ホームパーティー 4

 

 

 
キッチンへ向かうディアッカを見送りながら、アリーが「あいつ…あんなキャラだったっけ?」と誰にとも無く呟いた。
 
「…昔と今では大分変わりましたから、そう仰るのも無理はありませんね。」
 
シホの苦笑まじりの声。
 
「そうだな。少なくともあいつは任務帰りに、注文した肉を肉屋に取りに行くような男ではなかった」
 
渋面のイザークの言葉にアリーとシェリーは呆然とし、サイは吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
「え…じゃあこのローストビーフももしかして手作り?」
アリーの心底驚いたような声。
「多分そうだと思いますよ。ミリィ、あいつの好物はきっちり全部手作りするし。」
サイの声に、シェリーはそっと唇を噛み締めた。
 
 
「ちょっとディアッカ!その量は味見じゃないわよ!」
「いーじゃん別に。あ、うまい。」
「あ、ほら、口についちゃったじゃない。こっち向いて。」
「ミリィも口で取って」
「…っ!やらないわよ、そんなの!バカな事言ってないで、そのお皿貸しなさいよ!」
 
 
 
紙ナプキンを片手に顔を赤くするミリアリアと、くすくす笑いながら言われるがままソース用の皿を手に取るディアッカ。
シェリーは二人のやり取りを見ながら、どこか諦めにも似た思いが心に込み上げるのを感じていた。
 
自分の知っているディアッカは、いつも皮肉な微笑を浮かべていて、優しいけれど傲慢で、強引でーーー。
あんな風に誰かの事を語るのも、あんな笑顔も、見た事が無いーーー。
 
 
なぜ、彼を手に入れられなかったのか。
なぜ、自分は彼に選ばれなかったのか。
 
 
ディアッカの事が本当に好きだった。
気まぐれに呼び出されても、無理矢理予定を合わせてそれに応じた。
言われるがまま、色々な事をした。
ディアッカに釣り合うのは、自分以外にはあり得ない。そこまで思っていた。
それでもーーー。
 
シェリーはキッチンで笑いあう二人を眺めながら、その答えが分かった気がしていた。
 
 
 
 
「ごめんね、待たせちゃって。ディアッカが邪魔するから…」
「手伝いの間違いだろ?」
「言ってなさいよ。…どうぞ、シェリーさん。お口に合えばいいんだけど。」
ことん、と目の前に置かれたソースは、とても美味しそうで。
「…ありが、とう。」
小さな声で御礼の言葉を呟いたシェリーに、ミリアリアはにっこりと微笑んだ。
 
 
 
その後もパーティーはつつがなく進み、デザートの用意の為ミリアリアは席を立った。
「あ、お手伝いします」
シホがそう言って立ち上がり、ミリアリアの後を追いキッチンへ向かう。
「あ…」
女性一人残されたシェリーは、自分も何かすべきではと思い、躊躇った。
これまでミリアリアにして来た事を考えると、素直にキッチンに立ち入る事などとても出来ない。
そもそも、家事自体ろくにした事もないシェリーには何をすればいいかも分からなかった。
 
ミリアリアが一瞬振り返り、シホに何か指示する。
そして、準備されていたであろう皿とフォークを持ち、足早に戻って来た。
 
「シェリーさん、これみんなに配ってくれる?」
 
目の前に重ねられた皿にシェリーは思わず目を丸くし、ミリアリアを見上げた。
「あと、お酒飲めます?紅茶は嫌いじゃないかしら?」
「え?あ、ええ、多少なら。紅茶も嫌いじゃないわ。」
てきぱきとした口調に押され、反射的にそう答えるとミリアリアは笑顔で頷いた。
「わかりました。じゃあこれ、悪いけどお願いします」
 
 
自分にーーー気を使ってくれたの?
シェリーはキッチンに戻って行くミリアリアの姿をしばし見つめた後、置かれた皿に手を伸ばした。
 
 
ミリアリアの用意したデザートがテーブルに並ぶと、ディアッカがそれを手早く切り分け配った。
「シェリー、はい。あとアリーのはこっちな。」
「あ…ありがとう」
手渡されたのは、チョコレートチーズケーキ。
ディアッカのリクエストでミリアリアが作ったものだった。
「これ、すっげぇ美味いから!あ、でも俺の好みに合わせてくれてっから、甘さは控えめかなー」
「さりげなく惚気るな。」
イザークの突っ込みに、アリーだけでなく思わずシェリーもくすりと笑う。
そんなシェリーに気付いたアリーが、ほっとしたようにまた微笑んだ。
 
「お待たせしました。」
 
トレーを手にしたシホがことりと置いたのは、耐熱グラスに入った温かいカクテル。
「ホット・ラム・ティーです。アルフォンスさん、帰りのエアカーは自動運転になさって下さいね。」
「ありがと。…イザークの彼女もしっかりしてんなぁ」
アリーの言葉にシホはぽっと顔を赤らめ、ディアッカはそれを見てついにやりと笑った。
 
 
 
 
 
 
 
007

ディアッカの変化にただただ驚くアリー。
それがミリアリアのせい、と気付いて複雑な気持ちになるシェリー。
仲の良い二人を目の当たりにし、そして予想もしていなかったミリアリアの優しさに触れて、
シェリーの気持ちにも変化が訪れます。

 

 

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2014,10,2up