信じる気持ち、想う強さ 2

 

 

 

 
「──キラ?!」
「ごめんねミリィ。どうしても一人じゃ会いに行けない、って言うもんだから、そこで待たせておいたんだ」
「どうしても、とは言ってねぇけど?」
 
つかつかと歩み寄ってくるディアッカに、ミリアリアは思わず後ずさった。
いつからいたのだろう?自分の本音を、どこから聞いていたのだろう?
 
「キラ、サンキュ。あとは俺とこいつで話す」
「全部聞いてたんでしょ?ミリィの想い、きちんと受け止めてあげてよね。ラクスもカガリもどれだけ心配してたか…」
「わかってるっつーの。あ、それよこせ」
「飲みさしだけど?」
「いいよ。素面じゃキツい」
 
ほとんど減っていない缶ビールをディアッカに手渡し、キラはミリアリアにすまなそうな笑みを向ける。
 
「ごめんね、ミリィ。でも…もう恋ができない、なんて言わないで?僕は…ミリィに幸せになってほしい」
「…キラ」
 
それじゃ、と手を振り、キラが展望室を出て行く。
残ったのは、俯いたまま立ち尽くすミリアリアと無言のまま彼女を見下ろすディアッカだけだった。
 
 
 
 
「……酒なんか飲むのな。お前」
 
ぐい、とキラから受け取ったビールを一口あおり、ディアッカは薄く笑った。
 
「……必要に駆られて、飲むこともあったから」
 
それは、女というだけで舐められがちな世界で、強くあるための手段の一つだった。
いつかあいつに会ったら酒を片手に「私はあんたが思うよりお子様じゃないのよ」と言ってやろうと思っていた。
めっきり途絶えた連絡に、そんな日がもう来ることはないのだ、と気づくまで少しの時間はかかったのだが。
 
 
「……どうしようもねぇな、お前」
 
 
静かに落とされた言葉に、かっと頭に血が上った。
 
「私の何を知ってるっていうの?!あんたにそんなこと言う権利なんてないでしょう?」
「勝手に悩んで空回りして、悲劇のヒロインぶって。お前、いつからそんな風になったんだ?」
「いつ私がそんな…!」
「信用できないならそれでもいい!そんなことより俺はお前がそこまで不安だった、ってことのが何倍も嫌なんだよ!そんなことも分かんねぇほど頭悪かったか?!」
 
思いもよらぬ言葉に、ミリアリアの息が止まった。
 
 
「大事にしたくて、でも現実じゃなかなかそばにもいてやれなくて…俺が何も感じてないとでも思ってたのかよ」
「……ディア、ッカ?」
 
 
呆然と立ち尽くすミリアリアの前でディアッカは残っていたビールを一気にあおり、ぽいと缶を投げ捨てた。
 
「そばにいろ」
「…え?」
「すぐじゃなくていい。約束が欲しい」
 
いきなり現れて、この男は何を言い出すのだろう。
そばにいろ?約束?
 
「だって、私たちは」
「なんでお互い好きなまんまなのに、別れたままでいなきゃなんねーんだよ」
 
乱暴に腕を引かれ、抵抗する間もなく抱きしめられる。
 
「……ざけんな。心配かけやがって。意地っ張りも大概にしろよ」
「……怖かったんだもの。好きになりすぎて」
「とりあえずお前の発言、撤回しろ。振っちゃったってなんだよ。マジ最悪」
「立場上、無関係でいた方がいい、って思ったんだもの」
「会いたかった。好きだ」
「脈絡がなさすぎよ……ばか」
「うるせえ、バカヒロイン」
「きゃ…」
 
さらにきつく抱きしめられ、ディアッカの背が展望室の壁にぶつかり、そのままずるずると二人して崩れ落ちる。
やっとの事で顔を上げたミリアリアの目に、切なく揺れる紫の瞳が映って──そのまま、唇を奪われた。
最初はそっと触れるだけ。そして、徐々に深くなっていくキスは、ほろ苦いビールの味がした。
ようやく解放される頃、ミリアリアの息はすっかり上がってしまっていて。
文句の一つも言ってやりたかったがそれすらも叶わず、再び腕の中に閉じ込められる。
 
 
「言えよ。好きって。そんで信じろよ。俺のこと」
 
 
耳元にかかる息はとても熱くて、ミリアリアはふるりと震えた。
 
「意地っ張りで頭の悪いバカヒロインなのに?」
「意地っ張りは昔っからだろ。頭が悪いのは恋の病だ。それに…」
「それに?」
「バカでもなんでも、お前は俺だけのヒロインでいればいい」
「……あんたも大概馬鹿だわ。でも」
「……でも?」
 
記憶より広くなった背中に腕を回してぎゅっと抱きしめ返し、ミリアリアはディアッカを見上げた。
 
 
「ごめんなさい。信じて待つことができなくて。心配してくれたのにひどいこと言って。私も、あんたが好きよ。会いたかった」
 
 
ミリアリアの碧い瞳から堰を切ったように溢れ出す涙を拭いながら、ディアッカは幸せそうに微笑む。
 
「約束、する。もう…逃げない」
「頼まれたってもう、離してなんかやんねぇよ」
 
好きすぎて怖かった。
恋しくて泣いて、他には何もいらない、と思うくらい愛しくて。
同時に、感情の制御すら出来ないことが怖かった。
小さなことも不安で、信じることができなかった。
好きなだけじゃダメなんだ、と思って、手放して。
もう、人を好きになることなどないと思っていた。
思い出があれば生きていけると思っていた。
 
 
だけどやっぱり、そばにいたい。
 
 
「好き…ディアッカが、好き」
ありったけの想いを込めた言葉を紡いだ唇は、ディアッカによって再び奪われた。
 
 
 
 
 
 
 

 

 
久しぶりの二人の再会、いかがでしたでしょうか。
キラに協力を仰いだディアッカですが、ヘタレな反面こういう強引な物言いもきっとするんじゃないかと妄想が爆発しました(笑)
ヘタレで優しくて強引なディアッカが大好きです。
一方ミリアリアですが、脆い一面を持つ彼女のこと、こんな風にディアッカを一途に想い続けていてもいいのでは…?とこれまた妄想大爆発で書き上げました。
今までで一番こっぱずかしいセリフをDさんが口走っておりますが、お酒の力もあったということでご容赦ください(笑)
ちなみに本文内の花はアネモネです。花言葉は「あなたを信じて待つ」。
このお話にぴったりだなと思いました。

いつも拍手をありがとうございます。
拙い作品ですが、どうかお楽しみ頂けますように!

 

 

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2017,4,12blog拍手小噺up

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