月面旅行8 〜約束〜

 

 

 

 

二人がホテルの部屋に戻ると、先程買った大量の服と小物が部屋に届けられていた。
「そう言えばこれ…いつの間に配達の手配したの?」
不思議そうに首を傾げるミリアリアに、ディアッカは苦笑して説明をはじめた。
 
「あの後マリアにすげぇ詰め寄られてさ。彼女が傍にいるなら何ですぐ言わないのか!?って。で、後はやっといてやるからとっとと追いかけろ、って言って、配達の手配してくれた」
「え…そうなんだ…」
「あいつ、ああ見えてかなり性格きついんだぜ?お前がいなくなった後、マジですっげぇ怒られたんだから、俺。イザークなんか、小さい頃泣かされてたしな」
 
あんな天使のようにかわいい人に泣かされるイザーク…。
その光景を想像し、ミリアリアは思わず吹き出した。
「いや、笑い事じゃねぇし…」
「ごめん、だって…あんな天使みたいにかわいい人に泣かされるイザークって…ぷっ…」
「天使、ねぇ…」
げんなりした顔のディアッカ。
その表情にミリアリアはまた可笑しくなって、くすくすと笑い続けた。
 
 
 
「明日の今頃はもう、AAにいるのね…」
入浴後に乾かしたばかりの髪を気にしつつ、コペルニクスの夜景を眺めながら、ミリアリアはつい溜息をついた。
「また来年来ればいいじゃん。今度はもっとゆっくり、さ」
逞しい腕が後ろからミリアリアを包み込む。
ミリアリアは一瞬躊躇した後、その腕にぎゅっとしがみついた。
 
「…なんか、ごめんね」
「え?」
「昨日は酔っぱらって先に寝ちゃうし、今日は早とちりで迷子になっちゃうし…。私、かわいくない事ばっかり言って、ディアッカ、楽しくなかったんじゃない?」
「ミリィ…」
「だめ!このまま聞いて!」
 
いつもなら恥ずかしくて言えない事でも、この体勢なら言える気がして。
ミリアリアは顔を赤らめながら、それでも精一杯の素直な気持ちをディアッカに伝えようと言葉を続けた。
 
 
「…私はきっと、あんたが考えてる以上にあんたの事が好きよ。今までも、これからも」
 
 
ディアッカが、ひゅっと息を飲むのが分かった。
そうして、ミリアリアに回された腕に力がこもる。
 
 
「俺は、意地っ張りで負けん気が強くて泣き虫なお前も、優しくてたまにそうやって素直になるお前も、全部愛してる。今までも、これからも」
 
 
その言葉に、今度はミリアリアが息を飲んだ。
そして力の緩んだ手を、ディアッカの手がそっと掴み、指に冷たいなにかが当たる。
「…え?」
そこに目を落とし、ミリアリアは今度こそ言葉を失い、固まった。
ディアッカに掴まれたままの左手。
その、薬指に。
アメジストのついた指輪が嵌められていた。
 
「約束の、しるし」
「やく…そく?」
 
ミリアリアはそっと指輪に右手の指を滑らせる。
「そう。来年もまた、二人で桜を見に来る約束。あとは…そうだな、離れていても気持ちは繋がってる、ってしるし、かな」
ミリアリアは堪らず、体を反転させくるりとディアッカに向き直った。
「…次にそこに嵌める指輪は、ちゃんと二人で選ぼうぜ?」
「…うん」
ミリアリアは改めて指輪に目を落とす。
アメジストは、2月の誕生石。
自分の誕生日をディアッカが覚えていてくれた事も、指輪を準備してくれていた事も信じられないほど嬉しくて、幸せで。
「ありがとう…。すごい、嬉しい」
花のような笑顔を浮かべるミリアリアを、ディアッカもまた笑顔で抱き締めた。
「…楽しかったぜ?俺」
「え?」
「新しい発見もあったしな。まさかお前が木に登るなんてさ」
「ち、小さい頃、よくそうやって遊んでたの!今は滅多な事じゃやらないわよ!」
腕の中から上がる抗議の声に、ディアッカは可笑しそうに笑った。
 
「さっきさ。お前、マリアの事天使みたいとか言っただろ?」
「え?うん、だってすごくかわいい人だったから…」
「俺は、お前の方がよっぽどそう見えた。天使じゃなくて…そうだな、妖精?」
「な…!よ…よ…」
 
あまりに気障な言葉に絶句するミリアリア。
「そ。桜の妖精。洋服の色もあったかもしれねぇけど、桜の木から俺の所に降りて来たお前は、ほんとに妖精みたいだった」
「ば…ばかじゃ、ないの…?」
妖精って…。妖精って!!
ミリアリアはあまりの言葉に、恥ずかしさを通り越して呆然としてしまった。
どこまで気障な台詞を口にするのだろう、この男は!!
「そういう、とことん恥ずかしがり屋の所もミリィのいいとこだよなー」
ディアッカは愛おしげにミリアリアを見つめ、その額に唇を落とす。
「どんなに強がっても、喧嘩しても。お前と一緒にいられるだけで、やっぱり楽しかった。今すぐって訳には行かないけど、この先も、俺はお前とずっと一緒にいたい」
「…私も、一緒にいたいわ。あんたとなら、ずっと」
ぎゅ、と自分の胸にしがみつくミリアリアの柔らかい髪を、ディアッカはゆっくりと撫でた。
 
 
「…いい?」
 
 
なにが『いい?』のかなど、聞かなくともミリアリアには分かっていて。
返事の代わりに、碧い瞳を揺らしながらディアッカを見つめ、小さくこくりと頷いた。
 
 
 
何も身に付けていない華奢な体がそっとベッドに横たえられ、ディアッカの唇がゆっくりと落ちてくる。
甘く激しいキスは唇以外の場所にも無数に落とされ、その度にミリアリアの体をびくり、びくり、と跳ねさせた。
 
「ディ、アッカ…好き、よ」
 
掠れた声でそれだけ伝えると、ディアッカがミリアリアの耳元にキスを落とし、「俺も、愛してる」と小さく囁いた。
ミリアリアは目を閉じ、重ねられた大きな手に指を絡めると全てをディアッカに委ね、微かに震えるその身を任せた。
 
 
***
 
 
「ミリィ!おかえり!」
「よぉ、坊主!」
AAの格納庫には、ディアッカに送り届けられたミリアリアの出迎えに何名ものクルーが集まっていた。
「ただいま!こんな時期にお休みさせて頂いて、ありがとうございました。」
「あのさぁ、いいかげん坊主って呼ぶのやめよーぜ?俺もう十九だっつーの!」
ミリアリアの溌剌とした声に、ディアッカのげんなりとした声。
格納庫に明るい笑い声が響き渡った。
そんな中キラは、ミリアリアの左手にしっかりと嵌められた指輪に気がつき、くすりと笑った。
 
 
どうやら、しっかり楽しんで来たみたいだね、ディアッカ。
 
 
心の中でそう呟き、キラは笑顔でミリアリアに話しかけた。
「ねぇミリィ。僕とアスランが教えた桜並木、見に行ったの?」
 
 
 
 
 
–fin–
 
 
007

全8話となってしまいましたが、やっと完結致しました!
EMC様、いかがでしたでしょうか?
ディアッカのあまりの気障っぷりと糖度500%っぷりに、ミリィだけでなく書いている私も絶句しました(笑)
菫史上、最高に甘いディアッカかもしれません。
ご期待に添えたかどうか甚だ不安ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

ちなみに、指輪はミリィが試着している隙を狙ってこっそりディアッカが購入しました。
さすがにプラントにいる間に用意する暇は、ねぇ(徹夜明けで現れたくらいだし)…。
桜並木を舞台に選んだのは、アスキラのお別れシーンが印象に残っていたからです。
あれが桜だったのかは非常に不安なのですが、菫ワールド内では桜という事で決定致しました(笑)
ミリアリアらしいチョイスだったと思うのですが、皆様のご意見なども聞かせて頂ければ幸いです。

リクエストを頂いたのに、upが遅くなってしまい申し訳ありませんでした!
これからもDMへの愛を糧に、頑張って物語を作り続けて行きたいと思っています。
いつもサイトを訪問して下さる皆様、そしてリクエストを下さったEMC様、本当にありがとうございます!
今後ともよろしくお願い致します!!

 

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2014,8,1up