28,月と星空 1

 

 

 

ミリアリアの涙が落ち着くのを待ってから、ディアッカは内線で医師に連絡を入れた。
ほどなく医師と艦長が現れ、そのまま慌ただしく診察が始まる。
ディアッカもコーディネーターとはいえ3日間もの間意識が戻らなかった為、ミリアリアとともにそのまま診察を受けた。

 

 
「…さすが、回復が早いな。これが終わったら点滴はひとまず外そうか。」
「まぁねー。俺の遺伝子、身体能力に特化した弄り方されてっから。そうそうくたばんねーよ?」
そんなディアッカの言葉にマリューも思わず苦笑する。
「でも、まだ無理しちゃダメよ?ミリアリアさんも心配するだろうし。」
「りょーかいです、艦長」
おどけてそう答えると、ミリアリアがカーテンの向こうから「ディアッカ、真面目に答える!」と言ってきた。
マリューと目を見交わして、思わずくすりと笑う。

 

 
ミリアリアの診察は、そう長くかからず終わった。
ディアッカの血がミリアリアに輸血されたと医師から説明を受けた時、ミリアリアはひどく驚いていた。
だが、傷のせいもありそれ以上騒ぐことはなかった。
貧血の数値も医師の予想より良好で、点滴も外され鉄剤と傷の痛み止めを処方して医師は部屋を出て行った。

 

 

 
「艦長、ちょっといいですか?」
ディアッカはマリューにそう声をかけ、自分はミリアリアのベッドに腰を掛けた。
ミリアリアも、ディアッカの意図に気がついたようだ。
枕を背もたれにして起き上がり、真剣な表情でマリューとディアッカを見つめる。
マリューもただならぬ雰囲気を察したようで、黙って椅子に座る。

 
「艦長に、ご報告したいことがあります。」
そう切り出したのは、ディアッカだった。

 

 
「プラントに、留まる?」
マリューは思わず大きな声をあげてしまい、慌てて口に手を当てた。
「…はい。この後AAがどう動くかは分かりませんが、最終的にはそうしたいと考えています。」
そうしっかりと答えたのはミリアリアだった。
「もちろん、たくさんの問題があることは承知しています。
私の親のことや仕事のこともあるし、ディアッカだってナチュラルの女を連れ帰って、プラント内やザフトでの立場とか、いろいろあると思います。
でも、もう自分に嘘はつきたくないんです。ディアッカを信じるって決めたんです。」
ミリアリアは微笑んだ。

 
「私、ディアッカとプラントに行きます。」

 
マリューは困ったように微笑むと、肩をすくめた。
「…ディアッカ君。」
「はい。」
ディアッカは不意に呼ばれたにもかかわらず、しっかりとマリューを見て短く答えた。

 
「あなたが思うより、プラントでナチュラルが暮らすというのは大変な事よ。
危険な目に遭うかもしれない。周囲の反対に合うかもしれない。
あなた自身も傷つくことがあるかもしれない。
それでもあなたは、ミリアリアさんを守れる?」
「マリューさん…」
ミリアリアが悲しげに呟く。
やっぱり、簡単にはいかないものなんだろうか。
分かっていたつもりでも、心が重くなる。

 
「守ります。」

 
ディアッカは、きっぱりとした口調でマリューにそう答えた。

 
「いろいろな障害があることも理解しています。
こいつにも自分にも危険があるかもしれないことも承知しています。
それでも、種族は違っても、俺たちは互いを必要としてるんです。
だから、全力で護ります。
俺もこいつも、互いを護ると決めたんです。」

 
ミリアリアの碧い瞳が揺らめき、うっすらと涙が溜まる。

 

 
「マリューさん。私、ずっと怖かったんです。」

突然話し始めたミリアリアを、ディアッカが訝しげに振り返る。
ミリアリアは構わず先を続けた。
「トールが戦死して、もうあんな思いをするのは嫌で。
一人になるのが怖かった。だからもう誰も好きにならないって思ってました。」
「ミリアリアさん…」
マリューの顔が曇る。
同じ経験をしたことのあるマリューには、その気持ちが痛いほどわかった。

 
「でも、そんな時にディアッカと出会って、認めたくなかったけど少しずつ彼に惹かれて行きました。
前の戦争が終わった後、ディアッカに告白されて嬉しかった。
でもジャーナリストになることを反対されて、一度は私から彼の手を離しました。」
ミリアリアの瞳から、さっきやっと止まったばかりの涙がまた零れ落ちた。

 
「離れている間、気がつけば空ばかり見上げてました。
取材先で、月や星空を眺めて、泣いてばかりいました。
この月や星よりもディアッカは遠くにいるんだって思ったら、涙が止まらなくて。
いつの間にか、また大切なものを無くしかけてたんです、私。」

 
涙をごしごしと拭うとミリアリアはすみませんと一言言い、はにかんだように笑った。

 
「私、自分の大切なものを守りたいんです。
守って、守られて、そうしてずっと一緒にいたいんです。
甘い考えだと思われるかもしれません。実際甘いと思います。
それでも、私、やっぱりディアッカを信じます。
だから、ごめんなさい。あと、ありがとうございます、マリューさん」

 
そう言ってぺこんと頭を下げるミリアリアに、ディアッカがそっと寄り添う。
そんな二人を見て、マリューはつい微笑んだ。
「やめてちょうだい、ミリアリアさん」
ミリアリアがきょとんとマリューを見つめる。

 
なんだろう。娘を送り出す母親の気持ちなのかしら?これは。
…ムゥも連れてくればよかったかしらね。
マリューは内心そう考えながら口を開いた。

 

 

 

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