He realized that he’s not alone anymore.

 

 

 

 
年度末というのは、それが一般的な会社でも軍隊でも忙しいことに変わりはない。
『あとは俺が引き継ごう。…待っているのだろう?あいつらが』
自分とミリアリアの次くらいに息子に目がない隊長殿のありがたいお言葉に甘え、ディアッカは家路についていた。
早足で歩きながら、なんとなく夜空を見上げる。
 
──去年の今頃は、頭の中がぐちゃぐちゃでひどく取り乱していたっけ。
 
予定日より大幅に早まった陣痛。麻酔が効かず真っ青な顔で苦しむミリアリア。
ただ手を握って励ますことしかできない自分はどれだけ無力なのだろう、と拳で壁を殴りたくなったものだった。
結局ミリアリアは麻酔の投与を打ち切ることを決断し、自然分娩でリアンを出産した。
医療の道を志すと決め、学びを深めて行けば行くほどミリアリアの精神力には感服するばかりだった。
『いつもあなたに守ってもらってばかりいるから、こんな時くらい自分ひとりでも頑張りたいんだ、って。そばにいて貰えれば確かに心強いけど、母親になるんだからこんなことで負けてなんていられない』
今思えば、あの時自分はとても情けない顔をしていたのだろう。
だからミリアリアはあんなふうに言ったのだ。ここから先は私の戦いだから。ひとりでも頑張れるから、と。
自らが地獄のような苦しみと不安に襲われている時に、他者を気遣うことなどそう簡単に出来るものではない。だが、ミリアリアはそれをやってのけた。
それほどまでに愛されていることを、自分の妻の優しさと強さを、ディアッカは今でも誇りに思っている。
 
「リアン…寝ちまったよなぁ」
 
時計に目を落とすと、二十二時を回るところだった。
一年かけてようやく整ってきた生活リズムを、ミリアリアがそう簡単に崩すとは思えない。
とはいえ、リアンはそれほど夜泣きもせず、まとまった睡眠も生後三ヶ月までにはしっかり取れるようになっていたので、狂ったリズムを整える必要があったのは親である二人の方だったのかもしれない。
毎日毎日新たな成長を見せてくれるリアンを見守っていくだけで、あっという間に過ぎてしまった一年。
数年前までだったらきっとこの時間、遊び慣れた女たちや悪友とパーティーに興じていたかもしれない。
日が変わった瞬間弾けるクラッカー、水のように扱われる高級なシャンパン、たくさんの女たちからのプレゼントは物であったり身体であったりして。
だが、夜が明ければパーティーもお開きだ。
隣に眠る女はそのままに朝焼けを眺めながらアパートまで一人、歩いた。
誕生日当日は一人で過ごすことが多かった。それか、任務。
どれだけ馬鹿騒ぎしていても、心はどこか冷めていた。一人で過ごすことも嫌いではなかったし、苦でもなんでもなかった。
そばにいてほしい、と思う相手が出来るまでは。
と、唐突にポケットの中の端末が震え、ディアッカはそれを取り出し──目を丸くした。
 
 
『リアン、まだ起きてるから。一緒に待ってるね』
 
 
簡潔な文章に込められた愛を確かに感じ、思わず口元が緩む。
返信画面を表示させ、ディアッカは素早く指を動かした。
 
『あと五分くらいで着く。早くミリィとリアンに会いたい』
 
もう、自分は一人ではない。ミリアリアと、二人の宝物であるリアンが自分を待っていてくれる。
それは、決して手にすることなどないと思っていた“命より大切なもの”。
メールがきちんと送信されたことを確認して、ディアッカは脇に挟んでいた荷物──両親の次くらいにリアンに目がないイザークからの誕生日プレゼントを抱え直し、歩みを早めた。
 
 
 
 
 
 
 

 
ギリギリ!間に合いました!!ディアッカお誕生日お祝い小噺@2018でございます(●´艸`)
サイト長編「天使の翼」とリンクしたお話になっております。
ミリィがほとんど出てきていないのですが…ディアミリです(断言)
短いお話となってしまいましたが、愛はたっぷり込めました。
タイトルの意味は「彼はもうひとりではないと気付いた」です。
守るべきものを見つけ、家族を持ったディアッカの心の変化を表現出来ていたら嬉しいです。

サイト開設から4年となります(あっという間!)が、ディアミリ熱は未だ覚めるところを知りません。
どれだけ他に好きなものが出来ようと、ディアミリはもはや別格、殿堂入りです♡
Happy Birthday to Dearka!!
ディアミリを愛する全ての方に捧げます。
 
 

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2018,3,29up