nearly equal 1

 

 

 

宇宙空間では時計の針だけが昼夜を知る手がかりになる。
ミリアリアはため息をついて固いベッドから起き上がった。
二十四時間表記のデジタル時計には『AM 3:00』と表示されている。
ここのところ地空軍との小規模な戦闘が続き、クルーたちのシフトは大幅に狂っていた。ミリアリアもその一人で、休憩中のアラートで飛び起きてブリッジに駆けつける日々が続いていた。
仕方のないことなのだが、せっかくマリューが気を使って出来る限り体内時計が狂わないようなシフトを組んでくれていたにも関わらず、気づけばすっかり体内時計は昼夜逆転の生活を覚えてしまったようだ。
無理にでも眠ろうと寝返りを打って目を瞑るが、睡魔は一向に訪れない。
代わりにやってきたのは、じわじわと胸に広がる暗い感情だ。

こわい。さみしい。ひとりはいや。

じわりと浮かんだ涙を乱暴に拭い、ミリアリアは再び起き上がると廊下に出てふらふらと歩き出した。
 
辿り着いた先は、格納庫だった。
どうしてここにきてしまったんだろう、とぼんやり思い、いつもならうざったいくらいに纏わりついて来るあの男の姿を今日は見かけなかったせいだと気づく。
先日の戦闘で機体の動作に違和感があったらしい、と食堂で整備クルーが話していたから、きっと寝る間も惜しんで調整に励んでいるのだろう。
深緑色が印象的な機体は、整備がしやすいようにだろう。いつもよりも手前のハンガーにかかっている。
柱の陰からそっと覗き込むと、渋金の頭が見えた。
いつになく真剣な表情で計器を弄っているのは、ディアッカ・エルスマン。
かつて捕虜だったコーディネイターで、せっかくオーブで解放されたのに愛機のバスターを奪取してAAに戻ってきた変わり者だ。
そう。あいつは変わり者だ。でなければ自分を刺し殺そうとしたナチュラルにつきまとうなんてしないだろう。
一人隠れて泣いていれば、いつの間にか隣に座って頭を撫でてくれて。
どれだけ酷い言葉で罵っても同じテーブルからどいてくれなくて。
落ち込んでいればわざと人を怒らせて、いつの間にか沈んでいた気持ちが上向いていることなんてしょっちゅうで。
結局のところ、自分はあいつの掌の上で転がされている。いや、甘やかされている、と言った方が適切かもしれない。
向けられる想いに気が付かないほどミリアリアは鈍感ではなかった。
でも、分からないのだ。それに応えていいものなのか。
トールを忘れることなんて出来ない。初恋だった。陽だまりのような彼が大好きだった。
それなのに、私は。

ふと気配を感じ視線を上げると、バスターのコックピットからディアッカが出てくるところだった。
端正な顔にも愛用している赤いジャケットにもオイルがこびりついている。
ザフトにいた頃は専属の整備士が常駐していたから機体の整備などしたことがない、と言っていたが、やらなかっただけで出来ないわけでもないらしい。
斜に構えた態度を取っているが、あいつは優秀な軍人だとエターナルにいる元・同僚が言っていたとキラ伝いに聞かされていたが、確かにその通りだと思う。
お前を死なせたくなかった、などと言っていたが、今のあいつは自分の信念に従ってここにいる。
睡眠も摂らず整備に夢中になっているのがいい証拠だ。いつもならミリアリアの存在に気が付かないなんてありえないのに、今のディアッカはこちらに視線ひとつ向けようとしないのだから。
いやだ。私、みっともない。こそこそ隠れているくせに、見つけてもらいたがっている。
きつい態度ばかり撮っているくせに、自分が辛い時だけ都合よく頼ろうとしている。甘やかしてほしい、と思ってしまっている。
だめだ。こんなの、違う。ずるい。こんなの。
きゅう、と苦しくなった胸元に手をやった後、ミリアリアは静かに格納庫を後にした。
 
 
 
 
 
 
 

 

超絶お待たせしてしまっていたリクエスト作品第4弾です。
さとうまり様、本当に申し訳ありません。
AA時代、まだくっついていないけど両片思い状態(…なのかな?)なディアミリです。
甘酸っぱいお話をリクエスト頂いていたのに、ちょっとシリアス要素が強くなってしまいました;;
トールへの想いとディアッカの存在に揺れるミリアリア。割り切れない感情に整理をつ蹴られない彼女がとった行動とは…?
全2話の予定です。お気に召して頂ければ幸いです。

 

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2019,8,23up