フォトジェニック

 

 

 

 
カシャ、と思いの外大きく響いたシャッター音にびくりと体が強張る。
だが、それは杞憂だったようだ。
プラント、アプリリウスで行われた停戦協定後の歓談は盛況で、こちらを振り返るものなど誰もいなかった。
オーブの白い軍服を纏い、首からプレス用のパスを下げたミリアリアは、目立たない位置に移動すると再びカメラを構えてシャッターを切った。
 
 
オーブ軍第二宇宙艦隊アークエンジェル所属、ミリアリア・ハウ三尉は、同時にカガリ・ユラ・アスハ代表首長から特別報道官の任も与えられている。
表沙汰にはかつて戦場をめぐってジャーナリストとして活動した経験を買われ…ということになってはいるが、その実オーブから自由に動けないカガリの代わりに写真や通信で現状を伝えることが主な仕事だった。
とはいえ、今回撮影した写真はカガリを経由した後オーブの行政府を通し、きちんとした記録として残されることにもなっている。
これでようやく、戦争は終わった──。
ともすれば気が抜けそうになる自分を叱咤し、ミリアリアは懸命にシャッターを切り続ける。
だが、ふとした瞬間その指がぴたり、と止まった。
ファインダーの中に見たものは、緑色の軍服を纏ったかつての恋人の姿、だった。
 
記憶よりも背が伸び、精悍になった顔立ち。
思慮深さに溢れた紫の瞳。
少し長めの後ろ髪。
口元に浮かぶ柔らかな微笑み。
その全てに、意識を持っていかれそうになる。
 
もう終わった男だ。関係ない。今は仕事中で、私はこの歓談の様子をカガリに届けなければいけなくて、でも。
でも──無事でいてくれて良かった、と思うくらいは、許してほしい。
さらに目立たぬよう壁際に移動しながら、ファインダー越しにその姿を追いかける。
少し前を歩くのは確か彼の親友でありデュエルのパイロットでもあった、イザーク・ジュールだ。
ザフトの白服は確か隊長職以上に与えられるはずだったから、きっとあいつは今彼の下にいるのだろう。
綺麗な黒髪を緩くまとめた女性兵が二人の元へやってきて、イザークに耳打ちをする。
赤服の女性はここに来るまであまり見かけなかったから、きっと彼女もエリートなのだろう。
周囲に軽く一礼し、出口に向かう彼らをファインダー越しに追いかける。
自然と、指がシャッターを押していた。
あいつの写真なんてカガリに送る必要もないのに。フィルムの無駄遣いなのに。でも止められない。
同じ空間にいても、話しかけるつもりなどなかった。もうそんなことができる関係ではない。
断ち切ったのは、ミリアリアなのだから。
頭ではわかっているのに、談笑しながら扉の向こうに消えようとしているその姿を何枚も何枚もカメラに収める。
あと一枚。それでもう終わりにしよう、そう思った瞬間。
 
 
ファインダー越しに、目線が、合った。
 
 
カシャ、とシャッターが切れ、我に返った時もうその姿はなかった。
だがミリアリアの脳裏にはくっきりと男の顔が刻み込まれた。
男は──ディアッカ・エルスマンは、かつてアークエンジェルで嫌という程目にしたままのシニカルな笑みを浮かべ、ミリアリアを見ていた。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
昨年のスパークとC93にて配布したフリーペーパー(配布終了しました)の再録になります。
あまり多く刷っていかなかったので、思いの外早く無くなってしまいました;;
どれだけ書くんだってくらい書いている再会ネタですが、短くまとまって個人的には満足しています。
それにしても、この後二人はどうなったのでしょうね(笑)
それぞ想像するのも楽しみの一つです^^

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2018,2,16拍手up

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