「…ミリアリアさん?」
「ごめんなさい、突然…」
「どうしたんですかその恰好!」
「あの…」
「……ディアッカと何かあったんですね?」
「………」
「ちょっと待っててください」
ミリアリアが頼れる場所など、プラントでは限られている。
ボロボロの状態で無意識に向かった先は、何度か遊びに来た事もある、シホ・ハーネンフースの部屋だった。
以前はザフトの寮で暮らしていたシホだったが、とある事件をきっかけに住まいを変え、今はミリアリア達の住むアパートから歩いて行けるくらいの場所に部屋を借り、一人暮らしをしていたのだ。
ちょっと待ってて、と通された、玄関に一番近い部屋で、ミリアリアは両手で顔を覆い、小さく蹲った。
「……申し訳ありませんが、隊長」
「何だ?」
「今すぐご帰宅を」
「…は?」
「今の私の優先順位は隊長では無く、ミリアリアさんです」
「…何だか良く分からんが、何かあったのか?」
「あったみたいです。今、彼女が来ておりますので、これから話を聞こうと思います」
「…分かった。俺が居ないほうがいい、という事だな」
「申し訳ありません」
「いや、いい」
そう言うと、イザークは立ち上がった。
ぱたん、と玄関のドアが閉まる音に、ミリアリアは顔をあげた。
「…お待たせしました。入っても大丈夫ですか?」
ドアの向こうから、シホの落ち着いた声が聞こえる。
「…うん」
小さい声で、しかしはっきりとそう答えるとシホが部屋に入って来た。
手には、何枚かのタオルと服を抱えている。
「…っく、シホ…さん…」
シホは黙って、蹲るミリアリアの前に膝をつき、震える小さな体をぎゅっと抱きしめた。
「話、出来ますか?」
ミリアリアは嗚咽を漏らしながら、力なく首を振る。
「ごめん、ね…。イザーク…来てたん、でしょ?」
シホは柔らかく微笑み、そっとミリアリアの背中を擦った。
「大丈夫です。いつでも会えますから。
それよりミリアリアさん、まずは着替えを。シャワー、使いますか?」
ミリアリアはその言葉に、こくん、と頷いた。
***
シャワーを浴びたディアッカは、苛立つ心を何とか抑えながらリビングのソファにどかりと腰を下ろした。
アパートの中は静かで、寝室からは何の物音も聞こえない。
ミリアリアの涙を溜めた大きな碧い瞳を思い出し、ディアッカは溜息をついた。
他の女のところに行けば、だと?
私は止めない、って?
あの意地っ張り、言いたい放題言ってくれやがってーー!!
先程までの乱暴な行為の理由。
それはひとえに、ディアッカの「嫉妬」であった。
ザフト軍とオーブ合同での小さな式典が催されることになり、その準備の為にミリアリアがザフト本部にやってきた。
プラント側からはラクスの命により、ジュール隊がその準備に携わった。
ディアッカは別の任務があり隊を離れていたが、それでもたまに戻る隊長室や本部内の至る所でイザークとミリアリアが二人で居るところを見かけた。
仕事だから、と内心苛立ちつつも我慢していたが、式典に向かう途中段差につまづいたミリアリアを、ディアッカの目の前でイザークが腕を引いて抱き止めたのだ。
はにかんだ笑顔で何かを言うミリアリアと、滅多に見せない柔らかい笑顔でそれに答えるイザーク。
たかがそんなこと、かもしれない。
それでも、その瞬間ディアッカの心に、昏い嫉妬の炎が燃え上がった。
式典の準備は無事終わり、本部で落ちあったミリアリアはそんなディアッカに気づいた様子もないまま二人でアパートに帰宅した。
そして、寝室のドアを閉めた瞬間、ディアッカの中で何かが切れたのだった。
濡れた髪を乱暴にタオルで拭うと、ディアッカは立ち上がった。
いつまでもこうしていたって仕方ない。
とりあえず、シャワーで少しは頭も冷えた。
先程のミリアリアの言動については、今からじっくり話し合えばいいだろう。
ディアッカは寝室のドアを開けた。
室内は真っ暗で、人の気配もない。
「…ミリィ?」
ディアッカが灯りをつけると、部屋はもぬけの殻だった。
「ミリアリア?」
慌てて他の部屋を見て回る。
しかし、ミリアリアの姿はどこにもなかった。
寝室に戻り、クローゼットを確認するが特に変わった様子はない。
荷物も帰ったときのままで、バッグの中には携帯電話も入ったままだ。
だが、玄関を確認するとミリアリアの靴が消えていた。
あいつ…あんな格好のままこんな時間に外に出たのか?!
つい今しがたまで感じていた苛立ちや嫉妬など、一瞬で吹き飛び。
ディアッカは素早く服を着込むと携帯を手に、靴を履くのももどかしく外へ飛び出した。
ミリアリアが向かったのは、シホの元でした。
そして、嫉妬に苛立つディアッカは…?
2014,7,22up