「ディアッカ君…」
マリューが、銃を手にしたまま立ち尽くすディアッカに声をかけた。
ディアッカは返事をしない。
するとマードックが前に進み出た。
「艦長、ちょっと下がっててもらえますかい?」
そういうと、マードックは大きく息を吸い、渾身の力でディアッカの横っ面に拳をお見舞いした。
「っ!」
ディアッカがよろめき、紫の瞳に感情が戻ってくる。
そこにマードックの怒鳴り声が炸裂した。
「何ボケっと突っ立ってんだてめぇは!?うだうだ考えてる暇があったらとっとと嬢ちゃんを追いかけろ!」
「親父…」
「嬢ちゃんが何のためにてめぇを庇って撃たれたか分かってんのか?
そんなとこに突っ立ってる暇があったら、好きな女くらいとっとと行って取り返してこい!」
すると、ディアッカが不意に笑った。
そして、ゆるゆると頭を振る。
「いって…効いたぜ今の。」
「ザフトのエリートにそう言ってもらえるんじゃ、俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇな。」
マードックもニヤリと笑うと、MSデッキにむかって顎をしゃくった。
「お前さんの機体は補給、整備ともに俺のお墨付きだ!
とっとと嬢ちゃんを連れて帰ってこい!」
「ああ!サンキュー!」
ディアッカはそう言うと走り出した。
「ディアッカ君!気をつけて!」
そんなマリューの言葉に手を上げ、ディアッカはフラガとイザークを追いかけMSを発進させた。
「…い。サイ。サイ!」
サイは、腹部の鈍い痛みに顔をしかめながら目を開けた。
「…カズイ?」
そこにいたのは、地球を出た直後行方不明になっていたカズイであった。
「よかった…ミリィはまだ目を覚まさないし、俺どうしようかと思って…」
「お前、無事だったんだな…良かった…。ミリィは?」
サイは痛みを堪えて起き上がると、辺りを見回した。
ごく普通の部屋だ。
簡易キッチンやソファ、ラップトップが置かれた机。
ベッドが中央に一つ。
そのベッドに、ミリアリアが横たわっていた。
「ミリィ!!」
サイは腹の痛みも忘れてそちらに駆け寄った。
ミリアリアは肩から胸にかけて包帯が巻かれていた。
血で汚れた軍服は脱がされ、寝間着のようなワンピースを着せられ眠っている。
「AAで、コーディネーターを庇って撃たれた、ってここへ運んできた奴が言ってた。左肩をレーザーが貫通して大きな血管を傷つけたみたいだって。
でも、傷自体はそんなに深くないみたいだよ。」
確かに、顔色は悪い。
「俺たちはこれでも、あいつらにとってはお客様扱いらしくてさ。
着替えも女性がやってくれたし、ミリィの為に痛み止めまで置いてってくれたよ。」
見ると、サイドテーブルにころんと錠剤が置かれていた。
カズイの観察眼は健在らしい。
ミリィ…ディアッカを庇ったのか。
サイは思わず目を閉じた。
今頃ディアッカがどんな気持ちでいるか、考えるとさすがに心が痛んだ。
だが、じっとしてはいられない。
サイはカズイを振り返った。
「カズイ、ミリィが目を覚ますまでに状況を整理したい。
何があったか話してくれないか?」
ディアッカは宇宙に出ると、通信回線をオンにした。
『坊主!お前…』
『フン、やっと追いついたか』
「悪い。状況は?」
『現在エターナルの部隊が偵察に入っている。俺たちはその報告を待って、潜入する。』
「ミリアリア達の情報は?」
『まだだ。』
「了解。ここで待機する。」
ディアッカは、ヘルメットを外すと目を閉じ、深く息をついた。
「あの、バカ女…」
まんまと、この俺を守りやがった。
ディアッカの目が開く。
紫の瞳が、剣呑な光をたたえた。
「絶対、助ける。もう泣いて頼まれたって離さねぇ。」
「じゃあ、今ここにあるGシリーズには全部、核が搭載済みなんだな?」
サイがカズイから聞き出した内容は、いずれも明るいものではなかった。
「うん、ごめん…。俺が解析しちゃったから…」
「お前のせいじゃないよ。気にするなって。」
サイは項垂れるカズイの肩を叩く。
「あ、でもね、やつらが話してるの聞いちゃったんだけど、動かせるパイロットがいないらしいんだ。」
サイが訝しげにカズイを見た。
「なんで?積んでるOSはナチュラル用だろ?パイロット適性のある奴がいないのか?」
「そうみたい。それにさ、テロリストって言ってもあいつらそういう仕事はしたくないみたいな気がするんだ。」
「どういうことだ?」
そう聞き返しながら。
カズイは変わったー。サイはそう思った。
以前AAに乗艦していた頃は、臆病で人の意見に流されたり噂好きな性格でサイをたびたびげんなりさせていたが、今の彼は、好奇心旺盛なのはそのままに
自分の意見もきちんと持っているように見える。
「うーん、どう説明すればいいかな…」
そう首を捻るカズイ。
「なんかカズイ、変わったよな。」
サイが素直にそう言うと、カズイは照れ臭そうに笑った。
「俺だっていろいろ考えたよ。あの時AAを降りた事も、あれで本当に良かったのかなってさ。
トールの事も、戦争やコーディネイターの事も。」
「カズイ…」
「俺は軍人には向いてない。その事はよーく分かった。
でも別に、コーディネイターの事が憎いわけでもなかったんだ。ただ知らないだけで。
実際キラしか俺は知らなかった訳でしょ?あとは、AAにいた捕虜くらいで…。」
「…うん。」
その捕虜は現在ミリィの恋人ですと言ったらカズイはどんな顔をするだろう。
サイはふとそんなことを思った。
「知らないだけで、人に言われて怖いって決めつけちゃいけない。
そう思ったから、オーブに戻ってからモルゲンレーテの下請け企業で働いたんだ、俺。」
カズイは何かを思い出すように、遠い目をして話を続けた。
「そこはナチュラルとコーディネイターが一緒に働いててさ。
戦争の話ってやっぱり避けて通れないじゃない、そうなると。」
「うん。」
「そこでいろいろな人と話をして、なんかいろいろ吹っ切れちゃってさ。
俺、戦場には居場所がなかったけどさ。
やっぱりこうやって好きなことを研究したり開発に携わったりが性に合ってるなって実感したんだよね。」
カズイはまた、照れ臭そうに笑う。
「だから、俺は俺の戦い、みたいなのをここでしよう、って決めたんだ。
まぁ腕力はからっきしだから、あっさり捕まっちゃってここにいるんだけどね。」
カズイは、カズイなりに様々な出逢いを経て、戦う場所を決めたのだ。
サイが政治の世界を戦いの場と決めたように。
ミリアリアがジャーナリストとして、また軍人として戦う事を決めたように。
「カズイはすごいよ。…昔も今も。」
サイがそう言うと、何言ってんだよとカズイははにかんだ。
「そうだ、さっきの話。Gのパイロットのことなんだけどね。」
カズイが声をひそめた。
「地球軍の研究所?から特殊部隊みたいのを連れてきてそいつらに乗らせるみたいだよ。」
ついにカズイ登場です。種無印ではああいうキャラだったけど、彼は成長しそうな気がするんですよね…こんな感じに(希望的観測)。
2014,6,10up