負けないで 1

 

 

 

 
ミリアリアは、洗い上がったばかりのタオルを持って艦内を歩いていた。
ここ数日は戦闘が落ち着いているせいもあってか、AAのクルー達も比較的和やかに生活を送っている。
とはいえ、ひとたび戦闘配備の発令が出されれば、また命のやり取りが始まってしまうのだが。
 
 
戦闘時はCIC・管制担当のミリアリアも、こんな時は雑用をこなす。
艦内数ヶ所に備え付けられたシャワールームに、タオルを配り歩いていたのもその一つだった。
「あとは…トレーニングルームとパイロットルームね。」
ミリアリアはそう独り言を呟くと、そちらに足を向けた。
 
 
 
「うわ、ちょ、待って!」
「待つわけねぇだろが」
ディアッカはそう言うと、ひょい、とキラに足を引っ掛ける。
「わあぁっ!」
情けない悲鳴とともにあっさり倒されるキラ。
壁際でじっとその様子を見ていたアスランが、深い溜息を漏らした。
 
 
「キラ…。お前ホントにコーディネイター?」
ディアッカはしりもちを着いたままのキラに手を貸して起き上がらせた。
「MSの操縦はあれだけ天才的なのになぁ…」
アスランの横に立つフラガも、苦笑混じりにそう口にする。
 
「だって…僕はそういう訓練、受けてないんですから!急にやれって言われても無理ですよ!」
「…まぁそうだな。しかし今はこんな状況だ。今後いつ敵に遭遇して、白兵戦にならないとも限らない。
訓練しておいて損はないだろう?」
アスランの言葉に、情けない顔をしながらもキラは頷いた。
「そうだけど…。でも、いきなりディアッカが相手なのはさすがにきついって!」
「だってさ。どうする?アスラン?」
苦笑するディアッカに、アスランはしばらく考えた後返事をした。
 
 
「…じゃあ、キラは休憩。でも、ただぼんやり休んでるんじゃなくて、しっかり見てろ。」
キラはきょとんとアスランの顔を見た。
「…何を?」
「俺たちの訓練を。」
 
ディアッカの体がぎく、と強張った。
 
 
 
トレーニングルームにやって来たミリアリアは、人の気配を感じそっとドアを開けた。
「キラ?こっちに来てたの?」
「あ、ミリィ。どうしたの?」
どこか疲れた表情のキラが、驚いたように目を丸くした。
「私はこれ配って歩いてるんだけど…あれ、何?」
 
 
ミリアリアの目の前では、フラガとディアッカが…戦っていた。
「訓練。白兵戦のね。」
「白兵戦の?」
「うん。元々は僕にあの二人とアスランが稽古をつけてくれてたんだけど、えっと…物足りなかったみたいでさ。
見本見せるから、って。」
「ふぅん…。フラガさん、すごいのね。パイロットなのにああいう事も出来るんだ。」
「一応正規の軍人さんだもんね。訓練メニューに入ってたんじゃない?」
 
 
ミリアリアはタオルを抱えたまま、目の前の訓練風景に目を向けた。
コーディネイターであるディアッカと、ナチュラルであるフラガ。
一般的な身体能力の差を考えるとフラガに勝ち目などほとんどないはずなのだが、今見る限りではなかなかに拮抗した戦い、であるようだった。
 
「フラガさんはすごいよ。さっきアスランとフラガさんがやったんだけど、アスラン負けちゃったんだ。」
「…うそでしょ?」
ミリアリアは思わず、少し離れた壁際に立つアスランに目をやった。
アスランは真剣な表情で、二人の拮抗したやり取りを見守っている。
「2回やって、一勝一敗だけどね。アスラン、ほんとに負けず嫌いだからさ。
おかげで、僕の訓練だったはずなのにさっきから放ったらかし。」
そう言って微笑むキラだったが、ミリアリアの真剣な表情に気づき、視線の先を追うとさらに微笑みを深めた。
 
 
軽々とした身のこなしで、フラガの攻撃をかわすディアッカ。
フラガもまるきりの本気、という訳でなく何やら会話までかわしながら隙をついて攻撃を仕掛けている。
それでも、うっすらと汗をかくディアッカの姿に、いつの間にかミリアリアは見とれてしまっていて。
「あいつ…汗かいてる…」
ぽつりとそんな事を呟き、あわてて口を押さえた。
キラはそんなミリアリアに優しく微笑む。
 
 
「アカデミーってとこでは、アスランが成績トップだったんだって。
ディアッカは4位って言ってたかな?
でもアスラン曰く、『ディアッカは本気を出していなかった』らしいよ。」
「そう…なんだ…。」
 
 
いつも余裕しゃくしゃくで、出撃の時ですら笑顔でおちゃらけて。
そんなディアッカしか知らないミリアリアは、今のように余裕を見せていながらも汗をかくほど真剣なディアッカを見たのは初めてだった。
顔が、熱い。
痛いほどの鼓動が胸を打つ。
わたし、どうしちゃったの?
 
と、フラガの拳が思わぬ早さでディアッカに向けて繰り出される。
「…っ!」
ミリアリアが息を飲むのと同時に、ディアッカが間一髪でそれをかわす。
ディアッカの汗が飛び散った。
 
「そこまで!時間だ。」
 
アスランの声がトレーニングルームに響いた。
 
 
 
 
 
 
 

007

初のキリリク作品です!

全三話で完結となります。

ディアッカの本気を、ミリアリアは目にする事が出来るのか?!

 

 

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2014,6,30up