「お待たせいたしました」
微妙な空気の談話室に、ピンク色の優しい空気が混じり合う。
ラクス・クラインが到着したのだ。
続いてキラ、アスラン、バルトフェルドにマリューも揃う。
砂漠の虎も来たのか。
意外な気持ちで目を見張るディアッカの隣で、イザークがぎりぎりとアスランを睨みつけていた。
先程ラクスと挨拶をかわした際の笑顔は見る影も無い。
睨まれる覚えはしっかりあるらしいアスランが、笑顔のつもりか口の端を無理やりあげて、やぁ、イザーク、と挨拶にもならない挨拶をした。
そんなやりとりに、ディアッカはついクスリと笑ってしまう。
そして、少し離れた場所で同じ表情をするミリアリアがいた。
気付けば視線が合っていた。
軽く微笑んだまま、ミリアリアがディアッカを見ている。
無意識に、ディアッカは目をそらしていた。
「みなさん、お揃いですわね。それでははじめましょうか」
ラクスの綺麗な声がミリアリアの意識を談話室に戻した。
慌てて、それでも手が震えないように平静を装って順番に飲み物を配って行く。
「バルトフェルド隊長、どうぞ」
コーヒーに拘りのあるバルトフェルドは、やや不満げだ。
きっとこうなることが分かっていたら、この砂漠の虎はエターナルから自前のコーヒー豆を持参したであろう。
しかし、それは是非ともまたの機会にしていただきたい、とここにいる大半の人間が思っているはずだから、ミリアリアは今出来る最高の笑顔でバルトフェルドの前にカップを置いた。
ディアッカの前にも、同じようにコーヒーを置く。
手の震えを隠し通せた自分を、ミリアリアは褒めてやりたかった。
彼は気づくだろうか。キューバ産のクリスタルマウンテンに。
酸味と苦味のバランスが取れた上品な味は、舌の肥えた彼が好んで飲んでいたものだった。
普段は紅茶を好むミリアリアもこの銘柄は気に入っていて、AAに乗り込む際にディオキアのコーヒーショップで購入して持ち込んだほどだ。
まさか、その豆を使ってディアッカにコーヒーを振る舞うことになるとは思わなかったけれど。
ミリアリアは、ディアッカにコーヒーの煎れ方を教わったようなものだ。
当然、ディアッカの好みも熟知している。
砂糖もミルクも必要ない。
彼はブラックしか飲まない。
だから、そう言ったものは何もすすめず、コーヒーだけを彼の前にそっと置いた。
…浅ましいわよね、ほんと。
全員に飲み物を配り終えたミリアリアは、席に着きながら自嘲する。
振っちゃったなんて言いながら、偶然とはいえ彼の好みのコーヒーを用意し、彼に贈られたトワレを今も愛用している。
その香りを纏えば、彼が近くにいる気がしたから。
ディアッカは、こちらを見ようとしない。
目を逸らされた時はショックだった。
昔だったらその時点で食ってかかるか、泣いて部屋を飛び出していたかもしれない。
でも今は違う。
私情に走る訳にはいかない。
特に今、この場では。
私だって、一応あんたと同じ、軍人なんだから。
ミリアリアは折れそうな心を叱咤し、与えられた席についた。
なぜ、目を逸らしてしまったのだろう。
自分の行為にいたたまれなくなり、ディアッカは目の前に置かれたコーヒーに口をつけた。
途端、微かに息を飲む。
「どうして…これがここに…」
気付けばポロリとそんな言葉を口にしていた。
クリスタルマウンテン。ディアッカが好んで飲む銘柄だ。
温度も濃さも、ディアッカの好み。
あの頃と、同じ。
これは偶然か?
自惚れてしまいたくなる。
戦時中の戦艦に常備されるわけもないクリスタルマウンテン。
かつて贈った花の香りのトワレ。
「どうした?エルスマン」
いち早くバルトフェルドがディアッカの異変に気付き、声を掛ける。
「いえ、大丈夫です。失礼しました」
さっと居住まいを正したディアッカは、戸惑う心を押し殺して軍人の顔を作った。
ミリアリアの方をあえて見ないように、視線をラクスへと向ける。
ラクスはそんなディアッカにふわりと微笑むと、何故かミリアリアにも同様の笑みを送り、口を開いた。
「イザークさん、ディアッカさん。この度はエターナルを守って頂き、本当にありがとうございます」
「いえ…。己の信念に従ったまでです。議長のプランには、疑問を感じざるを得ませんでしたから」
そうイザークが答えると、ラクスはまたふわりと微笑んだ。
「それでも、お礼を言わせてくださいな。あなた方のお立場上、そう決断されるのは大変なことでしたでしょうから」
イザークの頬に赤みがさした。
ラクスは、やはりどこまでもプラントのカリスマだった。
「あなた方をこちらにお呼びしたのには、理由があります」
ラクスの顔から微笑みが消え、すっと真剣な表情が現れる。
「単刀直入に申し上げます。前大戦の折、クルーゼ隊が奪取したGシリーズの機体が、テロリストによって再開発されているという情報が入りました」
部屋の空気が、音を立てて凍った気が、した。
![]()
2014.6.4up
2017.9.22一部改稿