45, 空に誓って 2

 

 

 

 
パイプオルガンとハープの音が鳴り響く。
礼拝堂は、荘厳な雰囲気に包まれていた。
 
AAの主だったクルー、イザークとシホ、オーブの面々、アマギにサイ、カズイ、ミリアリアの母とタッド、エザリア。
そして、キラとラクス、アスラン。
皆が入り口に目を向け、新郎の入場を待っていた。
 
 
「ディアッカ、大丈夫かな?」
「あいつは心配ないだろう。本番には強いやつだからな。」
「どちらかと言うと、カガリさんが心配なのでしょう?アスランは。」
「っ…。あのカガリが介添人だぞ?そりゃ心配…」
 
その時、入口のドアが開いた。
皆の視線が集中する。
 
 
そこにはザフトの白い礼服を纏った、ディアッカが立っていた。
 
 
 
 
ディアッカは優雅な仕草で、堂内に一礼する。
豪奢な金髪が、窓からの光に輝いて。
口元に称えた微笑が、端正な顔に彩りを添えていた。
 
「さすが。派手だよねぇ…」
「もう。それを言うなら優雅、でしょう?ね?マードックさ…」
フラガの言葉に、マリューは隣に立つマードックに声をかけようとし…。
 
無言でディアッカを見つめて涙ぐむ無骨な男の姿に、フラガと顔を見合わせそっと苦笑した。
 
 
 
 
ヴァージンロードをそつなく歩き、神父の元に到着したディアッカが、来た道を振り返り優雅に一礼する。
 
「それでは、新婦の入場です。」
 
先程とは違う旋律が堂内に 響き渡り、ゆっくりとドアが開いた。
そしてーーー。
 
 
 
 
そこに立つミリアリアを見た瞬間、ディアッカの周りから全ての音が消えた。
 
 
 
 
柔らかい癖毛を活かし、美しく結われた髪。
二人で見つけた、サファイアと小さなダイヤモンドを使って花を模したシンプルな髪飾りは、ミリアリアにとてもよく似合っている。
揃いのイヤリングとネックレスは、ディアッカが選んだもの。
髪飾りと同じサファイアとダイヤモンドがきらきらと輝いている。
繊細で裾の長いヴェールは、ミリアリアが一目見て気に入り、選んだものだ。
 
 
そして幾つもの候補の中からミリアリアが選んだ、華奢な体に纏うオフホワイトのウェディングドレスは、幾重にも重なる繊細なレースでふんわりと膨らみ、まるで童話に出てくる姫のようで。
 
 
本当に、本当に綺麗だった。
 
 
 
 
招待客からも、感嘆の溜息が漏れる。
 
「ミリアリアさん…綺麗ですね、隊長。」
「ああ…よく似合っているな。見ろ、さすがのあいつも固まっている。」
 
父親であろう男性と腕を組み、ゆっくりとディアッカの元に歩くミリアリア。
ディアッカは目を見開き、その姿に見惚れているようだった。
 
 
「…それとシホ。プライベートでは名前で呼べと言っただろう?」
恋人の小さな叱責に、シホはくすり、と笑った。
「そうでしたね。ごめんなさい、イザーク。」
 
 
 
 
ミリアリアが、父親であるレオナルドに手を取られ、ディアッカの前までやってくる。
それまで俯き加減だったミリアリアの視線が上げられ、その美しい碧の瞳がディアッカを映した。
ディアッカは、手を伸ばす。
少しだけ行儀の悪い、そしてどこか彼らしいその態度に、招待客たちはみな微笑む。
ミリアリアもふわりと微笑むと、そっとディアッカの手を取った。
 
 
 
神父の祈りの言葉、讃美歌、そして誓いの言葉に指輪の交換。
カガリが差し出したリングピローは、ラクスの手作りだ。
既製品にはない、心のこもった手縫いのリングピロー。
裁縫が苦手なミリアリアの為に、ラクスが何日もかけて縫い上げたとディアッカはキラから聞いていた。
 
 
ディアッカは恭しく指輪を取り出すと、それにひとつキスを送りミリアリアの指に嵌める。
ミリアリアも同じようにそっと指輪に唇を触れさせ、ディアッカの指に嵌めた。
 
 
 
 
「それでは、誓いのキスをーー」
神父の声に、ミリアリアがそっと身を屈め、ディアッカの手がヴェールを持ち上げる。
その手が震えている事に気づいたのは、きっとミリアリアだけだったろう。
ミリアリアが顔をあげ、碧と紫の視線が優しく絡み合う。
 
 
 
戦場で最悪の出会いをした二人。
敵同士から仲間へ、そして一度は恋人同士になったものの別離の時を迎え敵として戦って。
それでもまた出会い、再び心を通い合わせ、二人は今ここにいる。
 
 
 
 
ミリアリアは、ディアッカの端正な顔をじっと見つめる。
ディアッカが、何?というように視線で問いかけて来た。
そんな些細な表情の変化がわかるようになったのは、プラントに連れて来られて一緒に暮らし始めたあたりから。
種族の壁を越え、たくさんの障害を乗り越え、それでもミリアリアを愛していると、ずっとそばにいて守り続けると言ってくれた、ミリアリアが宇宙で一番大切に想う男。
 
 
彼を信じて、ここまで来た。
そしてこれからも、ミリアリアはディアッカを信じ続けるだろう。
今ここにいる、そのままのディアッカを愛しているから。
 
 
 
…トール、空から見守っていてね。
私、この人と幸せになるから。
 
 
 
ミリアリアは誓う。
自分も、この命が尽きるまでディアッカのそばにいて、彼を愛し、守り続けよう、と。
 
 
 
 
ミリアリアの瞳から零れ落ちた涙に、ディアッカは少しだけ驚いた顔をし、そして優しく微笑んだ。
出会った頃から相変わらず、泣き虫のミリアリア。
意地っ張りで考えなしで無茶ばかりして、そのくせ本当はひどく優しくて…。
でも、それがディアッカの愛したミリアリアなのだ。
 
 
停戦当時、AAでディアッカがサイに語った言葉。
あいつの感じた喜怒哀楽、全部受け止められる男になりたい。
これからもきっとたくさん喧嘩して、仲直りして、支え合って…。
それでも、あの時語った想いに、生涯変わりはないから。
 
 
 
ディアッカは誓う。
この先、この命が果てるまで、ずっとミリアリアのそばにいる。
ひとりになんて、しないから。
俺がこいつを守るから。
ずっと愛し続けて、宇宙で一番幸せにしてみせるから。
 
 
 
…だから、安心しろよな。トール・ケーニヒ。
 
 
 
ミリアリアが、涙を溜めた瞳を細めて、ふんわりと幸せそうに笑う。
また一粒、ぽろり、と涙がその頬を伝った。
 
ディアッカの手がミリアリアの体を引き寄せる。
ミリアリアの手も、ディアッカの腰に回されて。
唇が、ゆっくりと重ねられる。
 
 
 
 
ステンドグラスの幻想的な光の中、二人は、誓いのキスを交わした。
 
 
 
 
 
教会の外には、多数の報道陣が待ち構えていて。
世紀のカップルである二人の写真はプラントだけでなく地球でも大きく報道され、愛らしいナチュラルの花嫁と、精悍で美しいコーディネーターの花婿は一躍有名になった。
二人の結婚は、ナチュラルとコーディネーターの架け橋、として祝福され、披露パーティーでミリアリアが纏ったドレスの柄までもがその年の流行となるほどだった。
 
 
 
そんな華やかな記事を笑顔で見つめながら、地球のとある場所で空を見上げる男がいた。
オレンジ色の髪を海風に靡かせ、ぽつりと呟く。
「いいかげん、一度あっちに戻るかな…」
おめでとうくらい、言いてーし。
ラスティ・マッケンジーはひとつ息をつくと、ゆっくりと歩き出した。
大切な友人達が写っている記事を、そっと鞄にしまって。
 
 
 
***
 
 
 
「なんだか…すごい恥ずかしいんだけど。」
 
記事を片手に顔を赤らめて呟くミリアリアの頬に、ディアッカは唇を落とした。
 
「だって、しょうがねぇじゃん。ミリィ、ほんとに綺麗だったし。
あのまま連れて帰りたいくらいだったぜ?誰にも見せたくなくてさ。」
「ばかね、それじゃ意味がないでしょ?あれだって一応お披露目なんだから。」
 
くすくすと笑うミリアリア。
ディアッカは、そんなかわいい妻をぎゅっと抱き締め、花の香りを楽しんだ。
「…愛してる。」
「…あんまり言ってると、減るわよ?」
二人は顔を見合わせ、どちらからともなく唇を合わせた。
触れるだけの、優しいキス。
 
 
「…もっとしていい?」
「…減るわよ。これも。」
 
 
 
繋いだ手は、もう離さない。
重ねた心は、もう離れない。
二人がそう、空に誓ったからーー。
 
 
 
 
 
 
 
016

たくさんの仲間や友人達に見守られ、祝福される二人。

二人の物語は、これからもずっと続いて行くのでしょう。

 

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。

 

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2014,8,5up

2014,8,6一部訂正