勇敢なるケダモノ 3

 

 

 

 
「ミリィ!」
「ちょ、なにこんなとこで抱きついてんのよっ!場所をわきまえなさいってば!」
 
 
あっという間にミリアリアの元へと駆け寄り、しっかりとその細い体を抱き締めるディアッカの様子にマードックとエリカ・シモンズは吹き出し、テストパイロットの男を含むその場にいた整備士たちはぽかんと口を開けてじゃれ合う(ミリアリアにはそんなつもりなどなかったが)二人に呆気にとられていた。
 
「ミリアリアさんもお久しぶりね。ご結婚おめでとう。元気そうでよかったわ。」
「あ、はい!ありがとうございます!あの、すみません、ディアッカが…」
「あら、いいのよ。ね?チーフ?」
 
エリカ・シモンズはにっこりとマードックを振り返った。
 
「ええ、構いやしませんぜ。よう坊主、元気そうじゃねぇか」
「親爺もな。つっても、なかなか大変そうじゃん。なんならOSの調整くらい、手伝ってやってもいいけどぉ?」
「馬鹿言え、いくらお前が整備に長けてても、こいつらを舐めるなよ?こいつらならあのバスターだってすぐに整備できるぜ?」
 
そう言って胸を張るマードックに、ミリアリアを腕に抱いたままのディアッカはにやりと笑い、先程までいた場所に視線を移した。
 
 
「…ほら、親爺はお前らのことしっかり信用してるぜ?その辺もうちょいそれぞれが考えてみりゃ、また違ったもんが生まれんじゃねーの?」
 
 
ミリアリアもまたそちらに目をやると、はっとした表情で顔を上げるテストパイロットの男と目が合った。
故郷を破壊され、オーブへ亡命したと言うコーディネイターの男。
ミリアリアもまた、かつて暮らしていたヘリオポリスの崩壊を経験している。
だからこそ、彼の悔しい気持ち、やり場のない怒りも理解出来た。
 
「…ってことで、親爺。会って早々アレだけど、俺たちそろそろ行くわ。あんま仕事の邪魔もできねーし。あと数日はオーブにいるから、また日を改めることにするからさ。」
「なんだよ、もう行っちまうのか?」
「上司の前でサボリ宣言?さすが親爺、スケールが違うねぇ」
「ばっ、違うわ!」
 
二人のやりとりにエリカ・シモンズがまた吹き出し、ミリアリアもつい笑みを浮かべた。
パイロットであるディアッカと、整備士であるマードックの年の差は一回り以上。
それでも、年の差も種族の壁をも超え、二人の間には今も揺るぎない信頼があるのだ。
そう感じ、ミリアリアは心に燻っていた怒りの感情が霧散していくのを感じた。
 
 
「んじゃ親爺、またな。」
「おう。わざわざありがとな。嬢ちゃんも。」
「いいえ。ありがとうございました、マードックさん。」
 
 
軽く手を挙げ、マードックはミリアリアにウインクを一つ投げてよこす。
それに応じるように、ミリアリアはにっこりと微笑み、頷いた。
 
「とりあえず、出ようぜ」
「…うん。」
 
ディアッカに促され、エリカ・シモンズにも挨拶をし、出口へと向かう。
格納庫の出口で振り返ると、テストパイロットがマードックに歩み寄るのが見えた。
 
 
 
***
 
 
 
「……マードックさん、嬉しそうだったね。」
 
すっかり日が傾いた海沿いの道を並んで歩きながら、ミリアリアはぽつりと呟いた。
いつもならあれこれと話しかけてくるディアッカだったが、昨晩羽目を外したせいでミリアリアが飛び出していった事もあり、どこか緊張した空気を漂わせている。
 
ーーそうだ。忘れないうちに聞いておかなくちゃ。
ミリアリアは視線を前方に向けたまま、口を開いた。
 
 
「他の女の人とも、ああいうこと、したの?」
 
 
ぴきん、と隣で固まるディアッカの様子に、ミリアリアは小さく溜息をついた。
 
「ああやって、我を忘れちゃうくらい興奮したの?その時も。」
「え、いや、その」
「ああやって、相手が気を失っちゃうまで抱いたの?昨日みたいに。」
「な、おい」
「……悔しい。」
「……え?」
 
絶句して立ち止まってしまったディアッカよりも一歩前で足を止め、ミリアリアは言葉を続ける。
 
 
「いつもいつも、私ばっかり初めてで。私はディアッカとすることのほとんど全部が“初めて”なのに。」
「ミリ…」
「私だって、ひとつくらい…ディアッカの“初めて”が欲しい。」
 
 
想像もしなかった言葉にディアッカは紫の瞳をまんまるに見開きーーぎゅ、と拳を握りしめ、華奢な背中を見つめた。
ミリアリアにくれてやった“初めて”なんて、いくつあるか分からない。
初めて、守りたい、と思った。
初めて、自分の何に変えても大切にしたい、と思った。
初めて、人を愛することを自分に教えてくれた。
昨日だってーー愛する女のどんな顔も、仕草も、こんなに愛おしいと思えるのだということを教えてくれた。
 
溢れる想いそのままに腕を伸ばし、ディアッカは後ろからミリアリアを抱き締めた。
温かくて、花の香りがして、細くて小さい、何よりも愛しい存在。
ミリアリアが傍にいてくれるから、ディアッカはディアッカでいられるのだ。
回した腕に小さくて温かい手が添えられると、ディアッカは柔らかな茶色い髪に顔を埋め、耳元で囁いた。
 
 
「お前は、たくさん俺の“初めて”を持ってるぜ?」
「…嘘ばっかり」
「分かんねぇの?」
「分かんないわよ」
「じゃあ、いっこだけ教えてやるよ。」
 
 
そうして告げられた言葉にミリアリアは碧い瞳を見開いた。
 
 
どうしてこんなにキザなことをあっさりと口にできるのかしら。
『お前が持ってる俺の“初めて”のひとつは……俺の“初恋”。』だなんて。
 
 
恥ずかしくて、でも同じくらいに嬉しくて。
ミリアリアは首だけ後ろを振り返り、無言でディアッカを見上げる。
何?と言いたげなディアッカだったが、すぐに合点が行ったようで、ふわり、と微笑み、そして。
 
 
落ちてきた唇をそのままの体勢で受け止めながら、ミリアリアはディアッカのシャツをぎゅっと握りしめた。
 
 
 
 
 
 
 
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全3話、いかがでしたでしょうか?
あつみん様、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした!!(土下座)
最後はディアミリで締めさせていただきましたが、何このミリィかわいい…(当社、比?)
ディアッカの“初めて”になりたいミリィと、数え切れないほどミリィから“初めて”を貰っている
ディアッカが、その中でもとっておきをミリィに教えちゃうラストシーンが個人的にとても好きです♡
『初恋』なんて言われたら、もう、ねぇ…(●´艸`)
仲直りのキスを無言でおねだりするミリィも好きです!←個人的趣向満載

25000hitも無事突破し、やっとお届けすることができた22222hitキリリク、リクエストを頂いた
あつみん様はもちろんのこと、いつもサイトに足を運んでくださる皆様にも楽しんでいただければ幸いです。
いつも本当にありがとうございます!
これからもマイペースに活動を続けてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
 
 
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2016,1,31up

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