嫉妬と不安 2

 

 

 

 

雨はますます強くなる。
ディアッカはくまなく辺りを見て回ったが、ミリアリアの姿はなかった。
ここじゃ、ないのか?
そう思い、ふとすぐそばの森に目を向ける。
外からでは気づかなかったが、どうやら奥はちょっとした丘のようになっているようだ。
 
もしかしたら…
ディアッカは森に向かってなおも走った。
 
 
 
ミリアリアはストールを体に巻き直そうとして、諦めた。
ストールは水を吸って、すっかり重くなっていた。
これじゃ、巻いている意味もない。
そう考えるとまたミリアリアの目に涙が浮かぶ。
もう、何が悲しくて泣いているのかすらもミリアリアにはわからなくなっていた。
 
 
ただディアッカが好きで、愛しくて。
ディアッカの過去の女性たちとの関係に嫉妬して。
昨晩の激しい行為が不安で。
いつか飽きられて、嫌われるのではないかと怖くて。
 
 
そんな、全ての感情が頭の中でごちゃごちゃになって、手で顔を覆うとミリアリアはまた嗚咽を漏らす。
「ひくっ…ディアッカ…たすけて…」
この不安と悲しみから助け出してほしくて。
ミリアリアは雨に打たれながら、とめどなく涙を流し続けた。
 
 
 
ディアッカが丘の頂上にたどり着いた時。
目の前の草原にへたりこむ、小さな体が見えた。
白いワンピース姿で雨に打たれ、手で顔を覆い背中を丸めて泣いているのは、ミリアリアだった。
 
 
「ミリアリア!!」
 
 
あらん限りの声でディアッカは叫び、ミリアリアに駆け寄る。
ミリアリアはびくりと体を揺らし、恐る恐る顔を上げた。
 
「ディアッカ…」
 
ミリアリアの全身はずぶ濡れで、いつも外に跳ねている髪も緩やかなウエーブを描き水を滴らせている。
体に巻いたストールも水を吸って、肩の下までずり下がっていた。
ディアッカも同じくずぶ濡れで、後ろに流している前髪が額にかかっている。
 
 
「ミリアリア、お前、何やってんだよ!?」
 
ディアッカは思わずミリアリアを怒鳴りつけた。
 
「ディアッカ…風邪、ひいちゃう…」
 
どうして、ここが分かったのだろう?
ミリアリアは、呆然としたままディアッカを見つめた。
 
 
「どうだっていいだろ!そんなこと!」
 
 
ディアッカは構わずミリアリアを問い詰める。
「なんで、黙って出て行った」
「…いなく、なりたかった、から」
「はぁ?」
その言葉にディアッカが目を見開く。
 
「ディアッカは、あんなみっともない私に呆れたかもしれないけど、でも、私はっ…」
「あんな…?みっともない…?」
ミリアリアの目からまた涙がこぼれた。
 
 
「むかしの、ひくっ、彼女とも、ああいうこ、とっ、したんでしょ?」
「…おい、ミリア…」
「私っ!みっともなかったでしょっ!」
ミリアリアも大声で叫んだ。
「ディアッカのむかしの彼女、ひくっ、みんなすごい綺麗で、ふ、うっ」
 
ディアッカは狼狽える。
「みんな、って…。なんで俺の昔の女の顔なんて知ってんだよ?」
「会ったもの!何人も!
ひくっ、わ…私みたいな、うっく、貧相な女とは違って、やっぱりみんな、すごい綺麗で。
きっとディアッカのことも、たくさんっ、満足させられて…。ひ、っく、私みたいにみっともなく、ないもの…」
ずっと泣いていたのだろう、真っ赤な目でしゃくり上げながら、途切れ途切れにミリアリアは言葉を紡ぐ。
 
 
ディアッカは、なんとなく、ではあるが分かった。
ミリアリアが何を不安がり、なぜ黙って家を出て行ったのかを。
 
「ミリアリア、よく聞けよ。」
 
ディアッカはミリアリアの横にしゃがみ込み、濡れた顔を大きな手で挟み込む。

「確かに、お前と出会うまで俺は何人も女がいた。
でも、俺はもう、お前以外の女に何かするつもりもねぇし、したくもねぇ。」
ミリアリアは、しゃくり上げながらもディアッカを見つめ、その言葉を黙って聞いている。
 
 
「俺に抱かれてる時のお前も、そうじゃない普段のお前も俺は愛してる。
みっともないなんてこと、ない。」
 
 
ミリアリアが驚いた顔をしてディアッカを見た。
 
 
「私で、ほんとにいいの?っく、後悔、しない?」
 
 
ディアッカはたまらず、乱暴にも思える手つきで、ミリアリアを抱きよせた。
「んなわけ、ねぇじゃん…。前にも言ったろ?
俺はお前がいい、って。」
「ひっく、う、ん。っく、でも、不安で…。」
ディアッカの腕に力がこもった。
 
「ごめんな…。不安にさせて。」
ミリアリアは、泣きながら首を振った。
「ディアッカ、私のこと、ひくっ、へん、って、どうしようもない、って、おもわ、なかったの?」
「思うわけねぇだろ。お前こそ、もう俺に抱かれるの嫌になったか?」
ミリアリアがぶんぶんと首を横に振る。
飛び散ったのは、雨か涙か。
 
 
「ふ…っ、そんな、わけ、ひっく、ない…じゃないっ、う、っく」
「ああ、もう泣くなって。」
安心したのか、子供のように泣きじゃくるミリアリアを、ディアッカは今度はやさしく胸の中に抱き込む。
 
 
「愛してる。お前しかいらない。」
 
 
ミリアリアは泣きすぎて、頷くことしかできない。
「…また、たまにああやって抱いてもいい?」
「っ、いい、けどっ、ひっく、はずかしくて、ひくっ、消えて、なくなりたく、なる…」
もうすぐ名実ともに自分の妻となる婚約者の可愛い言葉にディアッカはくすりと微笑み、ミリアリアの額にキスを落とした。
 

「それはだめ。いなくならないで?俺のそばに、ずっといて?」
「ひくっ、う、ん」
「それで、またしよう?ああいうの。」
「…うん。ひくっ、ふっ…」
「…ミリィ、帰ろ?」
 
 
するとミリアリアがディアッカの腕の中で顔を上げ、そっと手を伸ばしディアッカの頬に触れた。
そうして、自分からディアッカに唇を重ねる。
 
 
「ひとりに、ひくっ、しないで…」
 
 
ディアッカの胸が、その言葉にぎゅっと締め付けられた。
自分は、愛されて、必要とされている。ミリアリアから、誰よりも。
 
「俺は、どこにもいかないから。大丈夫。」
ミリアリアがずっと欲しかった、優しい声と笑顔。
ミリアリアは泣きながら何度も頷き、子供のようにディアッカにしがみつく。
 
 
そして二人は、雨の中で抱き合いながら、何度も何度も唇を重ね続けた。
 
 
 
 
 
 
 
007

これにて完結です!

婚約者時代の二人のお話。

時期的に言えばある意味マリッジブルーなミリィですが、誰しもこういった不安って多かれ少なかれ覚えがあるのでは。

仕事もきちんとこなし、気遣いが出来、しっかりしていると言われるミリィですが、自分に自信がある訳ではないんです。

むしろ気を抜けば劣等感に襲われ、信じると決めたはずのディアッカに対してもこのように気弱になってしまう。

強いけれど、脆い。

そんなミリアリアを書いたつもりでしたが…文才無いんで、きちんと表現できてるか不安です(><)

 

いつもサイトにご訪問頂き、本当にありがとうございます!

カウンタを見るたび、まだディアミリ好きな方がこんなにいらっしゃるんだ!と嬉しく思います。

拙い文章をお読み頂きありがとうございました。

これからもよろしくお願い致します!

 

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2014,7,1up