「ミリアリアさん!」
軽やかな声に呼び止められ、ミリアリア・エルスマンは分厚いファイルとタブレット端末を手に振り返った。
「メイリン!いつこっちに帰って来たの?」
メイリン・ホーク。
二度目の大戦の際、ザフトを脱走したアスランに連れられ、AAにやって来たミネルバのCIC担当の少女は、2年の年月を経ても愛らしい容姿はそのままだった。
違うのは、ツインテールだった綺麗な赤毛を下ろしている事くらい。
停戦後、解散したグラディス隊のメンバーは各部隊に散り散りになり、メイリンは別の艦でCICの任についたとミリアリアはアスランから聞かされていた。
「この間辞令が出たんです。今月初めから本部勤務になりました!
今日は正式に部署が決まるらしくて、そっちの辞令を受け取りに行くところです!」
そう言って無邪気な笑みを浮かべるメイリンに、ミリアリアもつい笑顔になる。
「そうなんだ。それにしても久しぶりよね…。元気だった?」
「はい!ミリアリアさんの結婚式、テレビで観ましたよぉ?
今更ですけど、おめでとうございます!」
「…もう2年も前の話よ。でも、ありがとう。それだけ会ってなかったって事よね。」
ミリアリアは苦笑しつつも礼を言い、メイリンと並んで歩き出した。
ディアッカとミリアリアが結婚して、2年が経った。
入籍、挙式直後は慌ただしかった二人の周囲も徐々に落ち着きを取り戻し、二人はそれぞれに与えられた職務をこなす傍ら、順風満帆とは言えないまでもそれなりに穏やかな新婚生活を送っていた。
小さなテロ事件があったり、遅くなった新婚旅行を兼ねての地球への里帰りなど、決して穏やかなだけではなかったが、ミリアリアはこうしてディアッカのそばにいられる、という幸せを日々噛み締めていた。
ラクスは相変わらず評議会議長としてその辣腕を振るっている。
こちらも愛らしい容姿は20歳を超えても変わらず、可憐な歌声も健在だ。
キラも以前よりずいぶんと明るくなり、プラントでの生活にもすっかり馴染んだようだった。
ラクスとの仲も相変わらずで、プラント市民の間では、いつ二人が婚約、結婚するのかが密かな話題になっているらしい、とサイが言っていた。
カガリを筆頭とする地球連合側との和平政策も、少しずつではあるが軌道に乗り始めている。
2年前に地球に降りたアスランの、影からの支えもあるのだろう。
やっと大切なものが何なのかを見極め、全力でそれを守ろうとするアスランを、ミリアリアは見直していた。
ただ、依然としてプラントでも地球でも反対勢力の存在は消える事が無かった。
地球では相変わらずブルーコスモスのテロが断続的に起きており、ミリアリア達が地球に降りた際も危うくテロに巻き込まれかけた。
戦前よりは勢いも落ちているようだったが、未だコーディネイターを忌み嫌うナチュラルがいる事に、ミリアリアだけでなく、ディアッカもやるせない表情を浮かべていた。
そしてここ、プラントにおいてもパトリック・ザラ前議長のナチュラル排斥論を未だ支持するものは少数だが存在する。
ラクスの政治家としての支持率は高く、現状でナチュラル排斥論を主張しても大衆の支持は得られない。
それを分かっているからこそ、旧ザラ派は表に出て来ていないだけであろう、と元ジャーナリスト的観点からミリアリアは分析している。
2年前、まだ二人が婚約者者同士だった頃、ミリアリアは何度もテロリストに襲われた。
ナチュラルとコーディネイターの結婚は、当時の世界にとって大きなトピックスだったからだ。
『あの方』とテロリストが口にしていた人物の存在も、入籍の翌日に届いた謎の手紙の事も忘れた訳ではない。
当時、バルトフェルド隊長の率いるラクス直属の部隊が全力で捜査に当たったが、とうとう正体は分からぬままであった。
しかし、結婚式の後ミリアリアに対するテロリストからの手出しはぴたりと止んでいた。
「いい加減諦めたんじゃねーの?だって俺たちもう公にも夫婦って認められちゃった訳だし?」
そんな呑気なディアッカの言葉に素直に頷く事もできないミリアリアだったが、縮小されたとはいえ今もダコスタ達によって捜査は続けられているとラクスに聞き、油断してはいけない、と自らを戒めていた。
「そう言えばミリアリアさん。ジュール隊長、ついに議員になられるって本当ですか?」
メイリンの問いかけに、ぼんやりとしていたミリアリアははっと我に返った。
「うん、そうみたい。しばらくは軍と兼務になると思うけどね。」
「へえぇ〜!やっぱりザフトの英雄って呼ばれているだけあるんですね!すごいなぁ…。」
「メイリン、イザークに会った事無いの?」
「はい。私みたいな一般兵、ジュール隊の隊長と関わりなんてなかなか無いですもん!
でも、これからはもしかして、すれ違う事くらいあるかもですよねぇ〜」
そう言ってきゃらきゃらと笑うメイリンに、ミリアリアもつられて笑顔になる。
夫であるディアッカの親友で上官でもあるイザーク・ジュールは、以前から噂されていたように評議会議員として政界に進出する事が先日正式に決まった。
ただ、軍部にとっても二度の大戦を最前線にいながら生き残った『英雄』のひとりであるイザークを簡単に手放す訳も無く、しばらくはシホやディアッカの助けを借りて隊長職をこなしながらの政界進出となる。
イザーク、さらに忙しくなるわね…。
てことは、ディアッカも?
ミリアリアは、ただでさえ激務気味の夫を思い、小さく溜息をついた。
![]()
お待たせしました!4作目の長編です。
いきなり新キャラ登場です!
2014,8,14up