おひさまのかおり

 

 

 

 
日当たりの良い庭で洗濯物を干していたミリアリアが部屋に戻ると、さっきまでいたはずの夫の姿が見えなかった。
 
「ディアッカ?あれ?…もう!」
 
部屋に吹き込む暖かな風が心地よかったのだろうか。それとも、好物ばかり並べた朝食を食べ過ぎて眠気に襲われたのだろうか?
ディアッカはソファですやすやと眠ってしまっていた。
今日は久しぶりの二人揃っての休暇。
嬉しくて、つい昨夜は夜更かしをして──少しだけ体は怠かったが、心は満ち足りていた。
何度も喧嘩や別れを繰り返して、それでも想いは断ち切れなくて、たくさん悩んでそれでも生涯を共にしたい、と夫婦になって。
こうして誰に憚ることもなく愛を与え合う幸せを、ミリアリアは噛み締めていた。
そう、こんな風にディアッカの寝顔を好きなだけ眺めることが出来るのも、自分だけの特権なのだから。
不規則な勤務の中休みをもぎ取るために奔走していたディアッカは、きっと想像している以上に疲れていたのだろう。
……昨夜、あんなに長い時間愛を交わしたせいかもしれないけれど。
「こんなところで寝て、お腹冷やしても知らないんだから」
昨日洗っておいたブランケットをそっとディアッカの体に掛けると、ミリアリアは静かにその場を離れた。
 
 
 
***
 
 
 
ディアッカを起こさないようリビングでの作業は後回しにして、寝室のシーツを取り替えたりバスルームの掃除をしていたら、いつの間にか結構な時間が経っていた。
 
「…まだ眠ってるのかしら?」
 
そっとリビングを覗くと、聞こえてきたのは相変わらずの安らかな寝息。
無防備な寝顔を覗き込み、思わずくすりと微笑む。
こうやって見れば、まだだいぶ少年ぽさが残っている気がする。
昨夜はあんなに意地悪だったのに…とつい記憶を辿り、ミリアリアは頬を染めた。
……昼間から何てこと考えてるのかしら、私。
ミリアリアはほぅ、と少しだけ熱のこもった溜息をつき、ディアッカの肩からずり落ちかけていたブランケットを掛け直した。
 
 
心地良い風に踊る洗濯物は、干した時間が早かったおかげですっかり乾いていた。
ふわふわで良い香りがするタオルに目を細め、足元のカゴに次々とそれらを放り込む。
と、背後から伸ばされた褐色の腕が隣に並んでいたシャツを掴み、ミリアリアは驚いて振り返った。
 
「起こしてくれればいいのに」
「だって気持ち良さそうに眠ってたんだもの。おはよう、ディアッカ」
 
まだ少し気怠げな夫にミリアリアはにっこりと微笑みかけた。
「おはようはさっき言ったろー」
「何回言ったっていいじゃない。あ、そっちのも取ってくれる?このカゴに入れてくれたら部屋に運ぶから」
「りょーかい…っと、うわ!」
ざあっと風が吹き、二人の髪や服、そして洗濯物を揺らす。
「風、強いわねぇ…きゃあ!」
不意にスカートがめくれ上がり、ミリアリアは慌てて裾を抑えた。
「お、今日はピンク?」
「なっ!どこ見てんのよ、もうっ!」
「いや今更だろー。ってすみませんぶたないでくださいアナタ様っ!」
二人はふざけ合いながら、風にたなびく洗濯物を取り込んでいく。
ひと段落したところで、ディアッカは背後からミリアリアを抱きしめ髪に顔を埋めた。
 
「ちょ、くすぐったい!」
「あー、やっぱこの香りだ」
「え?」
「洗濯物の匂いとさ、ミリィの匂いが一緒だなって」
 
きょとんと目を見開いたミリアリアは合点が言ったように「ああ…」と笑った。
 
「これはね、おひさまのかおりなの。洗濯物も私もずっとおひさまの下にいたでしょう?まぁそれだけじゃなく、石鹸の香りも混じってるだろうけどね」
「ふぅん…なんか、いいな。これ」
「え?ちょ、苦しいわよ!」
 
先程より強く腕を絡められ、ミリアリアは抗議の声を上げた。
 
 
「なんか俺、今すっげぇ幸せかも」
「……どうして?」
「目が覚めたらミリィがいて、美味い飯作ってくれて、もういっぺん寝て目が覚めたらおひさまのかおりのミリィがいて、俺のそばで笑っててくれてさ。最高じゃね?」
 
 
ちゅ、と今度は頬にキスを落とされると、柔らかなディアッカの髪がくすぐったくてミリアリアもまた笑顔になった。
 
「確かに最高ね。ついでに最高のブランチはいかが?旦那様」
「それはミリアリア自身?」
「…その案件については検討しておきます。お腹すいたでしょ?簡単なものだけど作るから、家に入りましょ。あ、カゴお願いしていいかな?」
「もちろんですよ、アナタ様」
「なんで私たち、お互い様付なのかしら」
「いーんだよ、それで幸せなんだから」
 
軽々とカゴを持ち上げてリビングに上がり込むディアッカの背中を愛おしげに見つめながら、ミリアリアはふんわりと微笑み小さく言葉を紡いだ。
 
 
私も、幸せよ。ディアッカ。だいすき。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

サイト長編「空に誓って」と「天使の翼」の間くらいにあたるお話です。
Twitterの方で縁あって仲良くさせて頂いているディアミリクラスタ様、よしかずさん(https://www.pixiv.net/member.php?id=1856085)のとあるイラストに触発されて書き上げ、寄稿させて頂きました。
今回許可を得てこちらにアップさせて頂きました。よしかずさんありがとうございます!
本当に素敵なディアミリイラストがたくさんなので、ぜひみなさんにもご覧になって頂きたいです♡
平穏で愛に溢れたディアミリを久しぶりに書いたのですが、すごく楽しかったです。
ディアッカは歯が折れるほどに幸せを噛みしめたらいいよ…!
最後までお読み下さり、ありがとうございました!

 

text

 

2017,7,21拍手up

2017,10,13up