彼女がお前と別れている間に取った行動が気に入らないのか?お前などいなくとも、彼女は前に進み、強く美しくなった。それが気に入らないのか、ディアッカ?」
「イザーク…」
 
 
イザークはさらに続ける。
「それにしても、ハウは本当にナチュラルか?数年ぶりに顔を見たが、あれほど美しくなるとはな」
普段ならディアッカが得意とする、皮肉な笑みを浮かべるイザーク。
「お前、何言って…」
「お前がいらないのなら、彼女は俺がもらうが?」
「はあぁぁぁ!?」
こんなディアッカを見るのは久しぶりだ、などと内心ほくそ笑みながらイザークは歌うように、ディアッカを煽る言葉を紡ぐ。
 
「見目も良いし頭も良い。母上も彼女ならお喜びになるだろう。それにあれだけの情報を知り得る立場なら、地球のジャーナリストにもそれなりの知り合いはいるはずで…」
「やめろ」
いつの間にかディアッカがイザークの目の前まで来ていた。
震える手が、イザークの軍服の襟をつかんでいる。
「あいつは、そんなんじゃねぇ。死んだ男をいつまでも忘れず大切に…」
 
 
掛かった。
 
 
「トール・ケーニヒか」
ディアッカの手から、一瞬力が抜けた。
「お前が俺を裏切ってまで守りたいと思った女は、その程度か?」
「な…イザーク…」
「近くにいすぎて見えんのか。いや、プラントと地球では、近くとは言わんな。愛しすぎて見えんのか、というのが正しいか」
ディアッカの手に、再度力がこもる。
「お前…何をわかったようなこと…」
「彼女はよく泣いていた、死んだ恋人を想って。そうお前も言っていたな。だが同時に、救いのない復讐の連鎖を止める強さ、赦す優しさを持っている、と俺は昔聞いた気がするが、あれは寝言か何かか?」
ディアッカはイザークの襟元から手を離した。
 
「先ほどの会話で、彼女は自然にトールという男の思い出話をしていた。気づかなかったのか?」
 
ディアッカは虚をつかれる。
実際、気づいていなかった。
それほど、自分のあずかり知らぬ所で危険に身を晒していたミリアリアに憤っていたのだ。
「ハウは、すでに乗り越えているぞ。そんなこともわからんのか、お前は」
…そう、なのか?
ディアッカには分からない。
いつしか、空いた手のひらをきつく握りしめていた。
 
「ディアッカ、特別に休暇をやろう。俺の権限でな」
 
ぱしりとディアッカの手を払うと、鷹揚な口調でジュール隊の隊長は副官にそう告げた。
「ラクス様からの任務遂行のため、我々はしばらくの間この艦に滞在する。俺はブリッジにて艦長と今後について話をするが、そうすぐにテロリストが動くとも思えんだろう」
だから、彼女の所へ行ってこい。
そう言外に潜ませて。
 
 
「明日10:00にブリッジに戻れ。それまでの間、お前には休暇を与える。帰艦命令や出撃命令が出れば追って指示を出す。分かったな?」
 
 
ディアッカは、払われた手を降ろすことも忘れ、そのままの姿勢で立ち尽くす。
「どのみち今のままでは任務もまともにこなせんだろう。まぁ、護衛対象をずっと威嚇し続ける気ならそれも良いがな」
そう言うと、ディアッカが不意に破顔した。
彼女と別れた、と聞いてから、ついぞ見たことのなかったとびきりの笑顔。
「サンキュ、イザーク。二番目に愛してるのはお前だぜ?」
「気色が悪いわ!」
腰の銃に手をかけながら怒鳴りつけると、笑いながらディアッカは勢いよく床を蹴り、先ほどミリアリアの消えた出口から艦内に戻って行った。
それを見届けると、イザークはひとつ息をついた。
「慣れない小芝居は疲れるな…」
ディアッカは、よほど頭に血が上っていたのだろう。
冷静に考えれば、かつてとは言え強硬派の先鋒であった自分の母が、ナチュラルとの婚姻など許すはずもないのに。
ましてや、イザークの性格から考えて、親友であるディアッカの想い人に手を出せるはずもないのに。
それすら分からないほど、彼女に翻弄されている、という訳か。
 
軍人らしからぬ綺麗な指が手元の端末を開き、メールソフトを起動させる。
そして、先ほどかけたロックを解除し、短い文章を打ち込み、返信した。
宛先は、ラクス・クライン。
 
「指示の通り背中は押した。我が副官の健闘を祈る」
 
 
 
 
 
 
 
016

戻る  次へ  text

 

2014.6.4up

2014.9.22改稿