借りた上着、あと一日だけ 3

 

 

 

 
「ミリアリア…?」
「きゃっ!!あ…ディ、アッカ?」
 
医務室にいたのはミリアリアだった。
「具合、悪いのか?もしかして風邪ひいた、とか?」
ミリアリアは慌てた様子で、なぜか手を後ろに回した。
「ううん、あの、ちょっと絆創膏を…」
「怪我?見せてみろよ」
ディアッカは医務室に入ると、ミリアリアのそばにつかつかと歩み寄った。
「大丈夫よ!たいしたことないからっ!…くしゅん!」
ますます慌てるミリアリアの姿に、ディアッカの顔が曇った。
 
 
「…嫌かもしれないけどさ、俺に触られるの。怪我してんなら、自分で手当てすんのだって大変だろ?」
 
 
すると、ミリアリアが驚いた顔でディアッカを見上げた。
「…ちがう、の。」
「…え?お、おい、ミリアリア?!」
驚いた顔から泣きそうな顔に変わったミリアリアに、今度はディアッカが慌てふためく。
なんか俺、変な事言ったか?!
 
 
「違う…。わたし、あんたにちゃんと…、ちゃんと、謝ってない、から。だから。」
 
 
…謝る?ミリアリアが、俺に?なにを?
ぽかんとするディアッカを上目遣いで見ながら、ミリアリアはありったけの勇気を振り絞る。
そして、先ほどまで考えていた言葉を口にした。
 
 
「前ここで…私、ディアッカの事、刺そうと、した、でしょ?
そのこと、きちんと謝らなきゃいけなかったのに…その機会はいくらでもあったのに、うやむやなままここまで来ちゃって。
ディアッカは私に気を使って普通にしてくれるけど、私はあんたにあんな事をして、同じ目線で接するなんて出来なくて。
だから…その…。名前、呼べなかったの。いままで。」
 
 
ディアッカは、何も答えてはくれない。
ミリアリアは、目の前にいるディアッカの顔を見る勇気もなくて、俯きながら、いちばん伝えなくてはいけない事を言葉にする。
 
 
 
「…ほんとに、ごめんなさい。あの時。捕虜になったってだけで不安だっただろうに、怪我までさせて。」
 
 
 
ふわり、と何かが俯くミリアリアの前髪に当たった。
驚いて顔をあげたミリアリアの目の前に。
ディアッカの、白いTシャツがあった。
いつの間にか緩く回された腕が、そっとミリアリアを包み込み、抱き寄せる。
 
 
「…ばーか。」
 
 
ミリアリアは一瞬、言われた事が理解できず固まった。
「…え?」
「あれは、俺が悪かったの。お前は一つも気にすることなんかねぇよ。」
「だ、だって、でも…」
ディアッカの腕の中で思わず顔をあげたミリアリアは、その紫の瞳に捕われる。
 
 
 
「…俺こそ、謝んなきゃって思ってた。ごめん。あの時、余裕なくて。八つ当たりした。」
 
 
 
ミリアリアはぼんやりとその言葉を聞いた後、ふるふると首を振る。
その必死な様子に、ディアッカはくすりと笑った。
 
 
「じゃあ、これでおあいこ、な。俺とお前はこれで対等。OK?」
「…お前、じゃない。ミリアリア、よ。ディアッカ。」
怒っているような、困ったような嬉しいような、複雑な表情のミリアリア。
それでも、これからは自分の名を呼んでくれる事も増えるだろう。
どうしてかはわからないけれど、それがなぜか、とても嬉しくて。
ディアッカの心が、温かいもので満たされる。
 
 
「ほら、手見せてみろって。」
「…その前に、このとんでもない状況じゃ手も出せないんだけど…。」
我に返り、抱きしめられている事に恥ずかしさを覚えたミリアリアがぶっきらぼうに呟く。
意地っ張りなその態度に、またディアッカは笑みを零した。
「はいはい。…じゃ、手出して。」
回していた腕を解くと、ミリアリアは渋々両手をディアッカに差し出した。
 
 
「…なにこれ?どうしたんだよ?」
「借りた上着、返そうと思ったんだけど…。内ポケット、破れてたから直そうと思って。でも私、お裁縫あんまり得意じゃなくて…。」
ミリアリアの指には、いくつもの絆創膏が貼られていた。
ディアッカは言葉を失くし、顔を赤らめて俯くミリアリアをただ見つめた。
 
 
「だから、あの上着、あと一日だけ借してよねっ!
ちゃんと直して返すから!」
「え、おい」
ミリアリアはそれだけ言うと、パタパタと医務室を出ていこうとして…立ち止まり、くるりと振り返った。
 
 
「上着、ありがとう。おやすみなさい、ディアッカ。」
 
 
真っ赤な顔で自分を見つめるミリアリア。
ディアッカは、目を丸くした後、優しい笑みを浮かべた。
 
「ああ、おやすみ。ミリアリア。風邪引くなよ。」
 
 
 
 
 
翌日。
絆創膏だらけの手で恥ずかしそうにミリアリアが差し出した赤い上着は、きちんと洗濯もされていて。
破れた内ポケットは、少しだけ荒い縫い目で、それでもしっかりと直されていたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
007

100hit御礼、いかがでしたでしょうか?
初めてAA時代の二人を書いてみました。
ミリアリアの勝気さがほとんど出ていませんが、こんな二人もたまにはアリ、と言う事で(笑)
ちなみにこの時点で、二人はまだ自分の気持ちがに互いに向き始めているのに気付いてません。…気付き始めた、くらい?
 
いつも足をお運び下さる皆様、ありがとうございました!
これからも頑張って更新してまいりますので、どうぞよろしくお願い致します!!

 

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2014,6,20up