68, 虎穴に入らずんば虎子を得ず 1

 

 

 
ディアッカが消息を絶ってから二日。
ミリアリアは領事館に寝泊まりしながら気丈に仕事をこなし、ラスティとアンジェラはターミナルを駆使しつつ、護衛の任に当たっていた。
傭兵稼業をしているものたちには、ジャーナリストとはまた違ったコネがある。
ましてや二人はその道では名の知れたコーディネイターの傭兵だ。
情報の集まり方も半端ではなかった。
 
「アンジー、ミリアリアは?」
「さっきまで執務室にいたけど、目眩がひどいみたいで仮眠室で休んでるわ。これ以上ひどくなるようなら一度医師の診察を受けた方がいいと思う」
 
ここプラントで、ナチュラルが自然妊娠するなどもう数十年以上無かったのではないだろうか。
それを思うと、ミリアリアを的確に診れる医師の確保も必要だ、とラスティは考え込んだ。
「そういえば…ディアッカの父親って医者だったんじゃねぇ?」
「そうらしいわよ。でもまだ妊娠について伝えてはいないみたい」
「はぁ?!なんで?」
「タイミングが良すぎると思わない?」
アンジェラは柔らかな金髪を弄びながら口を開いた。
 
「昨日サイと話をしてたんだけど…彼女の妊娠とディアッカ・エルスマンの拉致のタイミング。偶然かもしれないけれど、もしかしてどこかにスパイが紛れ込んでいて黒幕に妊娠がばれたら、格好の材料を与えてしまうことになるでしょう?」
「……ザフトにスパイがいる、ってのか?」
「ザフトとは限らないわ。オーブ、クライン派…ミリアリアさんたちとある程度の繋がりがある組織ならどこだって可能性はある。…気をつけたほうがいいわね」
 
そう言ってアンジェラは肩を竦めた。
と、ノックの音が部屋に響き、二人は顔を見合わせた。
 
 
 
「ごめんね、二人とも…」
「いいから大人しくしときなよ。大事な体だろ?」
血相を変えたサイから告げられたのは、洗面台でミリアリアが倒れている、という知らせだった。
ラスティにはわからないが、悪阻というのは波があるものらしい。
それでなくともディアッカの件で、ミリアリアには多大なストレスがかかっているのだ。
あいつが戻るまで、何としてでもミリアリアを守らなければ。
「俺たちは念のため別の車で着いていく。一人で行けるか?」
「うん。病院にも連絡してあるし大丈夫よ」
「よし。きちんと診てもらえよ?あいつが帰ってきた時、笑って報告できるようにしとかねーとやばいっしょ?」
安心させるように小さく微笑み、ラスティは手配した車にミリアリアが乗り込むのを窓から見送った。
 
 
 
***
 
 
 
「どうだって?」
ミリアリアの様子を聞くために受付を訪ねていたアンジェラは、ラスティの声に困ったような表情を浮かべた。
「まだ診察室ですって。妊娠中は使える薬も制限されるから…あまり効果は期待できそうにないわね、こればっかりは」
それでなくてもミリアリアはナチュラルだ。プラントで的確な処置がどこまで出来るのかは未知数だった。
 
「なぁ…やっぱディアッカの親父さんに連絡した方がいいんじゃねぇ?かなり優秀な医学博士なんだし」
「ええ。彼女もそう思ったみたい。私からも話をしたら承諾してくれて、今頃連絡を入れてるはずよ」
「中で?」
「栄養剤の点滴をこれから受けるのよ。部屋を移動するからその前に、って。もうすぐ出てくると思うわ」
 
必死に日々の業務をこなしていたミリアリアだったが、きっとディアッカのことが心配でろくに食事もとっていなかったのだろう。
なんとか、一刻も早く発見されてほしい。
飄々とした態度を崩さぬよう努めていたラスティだったが、内心ではディアッカの置かれているであろう状況について、絶望にも似たものを感じていた。
だが、泣き言ひとつ言わず気丈に振舞っているミリアリアの前で、その感情を垂れ流すわけにはいかない。
「コーヒー買ってくる。アンジーは?」
「私はいいわ。ここで彼女を待ってる」
「了解。移動する時は連絡、を……っ」
「ラスティ?」
不自然に言葉が途切れ、アンジェラはラスティを見上げる。
ラスティは、病院の出入口──ロビーに鋭い視線を向け、訝しげな表情を浮かべていた。
 
「……悪い、ちょっと離れる。」
「ちょ、ラスティ?どうしたのよ?」
「ミリアリアを頼む!」
「ラスティ!」
 
脱兎のごとく駆け出したラスティを、アンジェラは呆気にとられて見送ることしかできなかった。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

憔悴するミリアリアは、タッドに妊娠の事実を告げることを決意。
一方ラスティは……?

 

 

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2016,10,15up