3,軍服

 
 
 
 
「ミリアリアさん!?」
『どうかなさいましたか?』
 
大声を出したマリューに、ラクスが慌てて声をかける。
「ミリアリアさんが倒れてしまったの。例の発作のようね…。とにかく彼女を医務室に運ばないと。誰か管制を代わってあげてくれる?」
「俺が代わるよ。いや…着艦許可だけなら君が出せばいいさ」
いつの間にやってきたのだろう、記憶を取り戻したムゥがぐったりしたミリアリアをひょいと抱き上げた。
「いくら君でも、女の子を一人で医務室まで抱えてけないだろ?」
そう言って何時もの笑みでマリューを見つめる愛しい人に、またマリューも柔らかい微笑みを返す。
「そうね、お願いします」
そうして再び艦長席に座り直したマリューは、回線を開き落ち着いた声で着艦許可を告げた。
 
 
 
 
「坊主じゃねぇか!無事だったんだな!」
 
懐かしい声。マードックだ。
グレーの整備服はオイルや煤で薄汚れているが、これでもだいぶマシな方だろう。
 
「当たり前だっつーの。おっさんも怪我してねぇ?」
 
つい笑顔になってしまう、懐かしい艦。
再びここに足を踏み入れることになるなんて思っていなかった。
続いて降りてきたイザークが、若干ムッとした顔をしている。
こういうとこは、昔から変わんねぇな。
内心苦笑すると、気を取り直したようにディアッカは話を切り出した。
「歌姫さんに呼ばれてきたんだけどさ、俺達このあとどうすりゃいいか聞いてる?」
すると、見計らっていたかのように馴染みのある声が格納庫に響いた。
 
「ディアッカ君!」
 
マリュー・ラミアス艦長だ。
以前とは違う白いオーブ軍の軍服を纏っているが、ふんわりとした美貌と豊満な肢体は健在だ。
「艦長、お久しぶりです。着艦許可をありがとうございます」
ディアッカもさすがに居住まいを正して敬礼する。
「ジュール隊長も、お久しぶりね。怪我はないかしら?」
そう言ってにっこり微笑む女性は、一見戦艦の艦長にはとても見えない。
イザークも敬礼し、上官同士のやりとりが始まる。
 
「アスラン君の収容したミネルバのパイロット達を本国に返す手配をした後、ラクスさんとキラ君も、こちらに来るそうよ。
それまで、談話室にいてもらえる?今アーノルドに案内させるわ」
「ノイマンさん?前のクルー、結構まだ残ってるんですか?」
 
ディアッカは驚いて、つい口を挟む。
 
「ええ、半分以上あなたの顔見知りよ。AAもだいぶ改造、改修をしてね。自動航行システムも最新のものを組み込んであるけど、やっぱり操舵士は彼じゃないとね」
「へぇ…みんな軍服が違うから、言われなきゃ気づかなそうだな」
 
つい敬語を忘れて言葉を続けるディアッカの脇腹をイザークが小突いた。
後でブリッジにも顔を出すといいわと笑って、その場を去ろうとするマリューにディアッカは声をかけようとして、躊躇った。
そんなディアッカに気づき、マリューも足を止める。
 
 
「CICも、変わってないわよ」
 
 
それだけ言って、にこりと笑うと床を蹴り、ふわりと出口に向かった艦長をただ見つめる。
あいつが、居るのか?ここに。
動けなくなってしまったディアッカを見兼ねて、マードックが背中を押してくれる。
 
「…補給は任せとけ。銀髪の兄さんの機体も一緒にきっちり仕上げとくから早く行ってこい。兄さん待ってるぞ」
「…ああ。サンキュ」
 
そうだ、あいつがいるからなんだって言うんだ。
ただの、昔の知り合い。
それ以外の感情は、忘れると決めたはずだ。
しかし、マードックの次の言葉に再びディアッカの思考は止まる。
 
 
「嬢ちゃんは医務室だ。さっきブリッジでぶっ倒れたらしい」
「…は?」
「心配ねぇよ。貧血と過呼吸だそうだ。対処が早かったから、問題ない。お前はお前のやるべきことをまずやるんだな。嬢ちゃんは、少なくとも自分のすべきことをやり切った。ちっと疲れたんだろうよ」
 
 
だから、早くやること済ましてこい。
そう、言われた気がして。
ディアッカはマードックを凝視し、ふっと笑った。
 
「万が一の出撃にも速攻対応できるように頼むぜ、親爺」
「嫌な冗談だな、おい」
 
そんな軽口を叩き合い、同時に目だけで感謝の意を伝える。
「イザーク、悪かったな。行こうぜ」
すでに苛立ちを隠そうとしない銀髪の隊長にそう告げると、格納庫の出口でいつの間にかこちらを見ていた不沈艦の操舵士の元へ、ディアッカは床を蹴った。
 
 
この先に、あいつがいる──。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

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2017.9.1一部編集