かたちなんて必要ある?

 

 

 

 
「今まで一番嬉しかったプレゼント?そうねぇ…」
ミリアリアは首を捻り、ひとしきり思案した。
 
 
意地を張って壊してしまって、徹夜で治した腕時計。
どんな時にも心の支えになってくれた、花のトワレ。
自分だけのために作られた婚約指輪。
自分を想って選んでくれた結婚指輪。
心のこもった手作りのリングピロー。
天使が矢をつがえた時計。
誰よりも自分を愛してくれて、誰より愛しく思う男。
他にも、たくさん、たくさん。
 
 
そこまで考えたミリアリアは、ふと思った。
「ねぇラクス。かたちなんて、必要あるかしら?」
「……はい?」
驚いたように小首を傾げた今日の主役──ラクス・クラインに、ミリアリアはにっこりと微笑んだ。
「宝物、たくさんあるわ。これからも増えていくと思う。優劣なんて決められないくらいね。ラクスの手作りのリングピローも、ディアッカからもらった指輪も、同じくらい大切な宝物よ?」
「でもそれは…かたちのあるもの、ですわ?」
「うん。でも、それ以外にもあるのよ」
「まぁ。なんでしょう?」
水色の瞳に好奇心の光が灯る。
 
 
「言葉と時間、かな。こうしてラクスのお誕生日を祝えるこの時間もそうだし、一緒にトリュフを作ったあの時もそう。ずっと昔、素直になれなくて泣いてばかりいた私にオーブの浜辺でかけてくれた言葉も。ラクスの優しさや強さは、いつも私の背中を押してくれた。どれも、形には残らないでしょう?でも、私にとってはどれも大切な宝物なの」
 
 
その華奢な背中に、どれだけのものを抱えて彼女は立ち続けてきたのだろう。
父を亡くし、その父の理念を受け継ぎ、プラントの歌姫としていつだって平和と希望の象徴として微笑み続けるラクス。
キラという存在がラクスを支えているとしても、その重責はミリアリアの想像を超えたものであろう。
だから──こんな時だけは、屈託なく笑っていてほしい。
ラクスがラクスで居られる時間を大切にしてほしい。
ともに戦場を駆け抜けた仲間として、そして、友達として、ミリアリアは心からそう願うのだ。
 

「ミリアリアさん……ありがとうございます。本当に、その通りです。形のあるものも、そうでないものも……わたくしにとって、大切な宝物です」
 

そう言ってふうわりと優しく微笑むラクスは、本当に綺麗だった。
「ところで、どうして急にプレゼントの話になったの?何か変わったものでももらったの?」
もしかして、アスランあたりが新作のハロでも送りつけてきたのかしら?
縦横無尽にそこらを跳ね回っている球体を横目で見ながら問いかけたミリアリアに、ラクスは慌てて首を振った。

 
「いいえ、違いますの。その…もうすぐ、バレンタインでしょう?昨年はミリアリアさんに教えていただきながらトリュフを作りましたけど…今年はキラに、チョコレートの他にも何か…差し上げられれば、と思いまして…」
 

だんだん小さくなっていくラクスの声に、ミリアリアは目を丸くした。
「わたくし、このような身ですから一人でのお買い物もなかなか難しいでしょう?キラはごくたまにですけれど、街へ出るとわたくしに小さなプレゼントを買ってくださいますの。このネックレスもそうですわ」
白い胸元に控えめに光るピンク色の石は、とてもラクスに似合っていた。
キラってば、いつの間にそんなことができるようになったのかしら…。
自分の夫であるディアッカが一枚噛んでいたなどついぞ知らないミリアリアはそんなことを思い、また笑顔を浮かべた。
 

「キラなら、ラクスが選んだものだったらなんだって喜ぶと思うわよ?でも、そうね…いつでも身につけられるものならいいかもね。私も昔、オーブにいた頃ハウメアの護り石をディアッカのために用意したことがあるわ」
「まぁ!そうでしたの?ディアッカさんは今でもその石を?」
「ああ…うん、ドックタグのチェーンに通してあると思うわ」
「そうですか…それは是非、参考にさせていただきたいですわ!」

 
意気込むラクスがおかしくて、ミリアリアはまたくすくすと笑った。
「参考になるかはわからないけど…でも、それだけじゃなくて、二人だけの時間を取ったりとか、キラにはバレないようにバルトフェルドさんあたりにも色々相談してみたらどうかしら?あとはカガリとか」
「そうですわね。…そんな時間も全部、大切な宝物になりますわ」
「こんな時間が…いつまでも続くといいよね」
「……はい。そのためにも、わたくしたちはそれぞれが出来ることを精一杯しなければなりません。ミリアリアさん、これからもお力を貸してくださいね」
突然そんなことを言われ、今度はミリアリアが驚く番だった。
「わ、私なんて大したことできないわよ?!」
「いいえ、わたくしもミリアリアさんにはたくさん力をいただきました。傷つき悩みながらも前を向こうとする強さ、素直な想いを伝え、愛する人を守るべく立ち向かう勇気、そして愛する方に向ける無償の愛。どれも真っ直ぐで…わたくしには、たまに眩しく感じます」
「ラクス…」
「でも、それでいいのだと思います。人はそれぞれ皆違う何かを持って生まれてくるのですもの。みんな違って、みんないい。以前バルトフェルド隊長がキラにおっしゃっていましたわ」
 
 
みんな違って、みんないい。
 
 
どこかで聞いたことがある気がしたが、その言葉はミリアリアの心にすとん、と収まった。
「そうね。私もそう思うわ」
ちょうどその時、パーティールームのドアが開き、キラに伴われたイザークとディアッカ、シホが現れた。
 

「ほら、キラが来たわ。ここはいいから、ね?」
「はい、今日は本当にありがとうございます、ミリアリアさん。お忙しいのにこんなところまでいらしてくださって」
「気の置けない友達の誕生日パーティーにお呼ばれされるなんて、最高の日じゃない。こちらこそありがとう、ラクス。楽しんでね」
「はい!」
 
元気よく頷き、ラクスはぱたぱたとキラの元へと駆けていく。
そんな幸せそうな二人の笑顔を見ていたミリアリアの元にやってきたのは、ザフトの黒服に身を包んだディアッカだった。
 
 
「カードを忘れるなんてお前らしくもねぇな」
「うっかりしちゃったのよ。ありがとう、気づいてくれて」
 
 
今日は、ラクスの二十二歳の誕生日。
気の置けない仲間たちと祝いたい、という願いをラクスの側近たちは見事、叶えた。
アプリリウス中心部から一番遠いラクスの私邸は、暖かな光と笑い声に包まれている。
「で?いつ渡す?」
「私たち二人からのプレゼントだものね。一緒に渡したいから、ラクスがもうちょっとキラとの時間を楽しんでからにしましょ」
ミリアリアは席に置かれていたバッグから包みを取り出す。
リボンがかかった四角いそれの中身は、初心者向けの料理本。
簡単な夜食や軽食からお菓子まで、それほど手がかからず作れるものばかりが載っており、ミリアリアの愛読書のひとつでもあった。
 

「ペーパーレスのこの時代に紙の本なんて、びっくりされちゃうかしらね」
「いや?そんなことねぇだろ。友達からもらったもんは、なんだって嬉しいはずだぜ。ラクス嬢なら特に」
 

幼い頃から特別な教育を受け、同年代の友人が少ないラクスの環境を知るディアッカの言葉に、ミリアリアは笑顔で頷いた。
「あ、そろそろ良さそうよ。行きましょ、ディアッカ」
二人は顔を見合わせ微笑み合うと、祝いの言葉が書かれたカードをリボンの間にしっかりと挟み、ラクスの元へと向かった。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

久しぶりの拍手小噺にかこつけたラクス誕@2017です。
とか言いながら、ほのかにディアミリ風味なのですが(笑)
今回のお話には、今までの拍手小噺等、幾つかの作品内のエピソードを所々に入れ込んであります。
時間軸的には、「空に誓って」終了からおよそ一年後くらいの設定です。

pixivにはこちらのみアップしておりますが、別視点のお話もございます。
ラクスとミリアリアの立場は天と地ほど違いますが、互いの知らないことを教えあったり、たわいのないお喋りや恋バナをしたりできる友達ってすごく大事ですよね。
二人にはそんな関係であってほしいな、と思います!
Happy Birthday ラクス様♡

 

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2017,2,14拍手小噺up

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