告白 1

 

 

 

 
ブリッジに駆け込んだディアッカの目に、激しく刃を交わす両軍の姿が飛び込んで来た。
ミリアリアとサイがひっきりなしに自軍の状況を確認して声を張り上げ、ノイマンが的確な判断で艦を操舵する。
マリューはきっ、と前を見据え、次々と指示を出して行く。
しかしその目に光るものがあるのを、ディアッカは見逃さなかった。
つい先刻、AAを護り爆散したストライクの姿を思い出し、思わずディアッカはぎゅっと目を瞑る。
被弾した際に受けた頭の傷がじくり、と痛んだ。
 
 
愛するものを目の前で失う悲しみ。
それは、ディアッカが想像する以上に辛いものであろう。
かつて自分の言葉に激高し、ナイフを手に切り掛かって来たミリアリアの姿からもそれは容易に窺い知れる。
凛とした声で次々と指示を飛ばすマリューからそっと目を逸らし、ディアッカはミリアリアに目を向けた。
 
 
 
──ディアッカ!!いや!!
 
 
 
フェイズシフトの落ちたバスターの中で飛び込んで来た、身を切り裂かれるような悲痛な声。
その後も、ミリアリアは何度もディアッカの名を呼んでいた。
自分をこんなにも呼んでくれているのにそれに応える事が出来ない。
それがこれほどまでに苦しい事だと、ディアッカは初めて知った。
 
 
ミリアリアの座る席に手をかけ、そっと寄り添う。
その気配を感じたのだろうか、ミリアリアがこちらを振り返り、薄暗い中でも分かる綺麗な碧い瞳を大きく見開いた。
そして、一瞬だけ泣きそうな顔をした後、手元のモニタに視線を落とし戦況報告を続ける。
 
今はただ、傍にこうして立つだけでいい。
ミリアリアの傍で、イザークの、キラの、アスランの────この戦いの行方を見守ろう。
ディアッカは視線を前方に移し、激しく戦う両軍の姿を無言でただ見つめた。
 
 
 
 
 
「…キラくんは無事回収されたのね?…そう、ですか。分かりました」
エターナルからの音声通信にマリューが頷き、そのまま通話を終えた。
 
 
「本艦はこれより第二種戦闘配備に移行します。すぐに何か起こるとは思えないけど…休めるものは休んで頂戴。私は艦長室にいます。何かあれば内線を」
 
 
その声に、クルー達は一斉に息をついた。
管制席に座るサイがインカムを外し、シートの背に凭れる。
だがマリューがさっと立ち上がって逃げるようにブリッジを後にすると、そこにいたクルー達は改めてフラガの死を意識し、一様に俯いた。
 
「…医務室、行きましょ」
 
不意にミリアリアに声をかけられ、ディアッカは我に返った。
「サイ、ごめんね。ちょっとここお願いしていい?」
ディアッカの返事を待たず立ち上がるミリアリアに、サイも微笑んで頷いた。
「うん、行っておいでよ。ディアッカ、まだ出血止まってないみたいだし」
「え?マジで?」
慌てて頭の傷に手をやるディアッカをミリアリアは何とも言えない顔で見上げ、無言で出口に向かう。
そんなミリアリアを、ディアッカも慌てて追いかけた。
 
 
 
 
「…中にはちょっと入れなさそうね。ここで待ってて」
医務室は、先の戦闘で負傷したクルーで溢れかえっていた。パイロットとは言え応急処置の済んでいるディアッカが入って行くにはさすがに躊躇われる。
ミリアリアは、ディアッカを残して医務室に消えて行った。
廊下に一人残されたディアッカは、ふとイザークの事を思い出す。
あいつ…あれからどうしたんだろう?
自分を助けに飛んで来た親友は、ごちゃごちゃと文句を言いつつもAAで補給を受け、ストライクの装備を換装された後すぐにまた宇宙へ飛び出して行ったはずだ。
最もそれから間もなくして戦闘は終わったはずだし、一部始終を見ていたはずのエターナル側から何も連絡が無いと言う事は、きっとデュエルも無事母艦に戻る事が出来たのだろう。少なくともバルトフェルドは、イザークとディアッカの関係を知っているのだから。
 
──あいつとも一度、連絡を取らなきゃな。
 
そこまで考えた時、ディアッカの目に簡易救急セットを手にこちらへ戻ってくるミリアリアの姿が映った。
 
 
 
 
 
 
 
007

 

 

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