「お嬢さん、お嬢さん」
大通りを歩いていたミリアリアは裏路地から掛かった声に胡乱気に目を向けた。
この手の裏路地に碌なものはいないのが相場だが、魔術師として研鑽の日々を送る者としては時に掘り出し物に出会うこともある。
今のところありふれた魔術師の一人であるミリアリアは警戒を怠らずに声の主の青年に近寄った。
ある程度の距離で魔杖を差し向ける。
「何か用かしら」
金髪を短く刈った男は小さな小瓶を差し出した。
「これ、何だと思う?」
小瓶の中身は赤黒い液体が詰まっていた。
まるで血を思わせるもの。
そして言い様のない悍ましいものを感じる。
「まさか……地返し?」
「ビンゴ」
地返し――ちがえしとは地から返す、つまり死人を生き返らせる秘薬とされている。
断定できないのは、地返しの血を使っても死ぬ前の人間に似つかわしいだけの屍しかできないからだ。
本物の“地返しの血”ならミリアリアにとっては喉から手がでる程欲しかった。忘れられない人がいるから。
ただ聞き及ぶ製法にゾッとするものがある。神に近いとされる七つまでの子供の生き血を満月の下で心臓を抉って取り出すのだ。その血と聖銀を溶かし反魂の呪を掛ける。術者の命を懸けた呪だ。
ここまでした地返しの血は例え欠陥品だろうと破格の富を齎す。屍でも会いたいものは逢いたいのだろう。
そして本物ならば寸分違わず生き返る。
彼が生き返るなら、と一瞬縋りつきそうになった。
だが、そこで一歩踏みとどまる。
「その禍々しい感じ、嫌なものだわ。私が屍で満足するとでも思った?」
「屍でいいからと夢見る人もいるんだぜ?」
「言いたいことはわかるけど製法が兎に角気に入らないわ」
喉元に魔杖の先を押し付ける。
「まぁでも紛い物でも地返しの血を持ってるなんて中々じゃない。他にも良いもの持ってるんでしょう?」
「ははっ……持ってるって言ったら?」
引きつった顔の男ににっこり笑いかけた。
魔杖の先には男の喉元が吹っ飛ぶくらいの術が既に組み上がっている。
「私が上得意になってあげてもいいわ」
「…………声掛ける人間間違えたわ」
「振っちゃってもいいのよ?なんなら魔術師協会の薬物取締部にあなたを売ってもいいし」
にこぉっと笑みを深くすると、男は両手を上げ降参の意を示した。
「わかったわかった!俺の都合のつく範囲で色々融通してやるよ」
「話のわかる人でよかったわ。私はミリィ。西方魔術師協会の子師(しし)よ」
それを聞いて男は顔を顰めた。
「げぇっ。下から数えた方が早い位の女の癖に度胸据わってんな」
「げぇっとはなによげぇっとは。私はさっさと正魔術師になってやりたいことがあるのよ」
ツンと言い切ると、男は何故か憐れむような悲しそうな目をした。
「屍でも会いたい人の敵討ち、ってところか」
ズバリ言い当てられミリアリアは内心焦った。
だがこの男の前で焦るのは気に食わない。
「女の秘密は訊かないものよ」
それ以上は何も言わないと言外に含ませ、ミリアリアは魔杖を下げた。
「で、私とあたなはビジネスパートナーよ」
「かなり一方的だけどね」
「どうあれあなたの呼び名が無いと不便だわ」
男の言い分を丸々無視しミリアリアにとっての事実を告げる。
「あなた名前は?」
「あ、あぁーそうだな。取り敢えずバスターとでも呼んでくれ。本名は漢女のひ・み・つ」
男――バスターが最後の一文字を口にした瞬間、下げていた魔杖で物理的にバスターの頭をカチ殴った。
アスカガサイトを運営しておられる「DauaneSarr」 繹雲(やくも) 様より
寄稿頂いたディアミリのパラレルファンタジー!
素敵な世界観にドキドキしました♡
やくも様、ありがとうございます!
こちらのお話、もしかしたら続きがあるかも…とのことなので、皆様と共に
私も楽しみに待っております(笑)
素敵なお話、皆様にも楽しんでいただければ幸いです!
重ね重ね、やくも様、ありがとうございました!
2016,11,23up
2016,12,9改稿