54, 武器を持たずに戦いを 2

 

 

 

 
「よく考えてみたら…ここにいる私達はみんな、戦争で大切な人を亡くしているんですよね。一度目の、大戦で。」
 
 
ミリアリアとカガリは、セリーヌと向き合う形でベッドに腰をかけていた。
沈黙を破るミリアリアの言葉に、カガリがはっとした表情になり、顔を曇らせる。
カガリは先の大戦時、前オーブ代表首長であり父でもあるウズミ・ナラ・アスハを亡くしている。
そしてミリアリアの恋人であったトール・ケーニヒもまた、オーブ近海の戦いで戦死した。
 
「…セリーヌ。お前も、誰かを?」
 
彼女の素性を知らないカガリが漏らした言葉に、セリーヌの肩がびくりと揺れた。
 
 
「カガリ。セリーヌさんはザフトのパナマ侵攻の際、婚約者を亡くされているの。…そうですよね?セリーヌさん。」
「…それもターミナルで?随分怖い所なのね。そこまでの個人情報を引き出せるなんて。」
「私の持っている通行証は一般のものとは少しだけ違いますから。その代わり悪用もしません。今回は“必要があったから”情報を引き出したまでです。」
 
 
ミリアリアの碧い瞳が、まっすぐセリーヌを射抜く。
 
「そんなに、大切なの?ディアッカ・エルスマンが。」
「ええ。ディアッカだけでなく、プラントも。今はオーブだけでなく、プラントも私の国、ですから。」
 
セリーヌの拳がぐっと握られた。
キールを殺したコーディネイター達の巣窟であるプラントが、大切?!
ありえない。絶対に認められない!
 
 
「…でも、トールが死んでしまった時は。私も憎くてたまりませんでした。コーディネイターが。」
 
 
セリーヌははっと顔を上げた。
「トー…ル?」
「はい。私の恋人だった人です。オーブ近海でザフト軍と戦闘になった時、死にました。ザフトのMSに討たれて。」
カガリが切なげに目を伏せる。
 
 
「あなたに今回の話を持ちかけた人物から聞いていないんですか?私の素性。」
「…あなたは、AAに乗っていた経験もある元ジャーナリストで…今は…」
「今は、ザフト軍属であるディアッカ・エルスマンの妻、ですか?」
「っ…そうよ。間違いは無いでしょう?」
 
 
きつい眼差しを向けて来るセリーヌに、ミリアリアは何とも言えない表情で微笑んだ。
 
「私や死んだ恋人がヘリオポリスのカレッジの学生だった事は?」
「カレッジ…って、軍人でもないただの学生がどうしてMSに討たれて戦死するの?嘘も大概に…」
「嘘じゃない!」
 
カガリの悲痛な声がセリーヌの言葉を遮った。
 
「あいつは…トール・ケーニヒはシミュレーターの成績が良くて…MAのパイロットに志願したんだ。」
「志願兵…?」
「はい。私達はなりゆきでAAのクルーになって…志願兵になりました。もっとも、キラは別として、トール以外の友達はみんなパイロットとしての適正なんて無くて、ブリッジ勤務でしたけど。」
「それで、あなたの恋人は…」
「オーブ近海での戦闘の時、キラを…コーディネイターの友達を助けに行って、そのまま戦死しました。」
「な…コーディネイター?!」
 
ミリアリアはこくり、と頷いた。
 
 
「オーブはコーディネイターとナチュラルが共存している国家です。ヘリオポリスもそう。
だから私達は、戦争が始まっていても種の違いについてなんてほとんど気にしていなかった。
キラは、私達に取って大切な友達で、トールは友達の助けになりたくてパイロットに志願しました。
そして、皆が止めるのも聞かずに出て行って…それっきり、帰って来ませんでした。」
 
 
セリーヌは絶句した。
ミリアリア・エルスマンとその恋人や友人がヘリオポリス出身だと言うのなら、あのコロニーが壊滅したきっかけもまた、ザフトの攻撃ではないか。
そして、彼女はザフトの軍人に恋人を殺された。
住んでいた場所を奪われ、さらには恋人までも奪われたというのに、なぜ今彼女はコーディネイターの妻となり、プラントをも自分の国だと言い切れるのだろう。
 
わからない。なぜ、大切なものを奪った相手を許せるの?
 
セリーヌは、いつしか身を乗り出すようにしてミリアリアの話を聞いていた。
 
 
「セリーヌさん。あなたの婚約者はどうして軍に志願されたんですか?」
 
 
ミリアリアの問いに、セリーヌは目を伏せた。
「…彼の家は元々、軍人の家系だったから。私の故郷では当たり前の事よ。
でもキールは学問を愛していた。パナマ基地にもたくさん本を持ち込むと言っていたわ。」
「それでもキールさんは前線に?」
前線、と言う言葉に、セリーヌは激しく反応した。
 
 
「そうよ!仕方の無い事でしょう?軍人だったんだもの!そしてザフトは、投降しようとしたキールを撃ち殺したわ!無抵抗の人間にMSの銃を向けて!!
だから私はコーディネイターを許さない。あんなひどい事、人間がする事じゃないもの!」
 
 
セリーヌの瞳に宿る憎しみの光を、ミリアリアは真正面から受け止めた。
 
「…そうですね。私も同じような事を考えました。彼を亡くしたあと、捕虜になっていた今の夫を殺そうとしたくらいですから。」
「…っ」
 
セリーヌは愕然とした表情でミリアリアを見つめた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 
トールについて訥々と語るミリアリア。
そしてミリアリアの意外な告白。
同じように、戦争で大事なものを無くしたセリーヌはどう思うのでしょう…。

 

 

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2015,7,27up