ラクスが大きな花束を献花台に供え、そこにいる全ての人々が黙祷を捧げた。
先日事件のあった礼拝堂。
事件の痕跡は完璧に消し去られ、マスコミの中継も入った講堂内は人で賑わっていた。
ミリアリアたちはオーブの代表としてこの式典に参加していた。
停戦協定、そしてディアッカとミリアリアの婚約でナチュラルへの風当たりはだいぶ落ち着いてはいるものの、ユニウスセブンの慰霊祭ということもありナチュラルのミリアリア達にはなるべく目立たない席が用意されていた。
近くには、ジュール隊ではないものの警備の為の兵も配置されている。
ミリアリアはそっとディアッカの姿を探した。
ジュール隊はザフトの精鋭部隊ということもあり、ラクスの近くに配備されている。
程なくディアッカの姿を見つけ、ミリアリアはそれだけで安心する自分に驚いていた。
想像以上に、自分はディアッカに依存しているのかもしれない。
ミリアリアはふと、そんな事を思った。
式典はつつがなく終了した。
まずラクスが退席し、キラがそれに続く。
イザークやディアッカも、ラクスの警護の為その後に続き、ミリアリアの前を通り過ぎた。
ミリアリアがふと視線を感じると、こちらを見ているタッドと目が合った。
ディアッカと同じ色の瞳が細められ、微かに口元が笑みの形を作る。
ミリアリアも、それと分からぬ程度に微笑み、目礼した。
その時。
講堂の外が急に騒がしくなった。
アマギがミリアリアを背に庇い、サイも懐に忍ばせた護身用の銃に手をかける。
タッドも、SPに護られながらもミリアリアを気遣う様子をみせた。
どうやら、不審人物が講堂の外で捕縛されたようだ。
しかし、次の瞬間聞こえてきた叫びに、ミリアリアだけでなくアマギやサイも衝撃を受けた。
「なぜ、ナチュラルの蛮行によって死んだ者のための式典にナチュラルがのうのうと参列しているんだ!
あいつらのせいで、俺の家族は…」
アマギやサイは沈痛な表情になる。
ミリアリアも眉を顰めた。
だが。
「離せ!あいつらを殺してやる!
そうだ、ナチュラルのくせに、ザフトの将校を誑かした女はどこだ!
出て来い!!」
ミリアリアの碧い瞳が大きく見開かれた。
タッドもきつい視線を扉の向こうへと向ける。
ミリアリア達を護衛していたザフト軍の兵士たちが、それとなくミリアリアの近くで警戒体制に入った。
だがそれ以降、喚く声は聞こえるものの先程のようなはっきりそれと分かる叫びは聞こえて来なくなった。
おそらく、外にいたザフト兵たちに検挙されたのであろう。
「大丈夫かね、ミリアリア?」
いつの間にか、SPを引き連れたタッドがミリアリアのそばまで来ていた。
アマギとサイが一歩下がり、恭しくタッドに一礼する。
「お父様…。はい、私は大丈夫です。それよりお父様こそ、よろしいのですか?」
タッドは優しく微笑んだ。
「大事な娘を目の前で侮辱されたとあっては、いくら私が多忙と言えどもそのままここを出る訳にはいかないよ。」
こんな時なのに、ミリアリアはその言葉につい涙腺が緩むのを感じ、慌てて微笑んだ。
「…ありがとうございます、お父様。でも、私は大丈夫です。
ああいう風に見られても仕方のない事は分かっていますし、気にしてませんから。」
ミリアリアの青白い顔色、震える体。
とても言葉通りで無いことはタッドにも、そしてアマギやサイにすらも分かった。
「…そうか。分かった。では私は先に行かせて頂こう。
後ほど、エアターミナルで。」
ミリアリアは微笑んだ。
「はい。お父様もお気を付けて。後ほど、お待ちしております。」
タッドは微笑んで頷くと、ミリアリアの頭を優しく撫で、講堂を後にした。
「ハウ。我々も行くとしよう。もう出ても大丈夫だろう。」
アマギがミリアリアの肩に手をぽんとおく。
それは、無言の激励。
ミリアリアは振り返り、微笑んで頷いた。
***
「…なにか、騒ぎがあったようですね。」
与えられた私室にもどると、ラクスがイザークを振り返った。
「すぐに確認しましょう。」
イザークは、外を担当するシホに無線で連絡を取る。
そして、シホの報告にイザークの顔色が僅かに変わった。
「なに?…それで、彼らは?別働隊が警護していたはずだろう。」
ラクス、そしてディアッカがイザークを振り返った。
「…そうか。それで彼女は?…ああ、分かった。よろしく頼む。では。」
イザークは無線を切ると、ラクスに向き直った。
「我々があちらを出た後、講堂の入り口付近にザラ派の残党と思われる人物が入り込んでいたのが発見されたそうです。」
キラは息を飲み、ディアッカが無言のまま厳しい視線をイザークに向けた。
「それで、講堂にいた方々は?ご無事ですの?」
ラクスも厳しい表情で、イザークに報告の続きを求めた。
「…騒ぎが起こったのは、ちょうど評議会議員が退出する時だったようです。
講堂にいたのは、議員たちとオーブ総領事館職員、そして評議会の文官が数名。
ドアの外でひとしきり騒いだ後、すぐに拘束されたそうなので直接の被害はありません。」
ラクスの美しい瞳が、じっとイザークを見つめた。
「そうですか…。では、間接的な被害は?」
「ラクス?」
キラが不思議そうに首を傾げる。
イザークは溜息をついた。
そして、聡明な歌姫に、あえて伏せていた部分の報告を始めた。
「報告によると、その人物はオーブ総領事館の職員たちにいくつかの暴言を吐いた、ということです。
たまたま近くにエルスマン議員もおり、大事には至らなかったとのことでした。」
キラが悲しげに顔を歪める。
「…ミリィ達は?無事に講堂を出られたの?」
イザークは軽く頷いた。
「ああ。警備の兵がついて先程総領事館に戻ったそうだ。」
そしてイザークは、じっと黙って報告を聞いていたディアッカを振り返った。
「ミリアリアにはこの後、シホを護衛につけた。自宅までな。」
ディアッカは目を見張った。
「…サンキュー、イザーク。」
「それと。ミリアリアから伝言、だそうだ。
『しっかり仕事を終わらせてから帰ってくるように』と。」
真面目な顔でそう告げるイザーク。
ディアッカはぽかんとし、ラクスとキラは思わず顔を見合わせ、笑った。
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停戦協定が結ばれても、すぐに平和になる訳ではない。
割り切れない思いを抱える人達もいる、という事です。
2014,6,26up