終止符 1

 

 

 

 
「ミリィ!こっちこっち!」
 
 
シンプルなワンピース姿できょろきょろと辺りを見渡していたミリアリアは、サイの声に気付きにっこりと微笑んだ。
 
「久しぶりね、サイ。元気だった?」
「ああ。ミリィこそどうなの?少し痩せたんじゃない?」
「空港から直接駆けつけたからかな?ちょっと疲れてはいるけど平気よ、このくらい。で、二人は?」
「ああ。あっちでラクスさんと話してる。キラ達もいるよ。」
 
サイが指差す方に視線を巡らせると、いつもよりもだいぶドレスアップしたカガリと、そんな彼女と正式に結婚が決まったアスラン・ザラがにこやかにラクスと言葉を交わしていた。
今やミリアリアが気安く声などかけることが出来ないくらいに雲の上の人となってしまったが、かつて二度の戦争を共に戦った記憶は今もしっかりと胸の中にある。
 
「ディアッカは今回来てないのかな?さっきから探してるんだけど…」
「今回あいつ、任務があるから来ないって。流し読みしかしてないけど確かそんなメールが来てたわ。」
 
さらりと語られた言葉にサイは一瞬目を丸くし、柔らかく微笑んだ。
「そっか。…君たちってなんだかんだ言って連絡はしっかり取ってるんだね。」
「あっちが勝手に送ってくるのよ。私は別に…」
「ミリアリア!」
明るい声に、ミリアリアは言葉を途中で止め、飛びついてきたカガリを笑顔で受け止めた。
出会った頃からだいぶ経つが、この癖は今もって変わらない。

 
「カガリ、アスランもおめでとう。ごめんね、取材先から直接来たんだけど飛行機が遅れちゃったのよ。」
「そうなのか?悪かったな、疲れてるだろうに。」
「ううん。こっちこそお招きありがとう。私なんかが来ても良かったのかしら、って入り口でちょっと怖気づいちゃった!」
 
ペロリと舌を出すミリアリアに、サイ、そしてアスランも思わず笑みを浮かべる。
「今は公式行事だからゆっくり話せないけど…後で親しい仲間内との時間も設けてある。その時にでもまたゆっくり話そう。いいだろ?」
「うん。明日はお休みだから大丈夫。」
「ありがとう、ミリアリア。その…忙しい時に」
「あなたたちほどじゃないわよ。ほら、私に構わずお勤めを果たしてきたら?」
やっとの事で口を挟んだアスランにミリアリアは微笑みかけ、二人の背中を押した。
 
 
 
***
 
 
 
「仲間内、って言っても結構な人数ね。」
「いいじゃない、ほとんど顔見知りなんだしさ。キラもラクスさんもずいぶんリラックスしてるね。」
「ほんとだ。護衛も外に出されちゃったみたいね。」
「全員ではないがな。」
 
背後から突然口を挟まれ、サイとミリアリアは驚き振り返った。
「…イザーク、さん」
そこにはザフトの白服を纏ったイザーク・ジュールが部下のシホ・ハーネンフースを従え立っていた。
 
「イザークは飲まないの?」
「一応職務中だからな。お前こそいいのか?秘書官の仕事は。」
「ボスからOKもらってるからね。うちの代表はその辺おおらかだからさ。」
 
にこやかに談笑するサイとイザークを、ミリアリアは黙って眺めていた。
サイは二度目の大戦後、留学先だったスカンジナビア王国から戻り、オーブの行政府に入った。
父が下級士族出身ということもあったが、機械工学から国際政治学へと専攻を変えたサイは充分な知識と経験を武器に、現在カガリの秘書の一人として最年少ながら辣腕を振るっている。
…だからって、いつの間にこの二人、こんなに仲良くなったのかしら?
かつてナチュラルに強い偏見を持っていたらしいイザークが、ナチュラルのサイと親しげに会話をしている。
それはなんだか、とても不思議な光景だった。
 
 
「そういえば今回、ディアッカは留守番なんだね。」
 
 
グラスを持つミリアリアの手がわずかに震え、氷がカラ、と涼しげな音を立てた。
「ああ。野暮用でな。だが…」
「デートで忙しいんじゃない?」
三人の視線を痛いほど感じながら、ミリアリアは表情を変えぬままグラスを傾けた。
 
「ミリアリアさん、エルスマンは」
「ありがとう、ハーネンフースさん。気を使わなくても平気よ。あいつの女事情はよく知ってるから。」
「…ほう。例えば?」
「イザーク!」
 
ミリアリアはアイスブルーの瞳を真っ直ぐ見つめ、記憶を辿った。
 
 
「そうね…アリサ、リナ、ローザ、エマ、ダイアナ…あとは何だっけ?アン?アニー?これだけじゃないとは思うけど。」
 
 
すらすらと飛び出す女性の名前に、イザークの横に立つシホの目が丸くなった。
「どうして…そこまで」
「職業柄?あとはあいつの女癖の悪さのダブルコンボ、ってとこかしら。」
「あの!き、気にならないのですか?」
「気になる?私が?」
ミリアリアはきょとんと首をかしげ、あっけらかんと口にした。
 
「だって私たち、恋人じゃないもの。」
 
その言葉にサイは困ったような表情を浮かべ、シホは言葉を失う。
だがイザークだけは、鋭い視線をミリアリアに向けた。
「いわゆる、体だけの関係、というやつか。」
「…そうね。そうかもね。あいつ、カッコつけたがりだから。ナチュラルの女が一人くらいいた方が箔がつくんじゃない?」
「ミリィ!イザークももうやめなよ!」
サイの声に二人ははっと我に返った。
「ミリィさ、自分で自分を貶めるようなこと言ってどうするの?それにイザークも言い過ぎ。今日はカガリとアスランの為のパーティーでしょ?」
「…そうだったな。それに、俺が口出しするようなことでもなかった。すまない。」
「そうよね。私もごめんなさい。…少し酔っちゃったみたいだから、中庭に行ってくるわ。ハーネンフースさんもすみません。気を使わせてしまって。」
「い、いえ」
近くにあったテーブルにグラスを置くと、ミリアリアはふわりと微笑み中庭に続くテラスへと消えた。
 
 
 
「…ほんと、言い過ぎだよ。イザーク。」
渋い顔をするサイに、イザークは素直に頭を下げた。
「すまなかった。じれったいのは性に合わないんだ。…卑屈なのも。」
「それが言い過ぎの元なんです。隊長は。」
「後でもう一度しっかり謝罪する!」
少しだけむくれてしまったイザークに、シホは思わず苦笑する。
ディアッカをずっと近くで見てきたイザークには、きっとミリアリアに知っておいてもらいたいことがたくさんあるのだろう。
ーーたとえ、本人に口止めされていたとしても。
ミリアリアの残していったグラスを片付けようと手に取り、サイは怪訝な表情を浮かべた。
 
「これ…ジュースだ。」
 
逃げ出す口実をひねり出したくせに、肝心の証拠品を残していくなんてミリアリアらしくない。
それだけ動揺していた、ということだろうか。
「どうして素直になれないんだろうね。あいつらは。」
誰にともなく発したつぶやきは、空気に溶けて、消えた。
 
 
 
 
 
 
 
007

 

 

2016年2発目のBlog拍手です。
前回同様、サイト本編とは別設定、運命終了後から数年後の二人です。
今回少し長くなってしまったので、2話に分けてお届けします。
アスランとカガリの結婚披露パーティーが舞台となるこちらのお話、
一人でも多くの方にお楽しみ頂ければ嬉しいです!

 

 

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