「奇襲?!」
『ええ。せっかくミラージュコロイドを搭載しているんだもの。使わない手はないわ。』
コペルニクス、ザフト軍基地の一室で思わず声を上げたディアッカに対し、シホは涼しい顔でそう言ってのけた。
『順序が逆になったわね。まず現在の状況から話をするわ。
……あなた方が地球を出たのと同じくらいの時刻に、ミリアリアさんもAAからセリーヌ・ノイマンの乗る艦へ発ちました。』
「…は?!」
ミリアリアに与えられたリミットにはまだ時間があるはずだ。なのに、何故?
気色ばむディアッカの肩に、そっとラスティの手が添えられた。
『AAにセリーヌ・ノイマンから突然通信が入って、3時間以内にミリアリアさんを寄越さなければアスハ代表を殺害し、その一部始終を地球とプラントに流す、と言っていたそうなの。
ミリアリアさんは通信で直接相手と話をして、アスハ代表との面会を条件にその申し入れを受け、あちらに向かったらしいわ。』
「なんで急に話が変わったんだ?」
『想像でしかないけれど…アスハ代表がこちらにウィルスの組成式を流した事が露呈したからではないか、と私は思っているわ。
あのウィルスは彼女に取って最大の切り札でしょうから。』
「…恐らく当たり、だろうな。ちょっと頭が働く奴なら、プラント側が早々にワクチンを作り上げる事くらい予想がつくだろ。
それで慌ててミリアリアを、ってとこか。」
ラスティの言葉に、シホはこくりと頷いた。
彼の存在については、イザークから聞かされているのであろう。通信越しとは言え何の違和感も持たず接している。
「ああ。…シホ、それで?」
『ジュール隊長とザラ隊長には作戦とともに、既にこの件をお伝えしました。
何もなければミラージュコロイドを展開させて、今頃はAAに着艦しているはずよ。
あなたとの連絡が取れるまでの間に、ラミアス艦長と今回の作戦について話をしてくれているわ。』
ディアッカは焦る心を落ち着かせる為、深く息をついた。
カガリの命を盾に取られて、あのミリアリアが黙っているはずがない。
こうなってしまった以上、一刻も早く不明艦へ侵入し、ミリアリアとカガリを助け出さねばーー!!
「ディアッカ。焦っても時間は戻らない。彼女の作戦ってのをまずは聞こうぜ?」
冷静なラスティの声に、ディアッカはもう一度大きく深呼吸をした。
『現在AAの周辺宙域一帯に強い電波妨害が起きているわ。それも人為的な、ね。
どうやら不明艦のクルーの仕業ね。AAを孤立化させるのが狙いだと思う。
でもそれは同時に、不明艦側にも同じ現象が起きている、と言う事よね?
…だからこちらは、それを逆手に取って動くわ。』
「逆手に?」
シホの紫の瞳がきらりと輝いた。
『例えば、プラントにいる仲間が彼女にワクチンが完成している事を知らせようとしても、電波妨害のせいで不可能でしょう?
だから彼女はまだワクチンの存在を知らない。
かといって正攻法で正面から攻めれば人質に危険が生じるわ。だから奇襲するのよ。ミラージュコロイドを使ってね。』
「イザークとアスランが奇襲して俺たちが突入する為の入口を作る、ってわけ?でもさ、こっちの機体にはミラージュコロイドなんてないぜ?」
ラスティが肩を竦めた。
確かに、ディアッカのブレイズザクファントムはずっとカーペンタリアにあり、何の改造もされていない。
イザーク達と違い、敵側に察知されず近づくのは普通に考えて不可能に近いのだ。
『さっき言ったでしょう?あちらもAAと条件は同じだと。
通信の際にサイさんがこう言っていました。ミリアリアさんの乗ったシャトルの現在地は電波障害のせいで分からない、と。
ならばあなた方がデブリに隠れて不明艦に近づいても、ある程度までならあちらのレーダーに関知されないんじゃないかしら?』
ディアッカとラスティは、思わず顔を見合わせた。
「確かに…そうかもしれねぇ。なら俺たちはデブリに紛れて不明艦の近くで待機してて、イザーク達の奇襲が始まったら戦闘に参加すりゃいい、って事か、シホ?」
『そういうことよ。あなた達なら隊長達の動きを見て、突入のタイミングを合わせられるでしょう?』
「ああ。大丈夫だ。」
二度の戦争を経験した自分たちに加え、元クルーゼ隊で、地球でずっと傭兵として暮らして来たラスティもいる。
ディアッカは大きく頷いた。
『あなた達が潜入している間、隊長達は適度に不明艦を攻撃するか、場合によってはあとから潜入してブリッジを占拠する、と言っていたわ。脱出経路の確保も必要だしね。
だからあなた達は潜入後、人質の救出を最優先で動いて。
AAはあらかじめ決められた奇襲の時間になったら不明艦に向けて進路を取るから、脱出後はとにかくAAに向かってちょうだい。それとクサナギも、犯人の捕獲の為に宇宙に上がって来るそうよ。
…どう?この作戦。』
シホの考えた作戦は、完璧なものではもちろん無い。
不確定要素もあれば、その場の判断で一気にこちらが劣勢になる場合もある。
だが、今考えられる作戦の中では充分実行に値するものだとディアッカには思えた。
ラスティを振り返ると、彼もまた同じ考えだったようで、にやりと笑って頷く。
「行けるよな?ディアッカ。」
「…もちろん。やるしかねぇだろ。」
ディアッカはモニタを振り返り、そこに映るシホをしっかりと見つめ、不敵に微笑んだ。
「それでいい。その作戦に従って任務を遂行する。」
はっきりとそう告げたディアッカに、シホは一瞬表情を緩めた。
『…言おうかどうか迷ったけど。ミリアリアさんは、必ずあなたが来るはずだから大丈夫、と言って出て行ったそうよ。
気をつけてね、ディアッカ。』
シホの言葉にディアッカは僅かに目を見開き、しっかりと頷いた。
「ああ。サンキュ。」
格納庫に戻った二人の前に現れたのはルナマリアだった。
「隊長のザクはすでに補給もメンテナンスチェックも終わってます。すぐに発たれますか?」
「ああ。シンももうカーペンタリアに戻っている頃だ。あいつには復興支援の任務を任せてあるし、事が済むまでこちらから連絡はしない、とお前から連絡を入れておいてくれるか?」
「了解しました。…あの、エルスマン隊長。」
「何だ?」
ヘルメットを手に振り返ったディアッカに、ルナマリアは目を泳がせながら口を開いた。
「シン…そっちでちゃんとやって、ますか?」
「…へ?」
つい間抜けな声を出してしまったディアッカに、ルナマリアは赤面した。
「い、いえあのっ!シン、隊長の副官になってから何回か話をしたんですけど、前より随分穏やかな顔をするようになったなって思って…それで…」
そういえばルナマリアは、シンのーーー。
ディアッカはふわりと微笑むとルナマリアの赤い髪に手を伸ばし、ぽんぽんと安心させるように頭を叩いた。
「あいつは確かに、ジュール隊に来るまではどこか不安定だったかもしれない。
でも、地球で色々な事に直面して、それをあいつは自力で乗り越えて来た。
今のあいつは俺の大切な副官で、なくてはならない存在だ。じゃなきゃ大事な本国からの任務の全権をあいつに委ねたりしねーよ。…だから、安心していいぜ。」
ディアッカの柔らかい声に、ルナマリアはぱぁっと嬉しそうな表情になった。
「…はい、ありがとうございます。お急ぎの所すみませんでした。エルスマン隊長、ご武運を。」
きりりと表情を変え、美しい敬礼を送るルナマリアにディアッカもまた敬礼を返した。
「ああ。色々便宜を取りはからってくれて感謝する。」
そうしてラスティを促すと、ディアッカはザクのコックピットに乗り込む。
「侵入用のスーツは積まれてるか?」
「ああ。さすが用意がいいぜ、あの赤服の子の指示だろ?」
「多分な。…それじゃ、行くぜ!」
ディアッカがザクを起動させると、すぐに発進シークエンスが開始された。
ミリアリア、待ってろ、今行くからーーー!
ディアッカの想いと共に、黒いザクは愛しい人の元へと飛び立った。
![]()
やっとここまで来ました…;;
次はミリアリアサイドのお話です。
2015,7,4up