Fashion Check 1

 

 

 

 
ミリアリアは時計を見上げ、慌ててシューズクローゼットの奥からブーツを取り出した。
ディアッカが借りていたアパートは、一人暮らしには不釣り合いな程に広くて収納も多い。
その為、プラントに来たミリアリアがここで共に暮らすようになっても荷物の収納に
困るなんて事は、まず無く。
普段使わないものは奥、よく使うものは手前に置いてもまだ充分な空きスペースがあった。
 
「型くずれ、してないかしら…」
 
そっと足を入れたムートンブーツは、オーブの実家に置きっぱなしになっていたのを両親が
送ってくれたもの。
内側のボアがふわふわで暖かく、地球にいる時からミリアリアのお気に入りだった。
外は、少し寒いけどよく晴れていて、絶好のお出かけ日和。
ミリアリアは玄関のドアを閉めると施錠をしっかりと確認し、足早に歩き出した。
 
 
 
 
「ミリアリアさん!お待たせしました!」
待ち合わせ場所であるオープンカフェに息を切らせて現れたのは、私服姿のシホ・ハーネンフース。
「ううん、私もついさっき来た所よ。ごめん、飲み物先に頼んじゃった」
ミリアリアは笑顔でシホにメニューをすすめた。
 
 
ミリアリアとシホは、お互い非番。
昨晩ディアッカとの会話で偶然それを知ったミリアリアは、シホにメールをして買い物に誘ったのだ。
互いのパートナーであるディアッカとイザークは、ともに仕事。
ミリアリアは、久しぶりの女同士のお出かけに心を躍らせていた。
「私はコーヒーで。」
シホが手をあげ、さっさと注文を済ませる。
ミリアリアはシホのさらさらな髪を何となく見つめて、思った事をそのまま呟いた。
 
「イザークに負けないくらい綺麗な髪よね…」
「え?」
 
シホが目を丸くする。
「うん、今日は髪おろしてるんだなって思って。シホさん、ずっとそのヘアスタイル?」
「はい。そう言えば小さい頃から、肩より上にはした事ないですね。」
シホは長い髪を指で摘んだ。
「いいなぁ、ストレート。私なんてこのまま伸ばしたらくるくるになって収拾つかないもの。」
ミリアリアの髪は癖が強く、どんなにブローしてもシホのように真っすぐにはならない。
それでも小さい頃は母の意向でだいぶ髪を伸ばしていたのだが、自分で髪を結べるようになるとまとまらないそれが鬱陶しくて、それ以来ずっとミリアリアは肩につくかつかないかの長さをキープしていた。
 
「あ、でも小さい頃は髪を伸ばしてらっしゃったんですよね?」
シホの言葉に、今度はミリアリアが目を丸くした。
「ど、どうして知ってるの?」
シホはくすり、と笑った。
「ディアッカが前に話していたものですから。小さい頃のミリアリアさんの写真を見る機会があって、ふわふわの巻き毛が天使みたいだった、って。」
「…あの、馬鹿…」
頬を赤らめて俯くミリアリアに、シホは言葉を続けようと開いた口を閉じた。
 
 
『まぁ、今だってミリアリアは俺の天使だから?髪型なんてカンケーないけどな!』
 
 
デレデレな笑顔でそう言ってイザークに殴られてましたよ、なんて、目の前のミリアリアを見たらとても言えるわけがない。
シホは運ばれて来たコーヒーに上品に口をつけ、これからどこに行きます?と話題を変えた。
 
 
 
 
「これ、シホさんに似合いそう!」
ミリアリアが手に取ったのは、背中部分にドレープが入ったカットソー。
前から見たらシンプルだが、背中側のドレープがちょっとだけセクシーだ。
「これに、今日みたいな細身のパンツ合わせてヒールのある靴はいたら、すごいシホさんっぽい!」
「うーん、確かにこれは可愛い、かも…です。でも背中見え過ぎですかね…」
「大丈夫よ!シホさんどの色も似合いそうだけど…これに薄い色のインナー合わせれば?
そしたら背中も気にならないんじゃない?」
「じゃあ…買っちゃおう、かな」
「そうしましょ?私、ニット欲しいのよね。あっちにあるかな?」
ミリアリアはきょろきょろと店内を見回した。
 
ここは、地球にもある有名な量販店。
手頃な価格で、シンプルなものからそこそこデザイン性のあるアイテムまで揃っており、地球にいた頃からミリアリアもたまに覗いていた。
 
「ミリアリアさん、そういう格好もされるんですね。」
シホの声に、ミリアリアは自分の服装を見下ろした。
 
 
今日の服装は、細身のデニムにムートンブーツ。
トップスはレースがあしらわれたボーダーのカットソーに、オレンジ色のカーディガンを合わせていた。
「私、動きやすい格好が好きなの。ワンピースとかも嫌いじゃないんだけど、本当はこういうデニムとかTシャツとかの方が着ていて落ち着くのよね。」
 
ディアッカと出かける時などはワンピースなどフェミニンな格好を心がけていたが、ミリアリアは本来カジュアルな格好が好きだった。
紛争地域や戦場を駆け回っていた頃はワンピースやヒールのある靴などもってのほかだったし、AAに再乗艦してからは毎日がオーブの軍服で。
ディアッカが選んでくれた洋服は、どれもミリアリアの好みにぴったりで決して着る事が嫌になったりはしなかったが、たまにはこういうのもいいのかも、とミリアリアは笑顔になった。
 
 
「悔しいから絶対にあいつにはいわないけど…
あいつの好きそうな格好を無意識に選んじゃってたのかも。
シホさんはそういうのってない?」
 
 
今日のシホは、やはり細身のデニムにヒールのあるジョッキーブーツを合わせたカジュアルスタイル。
Vネックのブラウスは光沢のあるオフホワイト。
それにカーキ色のトレンチコートを合わせ、首元には華奢なネックレスが光っていた。
 
「…確かに、あるかも、です。」
 
イザークは趣味がいい。
育ちのせいもあるのだろうが、目が肥えており自身も無頓着ながら高級なものを身につけている。
たまに二人で出かける時、シホはかなり気を使って洋服を選んでいたが、やはり無意識のうちにイザークが好みそうなもの、をチョイスしていた。
 
 
「……お互い、贅沢な悩みよね。これって。」
「……本人にしてみれば、それなりに深刻なんですけどね。」
 
 
自分らしい格好がしたいけれど、イザークはどう思うだろう?と不安に感じるシホ。
ディアッカが選んでくれた服を着るのは嬉しいけれど、たまには自分らしい格好がしたい。
でも今更恥ずかしい、と悩むミリアリア。
 
「…これも世界が落ち着きを取り戻して来た証拠なのかしらね」
 
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
 
 
 
 
 
 
 
007

管理人の自己満足ネタ満載の中編、スタート致しました!

テーマはずばり「女子力」(笑)

さりげなく、拍手小噺のネタなんて絡めてみたりして(●´艸`)

「空に誓って」から「天使の翼」の間のお話です!

全4話、楽しんで頂ければ幸いです!!

 

 

次へ  text

2014,9,20up