涼やかなチャイムの音に、シホは顔を上げ小走りに玄関まで向かった。
「こんにちは、シホさん。引越しおめでとう。」
ドアを開けると、そこにあったのはミリアリアの笑顔。
「こんにちは。わざわざすみません、お休みなのにお手伝いなんてお願いしてしまって。」
新婚間もないミリアリアのせっかくの休暇を潰してしまう事に罪悪感を感じながら、シホはあたふたとスリッパを勧めた。
「気にしないで?一人でいてもついダラダラしちゃうし。
それに、私から押しかけたようなものじゃない?」
現在、ミリアリアは新婚三ヶ月。
先に入籍を済ませたので、結婚式からはまだ一ヶ月だ。
彼女の夫であるシホの同僚、ディアッカ・エルスマンは本日、シホの恋人であるイザーク・ジュールと共に日帰りでコペルニクスに出張している。
引越しの為、とシホに休暇をくれたイザークは、プラントに戻り次第この部屋を訪れる予定だ。
そしてミリアリアの発案により、ディアッカも一緒に今夜はシホの部屋でささやかな引越し祝いをすることになっていた。
「夜には二人も帰ってくるでしょ?
それまでに部屋をあらかた片付けて、ご飯の準備しちゃいましょ?」
ミリアリアの明るい笑顔につられ、シホもにこりと微笑んだ。
「はい。よろしくお願いします、ミリアリアさん。」
4ヶ月前、イザークを逆恨みしたザフト兵によってある事件が起こされた。
被害にあったのは、シホ・ハーネンフース。
程なくして犯人たちは検挙されたが、その事件によりシホは心に傷を負い、一時期自分の殻に閉じこもってしまっていた。
その殻を破ったのは、イザーク・ジュール。
彼の強い想いと言葉にシホは自分を取り戻し、新しく与えられた黒服を身に纏うと隊に復帰した。
復帰にあたり相談を受けていたミリアリアも、やっと想いを通わせた二人に安堵し、自分の事のように嬉しく思ったものだった。
「ねぇシホさん、その髪留め、すごく素敵ね。」
キッチンで夕食の下ごしらえをしていたシホは、背後からかけられた言葉に振り向き恥ずかしそうに微笑んだ。
「ありがとうございます…。これ、隊長が下さったんです。」
「イザークが?」
「はい。」
シホは柔らかく微笑むと、手を止める事なくその時の事を語り始めた。
2000hit御礼小説です。
今回は、イザークとシホの物語となります。
全6話、お楽しみ頂ければ幸いです!
2014,8,7up