After the nightmare

 

 

 

 
イザーク・ジュールは苛立っていた。
副官であり、親友でもあるディアッカの態度が、なぜか朝から不審だったからだ。
うっとりしたような顔をしていたかと思うと、自分が話しかければ途端にそれはムッとした表情に変わる。
必要以上につっけんどんな態度を見せるディアッカに、初めは妻であるミリアリアと喧嘩でもしたのだろうか?と思った。
ならば様子を見るしかない、と思ったが、いい加減限界だ。
陽が傾き始めたこんな時間になっても、ディアッカの起源は一向に回復の兆しを見せなかったのだから。
 
 
「おい、ディアッカ」
「…何」
「何、じゃない。朝から一体なんだというのだ貴様は!」
「…なんでもねぇよ。こっちの問題だ」
「その割にはだだ漏れだがな!俺が何をしたというんだ?」
「だーもう!うるせぇな!夢見が悪かったの!」
 
 
意外な言葉にイザークは、一瞬目を見開いた後訝しげな表情になった。
「…その割にはだらしのない笑みを浮かべていたが?」
「そっちはリアルな話なんだよ!」
「ああもう意味がわからん!いいから口を割らんか!さっさと説明しろ!」
イザークの剣幕に、ディアッカは小さく舌打ちをすると観念したようにぽつぽつと語り出した。
 
 
 
***
 
 
 
「はぁ?!何だそれは!悪趣味な!」
「悪趣味とは何だよ!人の女を寝取っといて良く言うぜ!」
「どうせお前も興奮したんだろうが!くだらん!そんな事で一日中不機嫌だったのか?」
「あのなぁ!目の前で自分の嫁さんが別の男に抱かれてたらお前どう思うんだよ!たとえそれが…」
「何とも思わん!とっとと気持ちを切り替えられんのか貴様は!」
 
 
ばさばさばさ。
書類の散らばる音に、二人ははっと振り返る。
そこには顔面蒼白なシホが、これでもかと言う程目を見開いて立っていた。
 
「……わたし、帰ります」
 
くるりと背を向け脱兎のごとく部屋を出て行ったシホを二人は呆然と見送ることしか出来なかった。
 
 
「…おい、もしかして今の話、あいつ聞いてたんじゃねぇの?」
「…は?」
「夢の話だ、って肝心な部分も聞いてりゃいいけど…あの様子じゃ、どう誤解されてもしょうがねぇぜ?」
「……おい、ちょっと待て」
 
 
俺の女を寝取る。
目の前で嫁が別の男に抱かれる。
くだらん。どうせお前も興奮したんだろうが。
何とも思わん。とっとと気持ちを切り替えろ。
 
「あー…まぁ、受け取り方は人それぞれ?」
「馬鹿者!シホがどう受け取るかなどひとつしか考えられんだろうが!」
「いや、だってなぁ…。ていうか、追いかけなくていいわけ?シホの事」
「…っ、俺も今日はもう上がる!ディアッカ、元は貴様のせいなのだから、この書類と残った仕事は片づけておけよ!」
「はぁ?!少なくとも半分はお前のせいだろ!」
「うるさい!あとひとつ言っておくが!俺はミリアリアに友人以上の感情を抱いた事などない!せいぜい妹止まりだ!くだらん夢に振り回されていられては俺が迷惑だ!じゃあな!」
 
ばたばたと隊長室から走り去るイザークをぽかんとディアッカは見送り…ぷ、と吹き出す。
「妹止まり、ねぇ…」
ミリアリアに対するイザークの態度は、フェミニズムから来るものだとばかり思っていたが、それだけではないらしい。
親友が自分の愛する妻の事をそんな風に思っていてくれた事が何だかくすぐったくて、でも嬉しくて。
ディアッカは先程までの苛立ちが嘘のように、隊長室で一人、くすくすと笑った。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

こちらは、以前頒布したオフ本「Nightmare-side D-」の後日談としてペーパーにしようと思っていた作品です。
時間がなく断念してしまったのですが、ありがたいことに本の方も完売いたしましたので、拍手小噺としてUPさせて頂きました。
「Nightmare-side D-」ですが、簡単にご説明するとディアッカが見た夢のお話です。
夢の中でミリアリアがイザークに…と言うトンデモ話なのですが、個人的にはすごく気に入っています!
さて、このあとイザークは無事シホの誤解を解けるのでしょうかね(笑)
短くて恐縮ですが、お楽しみいただければ幸いです!

 

 

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2017,4,26拍手小噺up

2017,7,21up