屈強な男達に銃を突きつけられたままブリッジまで案内されると、そこにはシンプルなシャツとスカートに白衣を羽織った綺麗な女性がミリアリアを待ち構えるように立っていた。
弟であるノイマンの面影がある女性を、ミリアリアは真っすぐに見つめる。
その碧い瞳には、何の感情も浮かんでいない。
くるくると表情の変わる、本来のミリアリアを知っている人物ーー例えばディアッカやカガリがもしそこにいたならば、その事に気付き不思議に思った事だろう。
今彼女が見せている表情は、短い期間ではあったがカメラを手に戦場を駆け、ジャーナリストとして活動していた時と同じものであった。
「ようこそ、私達の艦へ。ミリアリア・エルスマンさん。」
セリーヌの言葉は丁寧であったが、その声は冷たく強張っている。
「はじめまして、ミリアリア・エルスマンです。あなたがセリーヌ・ノイマンさんですか?」
背筋を伸ばし、凛とした表情と声で自分と相対するミリアリアに、セリーヌは微かに眉を顰めた。
ーー自分の命を握っているのはこの私なのに…どうして?
気圧されそうになる心を叱咤し、セリーヌは努めて鷹揚に見えるよう頷いた。
「体の調子は?過呼吸の発作を起こしたと聞いているけれど…。」
「薬を飲んでいますから。無理をしなければ問題ありません。お気遣いありがとうございます。」
「…そう。」
二人の間に沈黙が訪れる。
先に口を開いたのは、ミリアリアだった。
「ーーー約束です。カガリのいる所へ連れて行って下さい。」
ミリアリアの短い言葉に、寄せ集めのクルー達の表情が僅かに変わった。
彼らの殆どはジャンク屋だ。金で雇われているはみ出し者の集まりとは言え、ジャーナリストとの繋がりを持つものも多くいる。
ミリアリアの堂々とした、それでいて真摯な態度に内心口笛を吹いたものもいただろう。
彼女は一筋縄では行かない相手だ、とセリーヌは小さく息を詰める。
協力者からの指示は、オーブのアスハ代表とミリアリア・エルスマンを“生かしたまま”捕らえること。
それを達成したセリーヌに、次の指示はまだ届いていない。
セリーヌはそっと詰めていた息を吐き出すと、周囲のクルーに警戒を怠らないよう伝え、ミリアリアを促した。
「…アスハ代表の所へ案内するわ。着いて来て。」
そう言って踵を返すセリーヌに、ミリアリアは無言で従った。
***
「ミリアリア!お前…大丈夫か?!」
泣きそうな顔で駆け寄って来たカガリを、ミリアリアはそっと抱き締めた。
その左手の薬指に光る指輪がアスランと同じものであると気づき、自然にふわりと表情が和らぐ。
やっと幸せを掴もうとしているカガリを、こんなところで死なせるわけにはいかない。
カガリを頼む、と言っていたアスランの顔を思い出し、ミリアリアはひとつ深呼吸をした。
「私は平気よ。カガリこそ、無事でよかった」
「ああ。プラントで捕らわれてから、この部屋にずっと監禁されているからな。」
ちらり、と睨むようにセリーヌへ視線を送り、カガリはミリアリアから体を離すと今度はほっとしたような表情を浮かべた。
「…さて。感動の再会はこの辺で終わりにしてもらえるかしら?」
セリーヌの冷たい声に、ミリアリアはゆっくりと振り返った。
「あなたの当面の目的もこれで達成されましたよね?私とカガリは、あなたの手の中に落ちた。次は何をなさるおつもりですか?」
いつもと少しだけ違うミリアリアの様子に、カガリが目を丸くする。
「そんな事を聞いてどうするの?ここにいる時点で、あなた達には何も出来る事なんてないじゃない。」
「そうでしょうか?…少なくとも私には、やりたい事があります。」
「やりたい事?」
見下すようなセリーヌの視線を、ミリアリアは正面から受け止めーーずっと考えていた言葉を口にした。
「…あなたと、話をしてみたかった、と言ったら驚かれるでしょうか?」
セリーヌは完全に意表をつかれた。
「あなたの素性は、ターミナルを通じて調べました。先の大戦での悲しい出来事も。…私も、昔あなたと同じような経験をした事があるから。だから…少しだけでもいい、話がしたいんです、あなたと。」
「…あなた、元ジャーナリストって聞いてるわ。どうして今更、ターミナルなんて…」
「ジャーナリストの仕事を辞めた訳ではありません。自分の意志で、離れていただけです。」
計算外の言葉にセリーヌは内心で舌打ちした。
ミリアリア・エルスマンは元ジャーナリストで、現在はザフト軍高官の妻でありオーブ軍籍の軍人。
そう協力者である男達に説明されていたので、彼女がまさか自分の素性を調べるなどとは考えもしていなかったからだ。
「私はあなたと話がしたい。あなたの話も聞かせて欲しい。…あなたに指示を出している人達も、それくらいの時間はくれるでしょう?」
さらりとミリアリアが口にした“黒幕”の存在に、セリーヌだけではなくカガリまでもが驚愕の表情を浮かべた。
ミリアリア・エルスマンはどこまで知っているのだろう?何が狙いなのだろう?
セリーヌの心に焦燥の嵐が吹き荒れる。
キールの事?ウィルスの事?それともあの“協力者”達の事?
彼女達の命、そしてコーディネイターにしか作用しないウィルス、という切り札を手にしているのは自分だ。焦る事は無い。
何を企んでいるのかは分からないが、彼女の申し出など一蹴して、これまで通りこの二人を部屋に軟禁しておけばいい。
ここにいる限り、全ての主導権を握っているのは自分、なのだから。
だが、セリーヌはミリアリアが口にした言葉が頭から離れなかった。
ーー私も、昔あなたと同じような経験をした事があるからーー
セリーヌが命ずるまで、ブリッジにいる通信担当の男は妨害電波を出し続けるだろう。
それはAAが外部へ助けを求める事を阻害するとともに、この艦への通信も制限されると言う事。
協力者達からもし指示が来ていたとしても、それは今現在、セリーヌの元へは届かないのだ。
少しだけ。…少しだけなら。
意に沿わぬものであったなら、その場で話を打ち切りブリッジへ戻ればいいだけの事なのだから。
「…そうね。私もいいかげん、むさ苦しい男達とばかり話をするのにも飽きて来た所なの。少しだけなら、付合ってあげてもいいわ。薄汚いコーディネイター“なんか”と結婚した、酔狂なあなたの話にね。」
そう尊大に言い放って、きし、とデスクチェアに腰をかけたセリーヌを眺めながら、ミリアリアは気付かれぬようそっと詰めていた息を吐き出した。
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ミリアリアはセリーヌとどんな話をするのでしょう。
武器を持たない戦いが始まります。
2016キラカガ誕小噺に合わせ、エピソードを追加しました。
2015,7,27up
2016,5,19エピソード追加