二日後。
ようやく、サイがAAに到着した。
「ミリィ!無事だったんだね!」
数年ぶりに再会したサイは、トレードマークの色眼鏡もそのまま、以前別れた時と変わりないように感じる。
ただ、濃紫の首長服が彼の置かれた立場の重みだけを感じさせていた。
「サイも、無事でよかった…」
「うん、カズイは心配だけど…今は、自分らに出来ることをやるしかないからね。」
カズイについてはその後、ターミナルに匿名の情報が寄せられた。
ヴァレンタインの拠点であろう廃棄コロニーに曳航される、獅子の紋章を持つシャトルの目撃情報だったが、内情を知らなければあまりにも荒唐無稽な内容に興味を示すものはいなかった。
ミリアリア以外には。
向かい合って再会を喜び合う二人だったが、不意にサイにとって非常に懐かしい声が聞こえてきた。
「よっ、ひさしぶり」
そんな軽い挨拶とともに、当然のようにミリアリアの隣に立つ男。
サイは目を丸くした。
「ディアッカ!なんでAAに…?」
「んー、任務?」
シンプルすぎるディアッカの答えに、サイはガックリ肩を落とした。
「変わってないね、お前も…」
ミリアリアの隣にディアッカがいる。
まるで昔に戻ったようではないか。
そういえば、この二人は確か…
「ミリィ、ディアッカと」
「えっ!あ、えと」
「あー、俺たち結婚を前提に付き合ってるけど何か?」
サイはぽかんとし、なぜかミリアリアがわなわなと震え、そして…
「何バカな事言ってんのよー!」
調子に乗りすぎたディアッカは、すぐさまミリアリアの鉄拳を受ける事となるのであった…。
続けて到着したキラも含め、一行は場所をブリーフィングルームへと移しデータの解析に入った。
イザークは彼らに同行し、ディアッカはフラガに偵察の様子を確認する為と、アスランを待つ為に文句を言いながらも格納庫に残っていた。
「ミリィ、中身確認した?」
データをスクリーンに表示させながらキラが尋ねた。
「一部ね。ひとつはバスターのデータだった。トールの設計データだったわ。」
「…そうなんだ。」
マリューの計らいで、ブリーフィングルームは即席の研究室に様変わりしていた。
何台ものラップトップ、モニタやその他の計器。
床を走る色とりどりのケーブルに至っては、数えるのも面倒だ。
「随分とアナログだな…」
イザークのそんな呟きにミリアリアは笑いながら言った。
「戦艦だから仕方ないわ。でも教授のスタイルなんです、これが。ジュールさんには確かにそう見えるかもしれないわね。」
するとイザークが、顔を引き締め意を決したように三人に向き直った。
「ちょっと、いいか?」
「え?」
キラとサイも何事かとイザークを伺う。
「まずハウ。その、ジュールさんというのはやめてくれないか。俺の事は、その…ファーストネームで呼んでくれて構わない。そちらの二人もだ。」
ミリアリアは驚いた。
そして同時に、嬉しくなった。
かつて敵として戦った者達が、こうしてささやかながらも協力し合い、距離を縮めて行く。
ミリアリアはとびきりの笑顔をイザークに向けた。
「分かったわ、イザーク。でも、私の事もファーストネームで呼ぶ事が条件よ。OK?」
あのディアッカをも虜にした花のような笑顔。
そして、どこかで聞き覚えのある誰かそっくりの口調にイザークもつい微笑んだ。
「分かった。提示された条件に合意する。ミリアリア。」
コーディネイターであり、ザフトの優秀な士官であるイザークの言葉に、サイもまた心を打たれていた。
ミリアリアだけでなく、自分とキラに対しても真摯な態度を向けたイザーク。
聞けば彼は、現在もザフトの第一線でディアッカと共にあるという。
サイ自身も、先の対戦の後カレッジに戻り、猛勉強の末現在はオーブ評議会の参事官補佐として勤務している。
だがそんな立場を抜きにしても、サイはこの青年の言葉に応えたいと思った。
イザークの前に進み、右手を差し出す。
「自己紹介くらい、させてほしいな。」
イザークは驚き、慌てて立ち上がる。
「オーブ首長国連邦参事官補佐、サイ・アーガイルです。歳はディアッカといっしょでキラ達のひとつ上。だから君とも同い年ってことだよね?」
レンズの奥の目が細められ、サイは微笑んだ。
「だから俺も、サイでいいよ、イザーク。」
イザークは、差し出された右手を強く握った。
「ザフト軍、イザーク・ジュールだ。よろしく、サイ。」
「僕もいい?」
いつの間にか、キラがサイの横に立っていた。
「前に会った時は、こんな事できる状態じゃなかったもんね。
キラ・ヤマトです。ストライクフリーダムのパイロットをしています。
君たちがいてくれて、本当によかった。
…感謝します。よろしくね、イザーク。」
かつてあれ程躍起になって堕とそうとしていたストライクの、そして今はストライクフリーダムのパイロット。
だが、イザークにとってもうその事は過去だ。
自らが背負うべき過去。
誇らしいものも、忌まわしいものもそこにはあるけれど。
背負って、前に進むと決めた。
イザークがキラに向かって右手を出した。
今度はキラが驚く。
イザークから歩み寄ってくれるとは予想していなかったからだ。
しかし、その驚きはすぐに喜びに変わり。
キラも右手を出した。
「所属は言うまでもないだろう、お前には。…ラクス様を護ってくれた事、感謝する。よろしく頼む。キラ。」
キラが嬉しそうに頷く様子を、ミリアリアもまた同じ気持ちで眺めていた。
自己紹介です。ディアッカだけでなく、イザークもきっとこうして精神的に成長しているはず。
2014,6,10up