My Sweet Home 3 〜木のぬくもり〜

 

 

 

 
コトコトと音を立てる鍋に蓋をし、ミリアリアは食器棚を開けると手早く準備を始めた。
「今日は…これかな、やっぱり」
目に留まったそれが我が家にやってきた時のことを思い出し、ミリアリアは小さく微笑んだ。
 
 
***
 
 
「…い、イザーク?あの、大丈夫?」
保育器に入ったリアンを前にして目を見開き、彫像のように固まるイザークに、ミリアリアは恐る恐る声をかけた。
その後ろではディアッカが口元を押さえ必死に笑いをこらえている。
「…ああ、もちろんだ。何の問題もないぞ俺は」
「そ、そう。ならいいんだけど」
どう見てもそうは思えなかったが、ミリアリアは曖昧に微笑み目線でディアッカに助けを求めた。
「あー、イザーク。指貸してみ?」
「だっ…!な、貴様何を…っ」
イザークの肩がびくんと跳ね、ミリアリアは目を丸くした後たまらず笑みを浮かべる。
ディアッカによってリアンの小さな手の先に充てがわれたのは、イザークの人差し指。
それをリアンはしっかりと掴み、澄んだ瞳でイザークを見上げていた。
「不思議よね。まだしっかり見えていないのに、そこにイザークがいることが分かってるみたい」
「な。で、どう?イザーク。うちの息子、かわいいだろ?」
ディアッカの軽口すら耳に入らぬ様子で、イザークはじっとリアンを見下ろしていた。そして──。
 
「ああ…嘘のように、お前たちそっくりだ」
 
空いた手でそっとリアンの頬を撫でるイザークの姿にディアッカとミリアリアは思わず顔を見合わせ、どちらからともなく笑顔を浮かべたのだった。
 
 
 
そして、ミリアリアとリアンが退院して数日後。
エルスマンの別邸を訪れたイザークの手には、大きな紙袋がぶら下がっていた。
「ようイザーク。シホは今日夜勤だっけか?久しぶりだよな、お前一人でうちに来るの」
「いらっしゃいイザーク。リアンは寝ちゃってるの。散らかってるけど中に…」
「いや、ここでいい」
ずい、と紙袋を差し出され、ミリアリアはよろめきそうになりながら反射的にそれを受け取った。
 
「…耐久性が強いらしいから、他の材質のものに比べて長く使うことが出来る。濡れたまま放置しておくと変形する可能性があるが、ミリアリアならその心配はないだろう。落としても割れないし、手にも馴染みやすい」
「……は?」
 
スイッチが入ったかのように語り出した内容は、あまりに突飛で。ぽかんとするミリアリアの背後にいたディアッカもまた間抜けな声を発した。
「つ、つまりあれだ。その、竹のようにだな」
「竹?竹ってあの…植物の?お前何言ってんの?」
訳が分からない、といった様子のディアッカをなぜかキッと睨みつけ、イザークは踵を返した。
「え、ちょ、イザーク?あの」
「気に入らなければどうとでも処分してくれて構わん。ミリアリア、養生してくれ」
「いや待てってイザーク!話が見えねぇよ!」
数歩足を進めたところでイザークはぴたりと足を止める。
と、その美しい銀髪から覗く耳がやけに赤らんでいることにミリアリアは気がついた。
「っ、中を見れば分かる!じゃあな!」
今度こそ足早に立ち去るイザークの背中を、二人は半ば呆然としながら見送った。
 
 
***
 
 
「“竹のようにスクスクと丈夫に育って欲しい”だったかしら?」
出来立てのミルク粥を盛り付けた器は、あの時イザークが持参した袋お腹に入っていたものだった。
その道の職人が作り上げた竹製の離乳食セットは、コペルニクスからわざわざ取り寄せたものらしい。
器と一緒に入っていたカードにあった一文を、ミリアリアはしっかりと覚えていた。
真面目でまっすぐで、ちょっと照れ屋なところはあるけれど実はとても懐が深く優しい夫の親友。
そんな彼の願いが込められた贈り物を処分するなどありえない。
 
おとなしくリビングで一人遊びにふけるリアンに視線を移し、ミリアリアはふわりと微笑む。
手にしているお気に入りのブロックは、目に入れても痛くないくらいに孫を溺愛しているタッドからのプレゼント。その横にあるトレインカースロープはドイツ製で、地球にいるロイエンハイムからの贈り物だ。そういえば今日来ているカバーオールとスタイは、アマギ館長とサイから贈られたものだった。
 
日々成長していく息子に振り回されながらも、充実した毎日を送っているな、とミリアリアは思う。
ハーフコーディネイターであるリアンにこの先どんな出来事が降り掛かるかは分からない。辛いことだってあるかもしれない。
それでも、乗り越えられると思うのだ。こうしてリアンに愛を注いでくれる人達がいる限り。
と、涼やかなチャイムの音にミリアリアは顔を上げ、モニタフォンのスイッチを入れた。
 
「お帰りなさいディアッカ。いらっしゃい、イザーク、シホさん。そのまま中へどうぞ」
 
大好きな夫と息子、同じ志を持ち、心を通い合わせた友人達。それはミリアリアにとってかけがえのない宝物。
「ほーらリアン!お片づけしてみんなでご飯にしましょ?」
食卓に並んだミルク粥とその器を見たら、彼らはどんな顔をするだろう?
想像しただけでこみ上げてくる笑いをこらえながら、ミリアリアはリアンを抱き上げリビングの入口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またもお待たせしてしまいましたが、これにてキリリクtake2、完結となりました!
怪獣母ちゃん様、長々とお待たせして申し訳ございませんでした;;
最終話でようやくかけたツンデレイザークですが、大丈夫でしたでしょうか?←不安
愛情をいっぱい受けながらすくすくと育っていくリアンの姿を少しでも思い浮かべていただけたなら光栄の極みです。

更新が滞りがちで申し訳ない思いでいっぱいですが、どうぞ一人でも多くの皆様にお楽しみいただけますように!
いつも当サイトに足をお運びくださり、本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!

 

 

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2018,10,5up