しょうもない男 3(『180+』“きみてらす”より)

 

 

 

 

猛スピードで夜食を平らげ、簡単にシャワーを浴び身支度を整えたディアッカがベッドに潜り込むと、その気配に気付いたのかミリアリアがうっすらと目を開けた。
 
 
「……ん…でぃあ、か?」
「ただいま、ミリィ。」
「…あ…ごめん、枕…」
「ん?ああ、ダイジョブ。てかそれ貸して。」
 
 
小さな手から枕を受け取ると、ディアッカはまだぼんやりとしているミリアリアを自分の胸元に引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。
 
「ごめんな、今日。怖い思いさせて。」
 
安心させるかのようにゆっくりと髪を撫でながら耳元で囁くと、ディアッカの背中にミリアリアの腕が回された。
 
 
「…どうして、送るなんて言ったのよ。」
「…だって、それが俺の仕事だから。」
「そうじゃなくて!優先順位が違うでしょう?」
 
 
がばり、と顔を上げたミリアリアの碧い瞳には、涙が溜まっていた。
 
「自惚れかもしれないけど…私がいるせいであんたが自分のやるべき事に集中出来ないんじゃないかって思って、それで…」
「それで、帰ったんだ?」
「っ…そうよ!ここに来るつもりも無かったけど、サイが…こっちに送って、くれて…」
「それで、夜食作って待っててくれたんだ?」
「そうよ、悪い!?あんたの事だからきっとうまくやるんだろうって思ったけど、それでも…」
「それでも、何?」
 
涙をいっぱいに溜めた碧い瞳を、紫の視線で縛り付ける。
本当は怖かったくせに。男の挙動に体を強張らせていたくせに。
店を出て行く時だって、あんなにぎこちない笑顔を無理矢理浮かべていたくせに。
 
黙り込んでしまったミリアリアの唇に、ディアッカはそっと自分のそれを重ねる。
後頭部に手を添え、逃げ道を塞ぐとミリアリアの体が僅かに震え、閉じられた瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちて行くのが分かった。
 
「ん…んぅ」
 
だんだんと深くなるキスに、ミリアリアの唇から甘い声が漏れる。
そっと唇を離すと、溢れる涙で濡れた碧い瞳がディアッカを見上げていた。
  
 
「…いくら、うまくやるだろうって信じてても…心配、だったん、だからっ…!」
 
 
キスのせいでほんのり紅く染まった唇から零れ出た言葉に、ディアッカは目を見開く。
そして、そのままミリアリアの顔をまじまじと見つめた。
 
ミリアリアの、あの不安そうな、どこか怯えた表情の理由。
普段関わる事が無いような事態のせいで、怖い思いをさせてしまったから、とばかり思っていた。
自分に絡む女の言動に、少しだけでも嫉妬、してくれたのかも、と思っていた。
だが、それだけではなく。
何より、ミリアリアはディアッカの事を心配、してくれていたのだ。
いつもあれこれ心配して嫉妬して、彼女が怒りだすまで口を出しているのは自分で。
だから、そこまで考えが及ばなかった。
不安で、自分の枕を抱いて眠る程にミリアリアが自分の事を心配してくれていたなんて。
 
 
ディアッカの心がゆっくり、じんわりと温かくなる。
それは、愛されていると言う実感。
 
 
「…ごめん。俺ってほんと、しょうもないオトコ、だよな。」
「ひっく、ほんと、その…通りよっ!」
「あの女の事も嫌な思いさせちまっただろうし…何より、あんな場面に居合わせて、怖い思いさせちまったって…それしか、考えつかなくてさ。ほんと、ごめん。」
「そりゃ…あの女の人の事はもやもやしたし、男の人だって、怖かったわよ?!でも、そんなのより…あんたが…何かされたら、って…そっちのが、私は何倍も怖かったわよ!!馬鹿!!」
 
どん、と拳で胸を叩かれ、それでも自分に縋り付くように回した腕に力を込めるミリアリアを、ディアッカもまた強く抱き締めた。
 
 
「ミリィ、俺の事好き?」
「っ、す、きじゃなきゃ、心配なんて…しないでしょ!なんで今、そんな事っ…!」
「こんな夜中にミリィを泣かせる、馬鹿でしょうもないオトコでも?」
「…そうよ!馬鹿でしょうもないオトコでも!好きだから、心配だし不安にもなるし、みっともないけど…な、泣きたくだってなるの!」
 
 
また拳で胸を叩かれ、ついでとばかりに軽く蹴りまで入れられる。
だが、そんな行為も、意地っ張りなミリアリアの愛情の裏返し、と気付いてしまったから。
まるで駄々っ子のような腕の中の愛しい存在に、ディアッカは今日一日の疲れも吹き飛ぶ気分で、蕩けるような笑みを浮かべた。
 
「その…心配かけて、ごめん。でも、サンキュ。また馬鹿だと思われるだろうけど…なんか今、すげぇ嬉しい。」
「……あんたって…ひっく、ほんとに、しょうもない男よね!」
「うん。自分でもそう思う。俺ってしょうもないなってさ。でもって、馬鹿みたいにミリィの事、好きだ。」
 
少しだけ腕を緩めてミリアリアの碧い瞳を見下ろし、頬を濡らす涙を優しく唇で掬い取る。
と、ミリアリアの顔が不意に近づき、そっと触れるだけのキスを贈られた。
 
「…あの後、大丈夫だったのよね?」
「うん。だから、もう泣くなって。な?」
「…うん」
 
眉をハの字にしたまま、それでも涙の残る瞳を細めて、柔らかくふわりと微笑むミリアリア。
自分といる事でミリアリアが安心出来るのなら、いくらだって一緒にいたい。
いつだってこうして抱き締めて、安らいで。
時間が許す限り、互いの体温を感じていたい。
 
あと数時間で夜が明ける。
朝から仕事に向かうミリアリアに、無理はさせられない。
こうして抱き締めて、互いの温もりを感じながら眠るだけでも充分満足だし、幸せなのだから。
ーーそう思っていたディアッカだったのだが。
 
 
「…なんにもなくて、良かった…」
 
 
そんな言葉と共に再び贈られたキスは、先程のものとは違って甘く、蕩けるようで。
ミリアリアもまた、この先を求めていると確信したディアッカは、それでもいつもより優しくその華奢な体に指を這わせて、温かい素肌をゆっくりと慈しむように撫で始める。
 
 
「俺も、好き。愛してる。」
 
 
大好きな甘い声に、「うん」と小さく返事をし、ミリアリアは蜜色の金髪に手を伸ばす。
そして、ディアッカの頭を引き寄せるとそのまま瞳を閉じて、落ちて来た熱い唇を受け止めた。
 
 
 
 
 
 
 
007

 

 

パラレルなDM、お楽しみ頂けたでしょうか?

私の拙い作品と比べるのもおこがましいですが、本家“きみてらす”はもっと素敵です!(断言)

自分のお話ではなかなか出せないキャラ、そして世界観も全く違うお話を書く事が出来て

とても幸せでした!

えみふじ様、本当にありがとうございました!!

どうか皆様にお楽しみ頂けますように(●´艸`)

 

 
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2015,6,16up