告白 2

 

 

 
「どこか落ち着いて手当て出来るところ、ないかしら?」
 
きょろきょろとするミリアリアに、ディアッカはしばし考え込み、口を開いた。
「…俺の部屋、とか?展望室とかでもいいけど、もし何かあった時あそこだと遠いだろ?」
ミリアリアのまっすぐな視線を受け止め、ディアッカは言い訳のようにそう付け足す。
「…そうね。じゃあ行きましょ」
そう言って、くるりと踵を返すミリアリアにまたディアッカは黙ったまま従った。
 
 
 
「座って。包帯変えるから。それとも先に着替える?だったら私、外に出てるわよ?」
ディアッカにあてがわれた部屋に入ると、ミリアリアはベッドに救急キットをそっと置いた。
「…とりあえず上だけ脱いどくから、お前はここにいろよ」
そう言って手早くスーツのファスナーを降ろして腰に引っ掛け、Tシャツ姿になるディアッカをミリアリアはぼんやりと眺めていた。
「…ミリアリア?」
「…え?あ、ごめん。今やるわ」
ミリアリアの小さな手がディアッカの額に伸ばされ、するすると包帯が解かれて行く。
手慣れた様子でガーゼを外して消毒を施し、新しい包帯が巻かれて行く。
その間、二人は無言のままだった。
 
「…はい、出来たわ。でも後で先生に診てもらうのよ?」
「…ああ。サンキュ」
 
再び訪れる沈黙。
それを破ったのは、ミリアリアからだった。
ベッドに腰掛けたままのディアッカの頭にミリアリアの腕が回され、そのままそっと胸に抱きしめられる。
「ミリ…」
「…なんで、返事しないのよ…」
自分に回された腕が震えていることに、ディアッカは初めて気づいた。
 
「…悪りぃ。こっちからは通信できなくなってて。でもお前の声は聞こえてた」
「あんたがいなくなっちゃったら、どうしよう、って、思って…。変な心配、させないでよね」
「でも、戻って来ただろ?」
「…うん」
 
ディアッカはミリアリアの胸に抱き寄せられながら、そっと目を閉じる。
よく考えたら、女にこんな風に抱き締められたことなど、ディアッカにとっては初めての経験だった。
しかも相手は、自分などよりよっぽど弱い、ナチュラルの女。
しょっちゅう泣いて、食事も取れなくなるくらい落ち込んで、それでもその弱さを周りに見せなかろうと必死で。
つっけんどんですぐ怒って、笑顔なんてなかなか見せてくれないけれど、本当は素直で優しくて、そして脆いけど強い女。
 
そんなナチュラルの女にどうしようもなく惹かれている事を、ディアッカは改めて自覚する。
いや、惹かれている、ではない。
自分は、ミリアリアの事がどうしようもなく好きなのだ。こんな気持ちになるのは、生まれて初めてかもしれない。
「…あのねディアッカ、私…」
「ちょっと待って。先に俺から話させて」
ミリアリアの腕の中で目を閉じたまま、ディアッカはそっとその細い腰に腕を回した。
「…ディ、アッカ?」
ミリアリアが戸惑ったような声を上げる。
 
 
 
「俺、お前のことが好きだ」
 
 
 
びくん、とミリアリアの体が震えるのが分かった。
「俺はザフトの人間で、コーディネイターで。今はとりあえず停戦したばっかだし、これから先、どうなるかもわからねぇ。そんな時にこんなこと言っても、お前を悩ませるだけかもしれないけど。それでも、伝えなきゃって思ってさ。悪りぃ」
「…どうして…謝るの」
ミリアリアの腕が緩み、ディアッカは顔を上げた。
 
 
 
「コーディネイターだろうがザフトだろうが、そんなの関係ないじゃない!ディアッカはディアッカでしょう?私だって、あんたのことが好きよ?悪い?」
 
 
 
そこには、碧い瞳に涙をたくさん溜めたミリアリアがディアッカを見下ろしていた。
「私、もう誰も好きになんてならない、トールを忘れるなんてあり得ない、って思ってたわ。でも、気づいたらあんたにどんどん惹かれて行ってた。それでもトールに申し訳ないって何回も思って、自分の気持ちに蓋をしていたの。こんな気持ち、認めちゃいけない、って思ってたから。だけど、だんだん自分の気持ちに嘘が…つけなくなって…」
「ミリアリア…」
瞬きをしたミリアリアの瞳から、ぽろり、と涙が零れた。
 
 
「バスターが被弾するのを目の前で見て、ディアッカがいなくなっちゃったらどうしよう、っておかしくなりそうだったわ。そんなの耐えられない、って思って。私、あんたの事こんなに好きになってたんだ、ってそれで気づいて…。でも、あんたにちゃんと自分の気持ち伝えてないのに、このまま会えなくなったらどうしようって…」
 
 
つ、とディアッカの手がミリアリアの頬に伸ばされた。
そのまま頬を濡らす涙を、指で拭われる。
 
「…ごめんな」
「…っ!だから、なんで謝るのよ!今の話、聞いて…きゃ!」
 
ディアッカはミリアリアの腕を引っ張り、ディアッカの膝を跨ぐような体勢にさせた。
そのまま後頭部に手を回し、華奢な体を引き寄せ、抱き締める。
まだどこかミリアリアとの間に種族の壁を感じていた自分。だがその壁を、ミリアリアは言葉一つであっさりと崩してくれた。
本当に、脆いくせに、強い女。
ディアッカの心に、ミリアリアへの愛しさが堰を切ったように溢れ出す。
 
 
「…お前はすげぇよ、やっぱり」
「何、言って…」
「ミリアリア、好きだ」
「…っ!」
 
 
強引に引き寄せられたせいで、ミリアリアの顔はディアッカの少し上にあった。
また涙が溜まり始めた碧い瞳を見上げ、もう一度「好きだ」と告げる。
ミリアリアの瞳から、涙がぽろぽろと零れ落ちた。
 
「ミリアリアは?俺のこと好き?」
「…さっき言ったわ」
「もう一度ちゃんと聞きたい」
そう言ってふわり、と微笑むと、おずおずと視線を彷徨わせた後に、ミリアリアはディアッカの目をじっと見つめ、小さな声で返事をした。
 
 
 
「私も…ディアッカのこと、好きよ」
 
 
 
ずっと聞きたかったその言葉に、自然と笑みが零れる。
そして、恥ずかしそうに目を泳がせるミリアリアの頭をそっと引き寄せ。
ディアッカは、ミリアリアの柔らかな唇にそっと自分のそれを触れさせた。
 
 
 
 
 
 
 
007

夏なのにごめんなさい、ディアッカお誕生日キリ番のお話になります(汗
こちらは2170hit御礼『祈り』と対になっています。
(と言うか、続編?)
これまた勢いで書いた為、所々説明不足な点があるかもしれません。
終わり方ももしかして中途半端?かも…(汗
ちなみにここではまだお二人、清いままです(笑)
以前少しだけ触れた、ミリアリアの「はじめて」のお話も、いつか機会があれば
書いてみたいなと思っています。

いつも私の拙いお話をお読み頂き、本当にありがとうございます!
皆様に楽しんで頂ければ幸いです。
今後とも、当サイトをよろしくお願い致します!

 

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2014,8,26up