はじめて

 

 

 

 
緊張してるのかしら?
こんな時だというのにそんなことを思い、ミリアリアはそっと自分に覆いかぶさるコーディネイターの顔を覗き込んだ。
 
「あの……ディアッカ?」
「っえ?な、何?」
「ええと…」
 
いつまでこうしてるの?と直球で聞いても良いものなのだろうか。
中途半端に脱がされた軍服が途端に恥ずかしくなり、ミリアリアは目を泳がせた。
「あ、いや、ごめん。どっか痛い?」
痛いも何も、互いに上半身の衣服を脱いだだけだ。
…まさか、そんなわけないわよね。だってアスランさん、ディアッカは昔から女には不自由してなかったって言ってたし。
そう、彼に全て任せればいい。
信頼しきった瞳でディアッカを見上げ、ミリアリアは勇気を出して問いかけた。
 
 
「こ、このあとどうしたらいいのっ?」
 
 
一瞬の沈黙の後、ディアッカが息を飲むのがわかった。
 
「あ?あー、その」
「……もしかして、あんた、まさか」
 
ぽろりと疑問を口にしてしまい、ミリアリアは慌てて口元を押さえる。
そしてディアッカはと言うと──なんと、かあぁ、と顔を赤くし、さっと目を逸らしたのだ。
「ちょ、ちょっと待って。一旦落ち着きましょ」
逞しい褐色の胸を押し、がばりと起き上がる。
シーツを引き寄せてとりあえず胸元を隠し視線を上げると、ディアッカはあぐらをかいてがしがしと頭をかきむしっていた。
 
 
「ディアッカ……もしかしてあんた、はじめて……なの?」
 
 
遠慮がちに再び問うと、がくりと項垂れたディアッカが大きなため息をついた。
 
「だってアスランさんもダコスタさんたちも、あんたのこと相当な遊び人だって…」
「……あのなぁ。イメージと現実は必ずしも一致するもんじゃねぇんだよ!ったく、どうせ俺が前にグラビアとか眺めてたからアスランの野郎が勝手にそう思ったんだろ」
「いつも違う女の人とデートしてた、って…」
「デートぐらいはしてたさ。だけど実際そういうことしてみたい、と思うような女がいなかったんだからしょうがねぇじゃん!」
 
なんで私が怒られてるんだろう?
ちょっとだけ癪に障ったが、それよりもミリアリアは胸にこみ上げる想いを伝えたくて、ディアッカの方へと身を乗り出し、そっと蜜色の金髪を胸に抱いた。
 
 
「な、おい!」
「…ごめんね。悪気はなかったの。私も…その、はじめて、だから。どうしたらいいか分からなくて…」
「……マジ、で?」
 
 
心底驚いた顔で自分を見上げるディアッカは、まるで叱られた子犬のようで。
ミリアリアの胸に愛おしさがこみ上げた。
 
「コーディネイターでも、はじめてのときは緊張するのね」
「そりゃそうだろ。やったことねぇんだし。…つーか別に緊張してねぇし!」
「押し倒しておいて固まっちゃったのに?」
 
くすくすと笑みを漏らすミリアリアを恨めしげに見上げていたディアッカだったが、きらり、と紫の瞳を輝かせた次の瞬間、一気に攻撃に転じた。
「きゃあ!」
「経験はなくても、知識はある、ってね。てことで、仕切り直しな?」
ちゅ、と音を立てて頬に唇を落とされ、ミリアリアの顔が赤く染まる。
 
 
「私なんて知識すら乏しいわよ…」
「んじゃ、研究しようぜ?これから」
 
 
都合のいい言葉にミリアリアは苦笑し、今度は自分からディアッカにキスを送った。
 
「……なんだか、二人ともはじめてって…ちょっと、嬉しいかもしれない」
 
互いに互いしか知らない。
ディアッカの前評判を聞いていたミリアリアにとってどうでも良かったはずのことが、今はこんなにも胸をときめかせるなんて。
花のような笑顔を浮かべるミリアリアの首筋に唇を這わせながら、ディアッカは小さな声で囁く。
「俺もさ…はじめてがお前で、すげぇ嬉しいんだけど…うまくできなかったら…ごめんな?」
「……一度しか言わないから、ちゃんと聞いてなさいよ」
細い腕をディアッカの背中に回し、ミリアリアもまた小さな声で囁いた。
 
 
「私も、嬉しい。あんたとならきっと、大丈夫だから」
 
 
そう言って腕に力を込めると、熱を帯びたディアッカの手と唇が動き出し、ミリアリアの口から切ない吐息が漏れた。
 
 
 
 
 
 
 
007

 

 

ぷらいべったーより再録。
AA時代終盤、晴れて恋人になった二人のある一日のシーン、です(笑)
ディアッカは経験豊富、がデフォかと思うのですが、実は知識だけ豊富で経験が追いついて
いない可能性も!?と思っておりましたw
一度書いてみたかったディアッカ童貞喪失話、満足です♡

 

 

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2016,10,17拍手up

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