忘れていたこと 2

 

 

 

 
総領事館を出たミリアリアは、ぴたり、と足を止め、少しだけ目を丸くした。
「…おつかれ。」
見覚えのありすぎるエアカーにもたれているのは、ザフトの黒服に身を包んだディアッカで。
一瞬だけほっとした表情を浮かべるも、すぐにそれは消え、むっとした表情になるミリアリアに構わず、ディアッカはエアカーのドアを開け、「乗れよ」とだけ言った。
 
 
無言のまま帰宅し、ディアッカは玄関のロックを解除する。
先に部屋へと入って明かりをつけ、後ろを振り返るとミリアリアは玄関の外に俯いて立ち尽くしていた。
ーーーああ、もう。やっぱどうしようもなく意地っ張りだ、こいつ。
「っ、きゃ…」
きっかけが欲しいなら、いくらでも作ってやるさ。
そう思い、ミリアリアの腕を引っ張り室内へ引きずり込み、ディアッカは玄関のドアを閉めロックをかけた。
 
「な、何するのよ!痛いじゃない!」
「あー、あのさ。忘れてたんだよな、俺。」
「は?!」
「お前がどんだけ意地っ張りで負けず嫌いで、それでもって、優しくて。俺のことを大切に想ってくれてるかってさ。」
「な…」
「聞いたぜ?今日、例の国防委員の提案した穴だらけの議案、こてんぱんにぶっ潰したんだって?」
「ーーーな、んで…それ」
 
ディアッカは、先ほど電話口で聞いたサイの興奮した声を思い出し、くすりと笑った。
『ミリィ、いつの間にあそこまで調べ上げてたのってくらいすごかったよ?!専門家ですら反論できなかったんだから!』
そう、シホの言う通り、ディアッカは忘れていたのだ。
ミリアリアが、とんでもない負けず嫌いだ、と言うことを。
件の国防委員の人物像について、ミリアリアはきっと知っていたのだろう。
公衆の面前でディアッカに絡むことも何度となくあったのだし、その気になれば自分がどう思われているかなど造作もなく分かることだ。
そして、ミリアリアは反撃した。
ディアッカにすら気づかれることなく国防委員の専門としている分野について学び、男を論破出来るほどの知識を身につけたのだ。
向こうもきっと、ナチュラル相手と甘く見て、ほどほどに手抜きをした議案を出してきたのかもしれない。
それでも、専門分野であればいくらでも反論の余地もあったはずで。
下に見ているナチュラルのミリアリアにことごとく論破され、あの男は一体どんな顔をしたのだろう、と思うと、それだけでディアッカは痛快な気分になった。
 
 
「やっぱすげーよ、お前って。」
 
 
驚き、固まったままのミリアリアをぎゅっと腕の中に閉じ込め、ディアッカは柔らかい髪に顔を埋めた。
「べ、つに、そんなつもりじゃ」
「サンドウィッチ、うまかった。」
「あれは!自分のお弁当が余ったし、シホさんへのお礼の意味もあって多めに」
「ごめんな。昨日。」
腕の中のミリアリアが、ひゅ、と息を飲んだ。
「お前が傷つく、って…勝手に決め付けて、余計な口出しして、ごめん。」
「…ディアッカ」
「愛してる。」
耳元で囁き、抱きしめている腕に力を込めると、ミリアリアが顔を上げた。
どこか不服そうな表情に、ディアッカは他に怒らせることをしただろうか?と内心首を傾げ、思いを伝えるべく他の言葉を探す。
 
「…いつだって、そうやって先回りして。ずるい。」
「…え?」
 
いつの間にそうされていたのだろう、ディアッカの背中にはミリアリアの腕が回されていて。
細い腕に力が込められ、それでも不服げに唇を尖らせたまま、ミリアリアはぽつりと呟いた。
 
 
「自分から、言いたかったのに。」
 
 
ディアッカは紫の瞳をぱちくりとさせ、ミリアリアを見下ろした。
 
「私だって…悪かった、って思ってたし、ディアッカが心配してくれてるのも分かってた。だから今日帰ったら、自分から言うつもりでいたのに。どうして私の言いたいこと、いつも先回りして言っちゃうのよ?」
自分を見上げる碧い瞳には、気付けばうっすらと涙が溜まっていて。
やっぱり負けず嫌いで意地っ張りで、そして誰よりも自分を愛してくれている腕の中の宝物を、ディアッカは今度は優しく抱きしめる。
「じゃあ、今度はミリィが言って?」
未だ唇を尖らせ、不服そうな顔をしながらもミリアリアはぎゅ、とディアッカにしがみつき、口を開いた。
 
 
「私も、ごめんなさい。…愛してる。」
 
 
言いたいことが言えた安心感からか、途端に泣きそうな顔になるミリアリアを心から愛しい、と思いながら、ディアッカはそっと顔を寄せ、可愛らしい唇に自分のそれを重ねた。
 
 
 
 
 
 
 
007

 

 

キリが悪く、こちらは短くなってしまい申しわけありません;;
最後はちゃんと仲直り、ですが、今回少し強気なミリィを心がけてみました。
私の書くミリアリアっていつもは優しさが先に立つパターンだと思うのですが、
こういう一面もあるのかな、と考えたら、しばらく書かないつもりでいたのに
サクサクと書き進められてしまって(笑)
やっぱりディアミリ、大好きです。

だいぶ遅くなってしまいましたが、15000hit本当にありがとうございます!
お休みをいただく、と申し上げていた手前迷ったのですが、諸々のお礼を込めて
このお話を皆さまに捧げます。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします!

 

 

戻る  text

2016,1,8up