私たちのリアル

 

 

 

 
そぉっと手を伸ばしてソレに触れる。途端に脈打ったソレを思わずまじまじと見つめてしまい、我に返って慌てて目を逸らす。
どうすればいいかなんて、はっきり言って分からない。だけど決めたのだ。私だってディアッカに何かしてあげたい、そう思ったから。
それなのに。
 
 
「……っ、あー、やっぱ今日はいいわ。ごめん」
 
 
こんな風に言われたら、この想いはどこに向ければいいのか。
 
「…なんでよ。どうしてしちゃだめなのよ」
「いや、なんつーかさ…無理に急ぐ必要もねぇじゃん?」
 
これじゃまるで馬鹿ではないか。自分から買って出て、土壇場になって辞退されて。好きだから、したいのに。無理なんかしてないのに。
馬鹿にしてる。馬鹿に、してる!
そりゃミリアリアはディアッカが初めての相手で、そういった知識も少ない。
彼が今まで相手にしてきたであろうコーディネイターの恋人達と比較されたら、ひとつとして勝てる要素などない。
だから、触れさせてもらえないのだろうか。身体にも、心にも。
 
「他の…女のひとは良くて、なんで私はだめ、なのよ」
「な、おい、ミリアリア?!なに泣いてんだよ!」
「う、るさいっ…ばか…っ」
 
ミリアリアはディアッカのことが好きだった。
恋人を亡くしたばかりで薄情かもしれないけれど、恋をしてしまった。
だからコロニー・メンデルでの戦いの後憔悴していたディアッカが心配で彼の元を訪れ、そのまま、抱かれた。そのことに後悔はない。
それからもディアッカは度々ミリアリアの元を訪れ、関係は続いていた。
好き、と面と向かって伝えたわけではない。ディアッカもそういった言葉は一度も口にしていない。
「…っ、ああ、もう!」
その声に混じるのは苛立ちか困惑か、もしくは別の感情か。
ひく、と嗚咽を漏らしそっと視線を上げると、途端に紫の視線に縛り付けられた。
「来いよ」
「っ、や」
逃げを打つもそれは叶わず、向かい合わせになるよう腿の上に乗せられる。
 
「他のオンナって、なに?」
 
答えることすら惨めすぎるストレートな問いに、ミリアリアは思わず目を逸らした。
「…もう、いいから。離して」
「よくない。それに、変な誤解されたままってのは性に合わないし?」
「ちょ…っ」
ディアッカの体を跨いでいるせいで強制的に開かされた足の間に指が滑り込み、ミリアリアは羞恥に頬を染めた。
「…やめ、て。もういい、って言ってる、でしょ…!」
「俺はよくないって言ったじゃん」
自分は触れさせてもくれないくせに。胸の内を見せてくれないくせに。
 
『ディアッカの相手は大変なんじゃない?彼、奉仕させるのが好きだから』
 
小馬鹿にしたような声を思い出し、悔しさで止まりかけていた涙がまたぶわりと溢れ──ミリアリアは拳でどん!とディアッカの胸を叩いた。
「さ、触らせてもくれないくせに自分ばっかり…私をおもちゃか何かだと思ってるの?!」
アメジストの瞳が大きく見開かれたが、そのことに気が付けるほどの余裕がミリアリアにはなかった。
 
 
「そりゃあんたが今まで相手してきた女の人たちに比べたら私なんてただのちんちくりんでしょうね!でも…でもっ、ちんちくりんにだってプライドくらいあるんだから!誰だっていいわけじゃないんだから!」
 
 
ほんとうに馬鹿みたいだ。自分ばっかり好きで、勘違いして。ディアッカの気持ちも聞いてないのに。
「……ミリアリア」
「なによ!」
抑揚のない声に喧嘩腰で返事をした、次の瞬間。
いきなり目の前が真っ白になり、息が出来なくなった。
それがディアッカにきつく抱きしめられているせいだと理解するまでにしばしの時間を要したのは仕方のないことだろう。
 
 
「──簡単に、させられるかよ」
 
 
落とされた言葉の意味が、よく分からない。
「なに、が」
ようやく発した声は掠れてしまっていたが、これも仕方ない。だって息が出来ないくらいきつく抱き締められているのだから。
 
「だから!今まで相手にしてきた奴らと比べ物になんないくらい大事なオンナに簡単にさせていいことじゃねぇだろ!分かれよそんくらい!」
 
いつもよりも早口で、押し殺したような声に驚き顔を上げようと思ったが、さらにきつく抱き締められてそれは叶わなかった。
大事な、女?比べ物にならない?何が?ディアッカは何を言ってるの?
いよいよ回らなくなってきた頭に疑問符がいくつも浮かんだが、どれも言葉にすることは出来なくて。
ただひとつ気づいたのは──密着しているディアッカの体が、とても熱いことだった。
 
「わかんないわよ…そんなの。ちゃんと言葉にしなきゃ、わかりっこないじゃない!」
「お前だって何も言ってねぇじゃん!」
「私はちゃんと態度で示したわよ!ちょっと気になる程度の人に身体を許すような女だとでも思ってたの?言ったでしょ!誰だっていいわけじゃない、って…」
 
胸につかえていた想いを吐き出しながらも、ミリアリアの声は急激に窄まっていった。
……もしかして私、すごく恥ずかしいこと口走ってない?
誰でもいいわけじゃない。それは即ち、おまえでなければ駄目なのだ、と同義で。
いつの間にか緩んでいた腕の中でそろそろと顔を上げ、ミリアリアは目を丸くした。
そこには褐色の肌をうっすらと赤く染め、そっぽを向いたディアッカの顔。
てっきり揶揄われるとばかり思っていたミリアリアは、きょとんとそんな年相応の表情を見上げることしか出来ないでいた。
 
「……あの、ディアッカ?」
「……俺の評判聞いてんなら信用性低いかもしれないけどさ。今はもう、誰だっていいわけじゃないんだ、俺だって」
 
──それは、つまり。
確信を得たつもりでも、否定されるのが怖かった。
だが、ミリアリアは問うた。そうせずにはいられなかった。
 
 
「あんたは、私のこと、好きなの?」
 
 
碧と紫の視線が、その瞬間絡み合う。
「好きだから、抱いた。お前がトールってやつを大事に思ってることも分かってる。それでも…好きになっちまったから、止められなかった」
その言葉ひとつひとつが、まるで砂に吸いこまれる水のようにミリアリアの心をただ、満たしていって。
はらはらと零れ落ちる涙もそのままに、赤くなった頬へと唇を寄せるとディアッカが息を飲んだのが分かった。
この恋は多分、普通じゃない。
ミリアリアにとっての恋は、もっと穏やかで暖かなものだった。
命の保証がない中で、他人の言葉に踊らされたり態度一つに一喜一憂したり。
それでも──こんな馬鹿みたいな形で愛情を確かめようとしてしまうくらいにはディアッカのことが好きなのだ。恋をしているのだ、彼に。
だったら、伝えなくちゃいけない。甘えてないで、きちんと。
 
「私の身体も気持ちも…大切にしてくれて、ありがとう。私もあんたのことが好きよ、ディアッカ。だから…もっと触れたい。あんたのことが知りたいの」
 
ふわり、と細められた紫の瞳は綺麗で、切なげで。ああ、やっぱり好き、とミリアリアは実感する。
「…だめ、かな?」
返事は、今までで一番長くて甘い、キスだった。
 
 
 
 
 
 
 

 

 
久しぶりの突発小話です。R-15かな?と思いましたが至ってぬるいので制限はなしで(笑)
AA時代、両片思い設定のディアミリです。冒頭ちょっとお下品です。
お互い好きで大切だからこそすれ違ってしまう感情を書き表せていたなら嬉しいです。

ディアッカさんはモテモテなので、エターナルにも彼を狙ってる女の子がいるんじゃないかと思うんですよね。
でもそんな中、ナチュラルの女の子に夢中!という噂が流れてしまう。
そりゃあちくちく言われちゃいますよね…。頑張れミリアリア。

いつもサイトに足を運んで下さり、ありがとうございます!
なかなか更新もままなりませんが、どうかお楽しみ頂けますように!

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2018,3,13up

お題は「fynch」様よりお借りしました