もっとわがままに

 

 

 

 
「ねぇ、さっきキラと何話してたの?」
年も変わろうといった時間にそんな問いを投げかけられ、ディアッカは瞼を開けた。
腕の中のミリアリアの体温に眠気を誘われ、ぼんやりしていた頭をフル回転させ、何のことかと考える。
 
「……さっき?みんなで飲んでた時か?」
「うん」
 
ラクスの家に招かれ、イザークやシホ、サイとともに食事をしながら語り合ったのは数刻前のこと。
そういえばキラとMSの話をしたな、と思い出し、ああ、と声を漏らすといつになく真剣な顔をするミリアリアと目があった。
「MSの操縦の話とか…あと、なんていうんだろうな、不思議な話?」
「不思議…?」
「そ。あいつやアスランってさ、戦闘時急に動きが変わることがあったんだよな。撃墜率も上がってたと思うし、何より動きが違ってた。その時の話なんだけどさ」
「うん」
「何だっけかな…ああ、感情が高ぶった時だと思う、ってキラは言ってたけど、判断力とか瞬発力が自分でも分かるくらい上がるんだとさ。覚醒、っつーの?まぁ、あいつらが持って生まれた素質なんじゃねぇの?」
「羨ましい、って言ってたよね。そういうの」
「え?」
ディアッカはキラとの会話を思い出す。
今は平時とはいえ、ディアッカもMSのパイロットだ。
軍の上層部に認められ、パーソナルカラーの機体を与えられている自負もあり、腕に磨きをかけたいという思いがあるのも嘘ではない。
だから、確かにそのようなことを言ったかもしれない。
だが、なぜミリアリアがそんなことを気にするんだろう?
 
「まぁ…俺だってパイロットだからなぁ…あんな風に動けたら、って思わない、っつたら嘘になるけど、なんでお前がそんな…って、おい」
「……やだ」
 
ぎゅ、とカットソーの胸元を握られ、そちらに視線を向け──ほんの一瞬、息が止まった。
 
 
ミリアリアの碧い瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
 
 
「キラは確かにすごく強いけど…あんただって、充分強いわ。キラにないものだって持ってる」
「おい、ミリィ…」
「私は…そのままのあんたがいい。こんなこと、言っちゃいけないのはわかる、けど…そのままでいてほしい…っ」
 
零れる涙を乱暴に拳で拭い、そのまま胸に顔を埋めてしまったミリアリアを、ディアッカはきつく抱きしめた。
「不安になった?」
「…ちょっと、だけ…あの頃のこと、思い出しちゃって…」
管制官はある意味、パイロットの一番間近で戦況を把握できる立場にある。
モニタに映る情報を見ながら、ミリアリアはいつもどんな思いでいたのだろう。
あの頃の二人は、互いの想いに気づいていてもまだそれを表に出せるほど大人ではなくて。
精一杯の想いを込めてくれたであろう『気を、つけて』という言葉を聞いたときの気持ちを、ディアッカはまだはっきりと覚えていた。
 
「ごめんな。そういうつもりじゃなかったんだけどさ。無神経だった」
「ちが…!わ、私がバカみたいに深読みして、勝手に怖くなったりして…私がわがままなだけなの!だから謝らないで!」
 
腕の中で身を捩るミリアリアに、ディアッカはふわりと微笑んだ。
「わがままなのかもしれない。でもさ、めったにわがまま言わないお前がそういう風に言ってくれるの、すっげぇ嬉しい」
「……嫌じゃ、ないの?」
「ミリィに言われるのは全く嫌じゃない」
女の束縛もわがままも、大の苦手だった。
だからそういったそぶりを見せた女とは即座に縁を切ってきた。
それなのに、束縛されたい、と思ってしまうし、もっとわがままを言って欲しい、と思ってしまうのだ。ミリアリアに対してだけは。
そんなことを考えていると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。
時計に目をやると、0時をまわり日付が変わっている。
新しい年が、やってきたのだ。
ディアッカはまだ涙の残る目元にそっと唇を落とし、優しく囁いた。
 
「お前のなら、どんなわがままも聞いてやりたいの。OK?奥様」
「……甘やかしすぎよ」
「だって甘やかしたいんだもん。俺だってわがままだろ?だから気にすんなよ。それより…」
「え?」
「Happy New Year、ミリアリア。どんなお前でも愛してる」
 
少し赤くなってしまった目をそれでも大きく見開いたミリアリアは、次の瞬間はにかみながらも柔らかな笑顔を浮かべ、口を開いた。
 
 
「あけましておめでとう、ディアッカ。私も、愛してる」
 
 
そっと伸ばされた温かな手に引き寄せられ、触れるだけの優しいキスを贈られたディアッカは、その温もりを逃さぬよう、そっと抱きしめ柔らかな髪に顔を埋め、目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
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あけましておめでとうございます!
新年一発目の小噺です。
長編と一応リンクしている、夫婦設定な二人の年末年始でした。
ディアッカは種割れしないのかなぁ、いや、映画化でするのか(今年も絵馬に書いてこなきゃ!)などと考えていた時に思いついたネタでした。
短くて恐縮ですが、皆様にお楽しみいただけたら幸いです。
改めまして、サイトに足をお運びくださるすべての方々に感謝を。
こんなにも私に力をくれるディアミリという存在に感謝を。
今年もどうぞ、よろしくお願いいたします!

 

 

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2017,1,1up