資料室は、本部内の少し奥まった場所にあった。
分かりにくい場所だったが、あらかじめディアッカに場所を聞いておいた事もあり、ミリアリアとカガリはそれほど迷うことなくそこにたどり着いた。
「急いで探しちゃうから。早く終わらせてクサナギに戻りましょ?」
そう言って目当ての棚を探すミリアリアの肩に、カガリの手がそっと触れた。
「…待て。おかしい。」
声を潜めてそう呟くカガリ。
「え?何が?」
ミリアリアは訝しげに振り返った。
「あの奥のドア。なぜ少しだけ開いているんだ?」
ミリアリアが目をやると、資料室の一番奥にあるドアが確かに少しだけ開いている。
「…閉め忘れ、とか?」
「ザフトはそんなに管理がずさんなのか?一応、許可がないと入れない場所なんだろ?ここ。」
カガリはそう言うが早いか、そっとドアに忍び寄る。
「ちょ、カガリ…」
万が一の事態を考え、ミリアリアはカガリの後を追った。
「マジかよ?宙港にジュール隊の隊員が?」
半開きのドアの向こうから聞こえてきた声に、ミリアリアとカガリは思わず顔を見合わせ、慌ててドアの影に身を潜めた。
「あれだけ脅しといたのに、シホちゃん結局あいつにゲロっちゃったってこと?」
「…いや、そうとは限らないだろう。可能性は低いが、誰かが俺たちの事に感づいたのかもしれない。」
「当時はエルスマンも軍事裁判で拘束されてたし…あいつとシホちゃん以外にそこまで頭の切れる奴いたかぁ?」
「…それか、展望室で誰かに感づかれていたか、だな。」
ミリアリアとカガリは顔を見合わせた。
聞こえてくる声は、二人分。
そしてその内容からして、おそらく現在ディアッカ達が必死で捜索しているシホを襲った犯人、であることに間違いはない。
ミリアリアは咄嗟にポケットから携帯を取り出し、メール送信画面を開いた。
そして手早く何かを打ち込み、カガリにそっと見せる。
【今からイザークとディアッカ、キラ、アスランにメールを送る。
もし気づかれた時のために、カガリは隠れていて。】
カガリの目が見開かれ、ぶんぶんと首が横に振られる。
しかしミリアリアは何と言ってもオーブの軍人だ。
カガリを危険な目に合わせるわけにはいかなかった。
【カガリに何かあったらみんなが困るの。お願いだから言うことを聞いて。】
画面に目をやり、さらに険しい顔で首を振るカガリ。
ミリアリアは少し迷った後、素早く文章を打ち込んでカガリに見せた。
【分かった。とりあえずあと少しこのままで。今からメールを作って送る。
あいつらの話をちゃんと聞いておいて。】
カガリは頷き、厳しい表情になった。
本来ならカガリを危険な目に合わせたくはなかったが、ここで揉めて時間をロスしたくはない。
ミリアリアは、シホを襲った犯人たちの会話を盗み聞きながら、必死でメールを作成した。
『今、本部の資料室。シホさんを襲った犯人を発見。すぐ来て。
場所はディアッカが知ってる。本部の奥の方。
犯人が移動しそうなら私が引き止めておくから。』
彼らが今どこで何をしているか、ミリアリアには分からない。
このうち、誰か一人でもいい、メールに気づいてくれさえしたらーー!!
ミリアリアは祈るような気持ちで、送信ボタンを押した。
ジュール隊隊長室。
イザークは、手にしたカップをソーサーにそっと戻した。
ふわり、と良い香りが鼻腔を擽る、普段ならシホが淹れてくれるはずの紅茶。
イザークは重い溜息をついた。
あれから、イザークはシホの所に行っていなかった。
あそこまで自分を否定されたのは初めてで、イザークはどうすればいいか分からなかった。
同情なんていらない。
汚いから触らないで。
もう私に構わないで下さい。
シホにぶつけられた言葉の数々が、イザークの心を抉る。
「…もう遅い、のか?」
気付けばぽつりと、そんなことを呟くイザークの懐で、携帯が震えた。
ウィンドウには、ミリアリアの名前とメールのマーク。
「ミリアリアから?」
イザークは怪訝な表情のまま画面を開きーーがたん!と立ち上がった。
カップとソーサーが、その衝撃で耳障りな音を立てた。
![]()
人気のない資料室で偶然犯人を発見したミリアリアとカガリ。
シホに想いを馳せるイザークの元に、ミリアリアからのメールが届きます。
2014,7,16up